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10話 武器職人vs聖剣姫

「ラルド、一つ聞きたいのだがあなたの得物は何なのだ? あなたは剣を使うと聞いていたのだが……」

 

 サフィアの選んだ決闘場こと、街の外れにて。

 俺の真正面に立つサフィアはそんなことを聞いてきた。

 

「それはこれから見せる、マロン!」

 

「はい!」

 

 ぴょいっと飛んだマロンは【精霊剣】ブロンズソードに変身し、するりと俺の手の中に入った。

 その光景、サフィアは目を見開いた。

 

「なっ……人間が剣に!?」

 

「いえ、わたしことマロンはブロンズソードの精霊です。ご主人さまに造られし【精霊剣】、それがわたしの正体です」

 

 剣のまま自己紹介したマロンに、サフィアは「そうか、精霊か」と短く返事をした。

 

「世の中にはごく稀に精霊を宿した武器もあると聞くが、まさかあなたがそれほどの武器を作れるとは。……ただの【武器職人】という評価はいささか過小だったらしい」

 

 そう言って、サフィアは腰の剣に手を伸ばした。

 それからあわや剣が引き抜かれるというところで、木の陰から誰かが飛び出してきた。

 

「ま、待った待ったー!? ラルド兄さん、ちょっと待ったー!?」

 

「ミア、なんでここに?」

 

 よく見れば飛び出してきたのは、ミアだった。

 急いで駆けてきたのか、息が荒かった。

 

「お店の近くに住んでる人から、ラルド兄さんがサフィアさんに連れて行かれたって聞いて。まさかこれ、やっぱり決闘とか!?」

 

 慌てて止めようとしてきたミアに、サフィアは落ち着いた声音で言った。

 

「いや、命のやり取りではないから安心して欲しい。わたしは単に、マイングを下したというラルドの実力を知りたくなっただけだ」

 

 サフィアは事も無げな様子だったが、その手が腰の剣へと伸ばされているのを見ると、ミアの顔色が変わった。

 

「ちょっ……サフィアさん! 命のやり取りじゃないと言っても、まさかその【聖剣】を使うつもりですか!?」

 

「んなっ……【聖剣】!? 本物か!」

 

 サフィアが引き抜こうとしている獲物を見て、俺は体を硬くした。

 太古の遺跡から発掘されるアーティファクトの中でも希少とされる武器、【聖剣】。

 

 それらは一振りするだけで山を崩し海を裂くとされている、古代の超兵器だ。

 加えてこの街にいる【聖剣】所持者はわずか五名と前にミアから聞いたのを思い出す。

 それから……。

 

「……そうか、思い出した! ミアのいるギルドにも【聖剣】所持者がいるって話だったけど、それがサフィアだったのか」

 

「……って、ラルド兄さん忘れていたの!? ついでにサフィアさんは単騎で三つのダンジョンを攻略したS級冒険者だって、わたし前に飲みながら言ったよね!?」

 

 今更思い出しても遅いよ!? とミアは言いたげだったが、いやはや俺も思い出すのが今更だったとしみじみ思う。

 ……しかし【聖剣】と【精霊剣】がぶつかり合うとなると、一体どうなるのか。

 出来るだけ手早く済ませたいなと、俺はブロンズソードを握り締める力を強くした。

 

「……ミア、ラルド、そろそろいいか? 始めるに始められないのだが」

 

「ああ、すまない。そっちも構えてくれ」

 

 サフィアは頷き、腰の【聖剣】を遂に引き抜いた。

 すらりとした細身の銀剣、その柄には黄金の装飾が施されていてまるで儀礼用の宝刀だと思った。

 

 ……けれどその刀身に込められた魔力は規格外、適当に暴発させるだけでも街の一角が消し飛ぶレベルだ。

 一応魔力のこもった武器も取り扱っている身として、それくらいは分かる。

 

「では……参る!」

 

 サフィアが踏み込み、一気に距離を詰めてくる。

 十歩以上あった間合いは、一瞬でゼロになった。

 

「くっ……!」

 

 反射的にブロンズソードを振って、【聖剣】を受け止める。

 その途端、視界が揺れるほどの衝撃が体を襲った。

 

