27話 ミスリル加工と力業
ミスリル加工の修行を始めてしばらく。
……現在の様子を、正直に白状すれば。
「わっ、また硬化しちゃったか。中々薄くできないな……」
修行は困難を極めていた。
ミスリルの加工が難しいと言われる所以は、魔力を通すと硬度が跳ね上がるという特性そのものにある。
魔力はこの世に生きる者全てに宿っているのだが、集中力を切らして魔力をほんの少しでもミスリルに流すと途端に硬度が跳ね上がって加工できなくなる。
更に武器にする前の純粋な生ミスリルだからか、一気に硬化すると最悪ヒビが入って使い物にならなくなってしまう。
「ブロンズソードの素材の銅も魔力加工された特殊な金属だけど、こっちは想像以上に厄介だな……」
アーティファクトを作った古代人は一体全体どうやってミスリルを加工し、武器の中に魔力の通う回路などをしつらえたのか。
「ミスリルを溶かして鋳型に流し込んでいたのか……?」
でも【聖剣】の素材にも使われるミスリルはそこいらの炎や魔術、スキルでは溶解させられないし、その程度で溶解するならそもそも結界なんて超魔力の固有能力は発動できないだろう。
だから取り寄せた専用工具も使いながらゆっくりと、慎重に加工していくしかないはずなのだが……。
「おっ、マスター! 今晩も励んでいるのか、調子はどうだ?」
「プラムか」
店から作業場に入ってきたのは、プラムだった。
様子からして、皆がやっていた店の掃除も済んだらしかった。
「この通り、中々難航してるよ。ミスリルの加工って思ってたよりずっと難しくてな」
「ふむ……しかし【精霊剣職人】のスキルを持つに至ったマスターがそう言うのであれば、他の職人に任せても同じ感想だろうよ。とは言え、ならば有識者に聞くと言うのは? 妾はミスリルを取り扱った経験のある凄腕に聞くべしと進言するぞ、マスター」
プラムの言うことはもっともだし、俺も当初はそうしようとも考えていた……けれど。
「ダメだな。現代でミスリルを加工できるとされる職人は全部で七人。【七星剣】って呼ばれる武器職人の頂点なんだけど……」
俺は先日の記憶を辿りながら、ゆっくりと言った。
「調べたら七人とも居場所不明で、最後に確認されたのが十年以上前って人もいる。一応その人が数年前に作ったと思しき武器が市場に出回ったって噂もあるけど……ともかく会うのは厳しそうだ」
「むぅ、それは弱ったな。その【七星剣】の職人を探して店を長く留守にしては本末転倒であるし。妾たちをミスリルで強化してくれると言うのは中々魅力的な話ではあるが……およっ」
プラムは俺が加工していたミスリルをじぃっと眺めていた。
「マスター、これは妾たちにどう使うつもりだったのだ?」
「ひとまず今のままの【精霊剣】たちをベースに、柄の一部とかに接合させようかなと。後は難しいかもしれないけど、刀身や鉄球の一部にも少し馴染ませられないかとも思っているんだ。でも何をするにしても、まずはかなり薄くしないといけないんだけど、それが中々な……」
そう伝えてから、俺は腕を組んで唸った。
こんな硬くて加工もしにくい特殊素材、どうしたもんかと。
それを見て色々と伝わったのか、プラムがこくりと頷いた。
「なるほど。それもよいし、恐らくそれが職人としての一番の正攻法だろう。でも……」
プラムはにやりと笑った。
まるでいたずらをする前の、子供みたいに。
「マスターには妾たち精霊が付いている。ならば正攻法以外も試すべきと勧める次第だぞ」
「って言うと?」
聞くや否や、プラムは【精霊剣】スカーレットモーニングスターになって俺の手の中に収まった。
「簡単な話だ、妾の力でミスリルを強引に叩き伸ばす。マロンやチョコでは分が悪いだろうが、幸い妾は打撃武器。ぺしゃんこにするのは大得意だ……あ、その前に」
プラムは赤く光ったと思いきや、モーニングスター特有の鉄球部分の棘を全て引っ込めてしまった。
「これでよし、ミスリルを穴あきにせず済むな」
「いや、これでよしって……」
最初から棘なんてなかったかのような様子だが、まさか形状変化も可能とは。
ここまでくると最早何でもありに思えてくるが、逆にそれでこそ常識外の【精霊剣】と言えるだろうか。
「さあ、マスター。妾を使ってこのミスリルを存分に薄くするがいい! ミスリルには魔力が通って割れないよう、妾の方で上手く調整してやるが……後はマスターの根気次第だ」
「これでも冒険者を目指していた時鍛えていたからな。根性くらいは見せる……さっ!」
そう言いながら、プラムを振って熱したミスリルを叩く。
通常のモーニングスターなら簡単に狙いが狂いそうだが、そこはプラムが気を効かせてくれたようで、ハンマーのように狙い通りの箇所に鉄球を叩き込むことができた。
するとミスリルはほんの少し、それでも凹んだのが目視できる程度には変化していた。
「よしよし……! これならミスリルを薄く伸ばせる、そうすればどうにか思い描いた形に加工できるかもしれない」
「うむ。ミスリルを熱していたとは言え、妾もこの程度の熱ならへっちゃらだ。この調子でガンガン薄くしていくぞマスター!」
「ああ!」
俺はプラムと共に、まずはミスリルを薄くしようとひたすらに叩き続けるのだった。




