11話 決闘後と【聖剣】の権能
「【武器職人】にしておくのが勿体無い剣筋だったが、ぜひ我がギルドに入らないか? あれほど剣を振るえるなら、スキルが非戦闘向きでも加入を認めてもらえる可能性は十分あると思う」
「いや、俺は今の生活が結構気に入ってるから。それにこうして店も構えているしさ」
そんなことを話しながら、俺はサフィアを連れて店に戻っていた。
決闘後、約束通りにサフィアが武器を買って行ってくれると言ったからだ。
サフィアは店の中を一通り見た後、俺に言った。
「ふむ、ではこの棚のブロンズソードを全ていただこう」
……一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「なっ……おいおい、それ店にあるやつほぼ全部じゃないか!? 約束通りに武器を買っていってくれるのはありがたいけど、全部ちゃんと使ってくれるのか?」
明らかに個人で使い切れる本数を超えているし、サフィアにはあの【聖剣】もある。
どういうことかと聞くと、サフィアは言った。
「実は最近、ダンジョン攻略依頼が少し多くてギルドに備え置きされている武器が足りなくなっていてな。それでギルドマスターが困っていたんだ。そこでこれらのブロンズソードはわたしが買った後、普段世話になっている礼も兼ねてギルドへ納めることにする。ちゃんと全て使われるだろうから、そこは安心して欲しい」
「おお、ならいいけど。でもどうやって持ち帰るんだ?」
サフィアが冒険者だからと言って、ブロンズソード数十本を一度に持ち帰るのは重量的に不可能だろう。
するとサフィアは支払いを済ませてから【聖剣】を引き抜き、刀身からまばゆい光を発して購入したブロンズソードを照らした。
そして……サフィアは縄で一纏めにした数十本ものブロンズソードを、片手で持ち上げてしまった。
「なっ……何だそりゃ!?」
驚いていると、マロンが「これはこれは」と頷いた。
「なるほど、その【聖剣】は物体の重量を自由自在に変えられるのですね? 先ほどの決闘のような戦闘時には相手に一撃を加える瞬間のみ剣の重さを激増させ、代わりに移動時は自身の体重を含めた重さを激減させていたと」
「お〜、それであんなに速かったんだね」
チョコも納得した様子でいると、サフィアは苦笑した。
「まあ、概ねその解釈で問題ない。他にも能力はあるが、確かにこの【聖剣】ラプテリウスは万物の重さを任意で変更できる力を持つ。お陰でドラゴンでもダンジョンの主でも、軽くして投げ飛ばしたり重くして動きを止めたりできる」
「そんな魔法みたいなことが手軽にできるんだな……」
流石は最高峰の冒険者であるS級の持つ【聖剣】と言ったところか。
「それが【聖剣】が【聖剣】たる所以なのでな。しかしあなたの持つ【精霊剣】も中々だったぞ。見た目こそありふれた武器だったが、最後はラプテリウスの超重力結界をも吹き飛ばしていたからな。いやはや、あれが破られたのは久方ぶりだ」
サフィアは感心した様子で言っているが、恐らくその超重力結界とやらが先ほど話に出てきたドラゴンやダンジョンの主の動きを止めた技だったのだろう。
……危ない危ない、そんなものを食らっていたら間違いなくあっという間に戦闘不能だった。
「そういえばマロン、あの時は助かったよ」
「いえ、ご主人さまをお守りするのがわたしの務めですから。当然の働きをしたまでです」
そう言うマロンは微笑んでいて、いつまでも見つめていたいほどに暖かな笑顔だったが……。
「……むぅ……」
視界の端で、ミアがドス黒いオーラを出しているように見えてならなかった。
「ラルド兄さん? わたしの前であんまりいちゃつかないで。嫉妬で爆発しそうなんだけど」
「わ、悪かった悪かった。だからあんまり怖い顔するなよ、な?」
そう言いながら急いでミアを撫でると、ミアは若干機嫌を直してくれた。
「……? ラルド、あなたとミアの関係は実は男女の仲なのか?」
「いいえ、将来を誓い合った仲です」
サフィアの問いかけに、ミアがきっぱりと即答した。
……酒に酔った勢いでミアと将来を誓い合ったなどと、本格的に言い出せなくなってきた今日この頃である。
サフィアは何故かにやにやしながら、俺とミア、それにマロンとチョコを見比べた。
「ほうほう。つまり未来の旦那が一つ屋根の下で別の女と寝ているから、ミアは気が気でないと」
ちょっ、また誤解が生まれそうな言い方を!
「……しかしまぁ、【精霊剣】はあくまで精霊が宿った武器。ラルドも襲うような命知らずな真似はしないだろう」
サフィアの言葉に、ミアがほっと一息ついた。
当然、俺も自分の武器であり店のお手伝いさんでもあるマロンやチョコを襲うような不埒な真似は一切しない。
さて、これで一件落着……とか思っていたところ。
「あらっ、わたしはご主人さまになら襲われても構いませんよ? 寧ろ【精霊剣】として作っていただいたり、普段からお世話になっている身ですので……」
「チョコも〜」
新たな爆弾が見事に投下された。
この後「ラルド兄さん!? 絶対にダメだからね!?」と妙に必死なミアをなだめるのに大分苦労させられたのだが。
その様子を、サフィアは微笑ましげに見守っていた。




