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19話 【精霊剣職人】と温泉街

 店の扉に「しばらくお休みをいただきます」という旨の張り紙をした俺は、荷物の入った鞄を持って戸締りを確認した。


「よし、それじゃあ行こうか」


「はい、まいりましょう」


 俺はそれから精霊三人を連れて手近な駅馬車に乗り込み、街を出た。


「できればミアやサフィアも誘いたかったけど……街にいないし無理だったよなぁ」


 少し前、ミアやサフィアが長期の依頼で街を留守にすると言っていたのを思い出す。

 冒険者はそう言ったこともままあるから、仕方がないのだけれど。


「しかしよいではありませんか。ご主人さまとわたしたち【精霊剣】だけでゆっくりと話せる機会も、最近はあまりありませんでしたし」


「言われてみれば、マロンの言う通りかもな。ならせっかくだし、この旅は俺たち四人でちゃんと楽しむか」


 そう言うと、窓の外の景色を眺めていたプラムが「うむうむ」と強く頷いた。


「妾もマスターと遠出できて嬉しいぞ。それに【精霊剣】は主との絆を深めると魔力の波長も合ってより強力になると言うし、戦力強化の意味でも非常に良いと思う」


「いや、俺はしがない武器職人だから戦力強化はさておきなんだが……しかし絆を深めるとより強力にって、そうなのか?」


 三人に聞くと、チョコが答えてくれた。


「そう、間違いない。現に昨日ラルドと一緒に寝たから、今のチョコは元気いっぱい」


「……んっ、そういうもんなのか……?」


 一瞬頷きかけたが、起きた時にはチョコも熟睡してたし単にぐっすり眠れたからって話ではなかろうか。

 しかし実際、チョコは普段よりも眠たそうにしていないので調子がいいのは本当らしかった。

 また、俺の言葉にマロンが頷いた。


「ええ、そういうものですご主人さま。ですからこの先も英気を養いつつわたしたちとの絆を深めると言う意味で、色んな場所へ遊びに行くのが吉であるかと!」


「色んな場所へ、か。最近は店の稼ぎも良くて余裕もあるし、それもありだな」


 かく言う俺も、久しぶりの旅行で少しわくわくしている。

 店で頑張るのも充実していたが、こうして羽を伸ばすのも悪くないと感じられた。


「ラルドは仕事に生き過ぎだから、もっと遊ばせるようにチョコも頑張る」


 チョコはそう言いながら、両手をぐっと胸元で握っていた。

 決意も新たにといった雰囲気のチョコに、各々が微笑ましくなっていた。


 そんなこんなで持ち込んでいた菓子や軽食を楽しみながら精霊たちと話し込んでいるうちに、いつの間にか目的地に近づいていたようで。

 気がつけば、周りの風景が草木ばかりのものから建物がちらほら見えるようになってきた。


「ご主人さま、そろそろ到着でしょうか?」


「みたいだな。窓の外から大門が見えるだろ? あそこが今回の目的地だ」


 そうして、馬車も次第にその大門へと近づいていき。

 その手前で、ゆっくりと止まった。


「ふぅ……日が暮れる前には着けたな」


「ええ。道中で魔物も現れなくて何よりでした」


 皆と一緒に馬車から降りて、ぐっと背筋を伸ばす。

 目の前には、多くの人が出入りする大門が見えていた。


「人がいっぱい……!」


「ああ。あの門の先が温泉街、ガイアナだ」


 温泉街ガイアナは観光地としても有名な街だ。

 道の両脇には古くに東方から伝えられたという形式の旅館が並び、その造りの珍しさと傷や疲れを癒すとされる湯の効果から多くの客で賑わっている。


「おお、ここがガイアナか。妾好みの活気で満ちた街だ!」


「美味しそうな物もいっぱい……!」


 温泉に行こうと言い出したプラムが興味津々そうなのは勿論のこと、チョコは串焼きなどを売る露店を見ながら目を輝かせていた。


「散策するのは後にして、早めに宿を取ろう。まだ遅い時間帯じゃないし、今のうちにな」


 そう言って俺たちは、ガイアナの中を移動していった。

 ……と、その道中。


「……あらっ、精霊……?」


 ぴたりと足を止めたマロンは、人混みの中を見つめていた。


「マロン、どうかしたのか?」


「いえ……同族に似た気配を感じたのですが、どうやら気のせいだったようです。それにここは人も多いですから、魔力の質が精霊に似た者もいたのでしょう」


「なるほど、確かに周りに色んな種族がいるもんな。そういう人がいてもおかしくないか」


 周囲を見れば俺のような人間は勿論、耳の長いエルフや低身長ながらがっしりとした体つきのドワーフ、それに獣耳の生えた獣人からリザードマンのような種族まで。

 この温泉街は、本当に様々な種族の人たちで賑わっていた。


 それから俺は、三人を連れて温泉街の奥へと向かった。

 実は知り合いに会うために前にガイアナには来たことがあって、その際街の奥の方にある旅館に泊まったのだ。

 ちなみにガイアナの奥の方は閑静でゆったりとした雰囲気なので、ゆっくりするにはもってこいの穴場なのである。


「この辺りの宿なら静かに温泉にも入れるし、ちょうどいいだろ?」


「ええ、ご主人さまの疲れを癒すのにも良いかと」


 マロンにも同意をもらったところで、俺は前に泊まった「フウリン亭」と言う宿に入って部屋を取った。

 それから俺たちは、せっかく来たのだからとガイアナ散策へ行くことにした。


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