「な、何だこれ!? 無茶苦茶重いぞ……!!」

 

 剣の鍛錬は冒険者を目指していた頃に積んでいたとはいえ、マイングと戦った時同様、マロンの魔力で体が強化されていなかったら一撃で地に伏せられていただろう。

 

「まだまだっ!」

 

 サフィアはそのまま軽やかなステップを踏み、再度斬りかかってくる。

 しかしその剣戟は圧倒的に重い。

 あんな細い【聖剣】と華奢なサフィアの体から繰り出されているとは思えないほど。

 俺は強引に距離をとって、呼吸を落ち着けた。

 

「マロン、今の剣戟は何だ? 見た目以上に重い……!」

 

「恐らくは、あの【聖剣】の能力ですね」

 

「【聖剣】の能力……?」

 

 問いかけると、マロンはかちゃりと音を立てた。

 

「わたしがご主人さまに魔力を送って体を強化する、いわば魔力強化の能力を持つように。あの【聖剣】にも何らかの力があり、それで剣戟は重く、同時に使用者のサフィアさんは軽快に素早く動けるのでしょう」

 

「ほう。その【精霊剣】とやら、中々頭が回るらしい」

 

 サフィアの目が細くなった。

 なるほど、マロンの言ったことは的を射ていたと。

 

「ではこちらの【聖剣】の能力がばれきる前に、カタをつける!」

 

 サフィアの踏み込みが先ほどよりも早くなった。

 最早目で追おうとしても難しい速度。

 どう対応すればいいと感じた刹那、舌足らずな声が耳に届いた。

 

「……大変そうだし、チョコも手伝う」

 

 チョコはブラッククロスボウに変身すると、マロンを握る右手とは逆の左手に収まった。

 

「あの人の動きを予測して、先回りするように撃ってみて」

 

「……よし!」

 

 チョコに言われたまま、サフィアの向かう先へと矢を放つ。

 放たれた矢は小さかったが、それでも【精霊剣】の力か地面に大穴が穿たれた。

 

「くっ……!?」

 

 動きを先読みされとっさに動きを止めたサフィアは大きく跳躍した。

 宙に浮く今なら踏ん張る足場もない。

 こちらの攻撃も【聖剣】で受け止めるしかないだろうと、俺は距離を詰めてブロンズソードを振りかぶった。

 

「マロン、合わせてくれ!」

 

「はい!!」

 

 【聖剣】にブロンズソードが届くのと同時、マロンが刀身から莫大な魔力を放った。

 凄まじい魔力の噴射によって、圧倒的な重量の【聖剣】を押し込む。

 しかしサフィアはにやりと笑った。

 

「ふふっ、それでこそ勝負を挑んだ甲斐があるというもの。ではこちらも見せるぞ……!」

 

「なっ……!?」

 

 【聖剣】が輝く。

 それは神話に語られるような、魔を滅する強い光だと肌で感じた。

 そしてその光は俺とサフィアを包み込むようにして膨張していき……。

 

「させません!」

 

 さらに放たれたマロンの魔力によって、粉々に弾けてしまった。

 

「なっ、結界が中途半端に打ち消された!? ……そうか、その【精霊剣】が結界の起点を……!」

 

「魔力の圧力に任せて、押し砕いただけです!」

 

 驚愕するサフィアが衝撃の余波で、真後ろへすっ飛んでいく。

 だがしかし、サフィアの正面にいた俺も同時に衝撃に襲われていた。

 

「ぐっ……!?」

 

 サフィアが飛んで行った先で背から倒れこんだ時には、俺はブロンズソードを杖代わりにどうにか持ちこたえていた。

 その光景を、ミアはぽかんと見つめていた。

 

「う、嘘。ラルド兄さんが勝っちゃった……?」

 

「……これは参ったな。まさかわたしに土をつけるとは」

 

 起き上がってから両手を上げ、呆れ笑い気味にサフィアはそう言った

 これはつまり、ミアの言った通りに俺の勝ちってことでいいらしかった。

 

 サフィアとの決闘は、こうして決着となった。

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