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第40話 エンドレスワルツ

 万華鏡のように移り変わるダンスホール。優雅に流れる音に乗り、踏み鳴らすステップとは真逆で、俺は混乱していた。


「ジュノス、心が乱れればステップも乱れますわ。ほら、もっと私をあなたの元に寄せなさい」


「うっ!?」


 グッと引き寄せられると、レイラの顔が近い。恥ずかしくなって俯いてしまいそうになると、見事なマシュマロが二つ……い、いかんっ!

 こんなときに何を考えてるのだ!


「だいたいの状況は私も把握してきましたわ。帝国内は今まさに、皇位継承問題で揺れ動いているようですわね」


「あ、ああ。そのようだね」


「ジュノスは弟のユリウス殿下に立場を危うくさせられて、焦っているというわけですわね。話の流れからして、ジュノスがスラムを良くしていることを良く思わない者達が少なからず帝国内にはいるということ。確かに貴族からしたら面白いことではありませんわね」


「どうして? 皆が幸せになった方がいいに決まってるのに」


 優雅にステップを踏みながら、レイラはコクリと頷いた。


「選民意識ですわ! 貴族は常に自分が上だと他の者達に知らしめたい。地位、権力、金銭、すべてにおいて圧倒的でなければ自尊心が保てないと考える者ばかり。だけどジュノス、あなたは違う! あなたは柵のない丘の向こう側に皆で行こうと言える人。それを疎ましく思うものが居るということよ」


「俺が間違っていたと?」


「いいえ、少なくとも私はそうは思いませんわ。寧ろジュノスの考えは好きよ。だけど、民の暮らしが良くなるということはどういうことか、あなたは考えているのかしら?」


 レイラは何が言いたいんだ?


「それは知恵をつけるということでもあるわ。これまで、農奴の子は農奴として生涯を生きることを義務付けられてきた。しかし、豊かになった民は自ら学び、いつからかこの世界に疑問を呈することとなる。そのとき、世界は真の革命のときを迎える!」


「反乱か……」


「ええ、遅かれ早かれ何れ必ず起こるそれを、少しでも遅らせるためには、民から思考能力を奪い取ることだと私は考える。だから、一般的な民には学びの機会が与えられてこなかった。そうすることで、貴族は防衛線を張ったのですわ」


 さすがレイラだ。帝国を滅ぼすだけはある。

 でも、そこまでわかっているのなら、何故彼女は民草達が通える学舎をアメストリアに創らないのだ?

 それは同時にアメストリアを豊かにすることにも繋がるのに。


「愚問よ!」


 疑問符を浮かべながら金色の瞳を覗き込むと、彼女はそう言い、俺が問いかける前に次の言葉を紡いだ。


「アメストリアが民のための学舎を創ったとなれば、間違いなくリグテリア帝国に攻めいられることになるわ。どこの国も自国を豊かにしたいと考えてはいる。だけど、怖いのよ。帝国というあなた方暴君が」


「…………」


 そういうことか。

 レイラは帝国が憎いからだけで滅ぼそうとしていたのではなく、この世界の根底を覆すために帝国を消滅させようとしていたのだ。

 すべては民のために。


 たった一人で世界と戦おうとした君は、本当に名君だと思うよ。

 俺なんかではなく、彼女が帝国に生まれていれば……世界はもっと豊かになっていたかもな。


 でも、そうなってくると……リズベット先輩の狙いは何なんだ?

 レイラのような正義感で動いているとは思えない。

 寧ろ、彼女のように正義と誇りを持ち合わせているのなら、俺に協力してくれてもいいばすだろ?

 だが、彼女が選んだのは俺ではない。

 弟のユリウスだ。


 俺ではリズベット先輩の横に立つ資格はないと判断された。それは何故だ?

 わからない。彼女の真の目的がわからないことには打つ手立てがないじゃないか!


「ジュノス、民衆を味方につけなさい!」


「へ?」


「国とは民ですわ! 民なくして国は発展もしなければ成り立ちもしない。あなたはそのまま突き進みなさい! 穢れてしまってはダメよ。あなたは何れ世界が誇る名君となられるお方。民のことを一番に考えられぬ者に、誰もついてきたりしないものよ」


「レイラ……」


「だだ、大丈夫ですわ! あああ、あなたは、その……わわ、私が認めた唯一の殿方ですもの! 誰かの幸せを願えるあなたは、こんなところで躓いてはダメということよ!」


 顔を真っ赤にして、励ましてくれている。

 そんなに優しくされたらおっさん惚れてしまうだろう!

 今度はこちらからレイラをぎゅっと引き寄せる。


「ひ、ひぃやぁっ!?」


「あははっ――さぁ、せっかくだからおもいっきり踊ろう、レイラ!! 今宵は舞踏会なんだからさ」


 嫌なことなど今だけ、この瞬間だけは忘れよう。

 目前のレイラに楽しんでもらえることだけを考えなければ、彼女に対して失礼に当たる。

 ここまで親身になってくれる彼女に対して、俺が出来ることなどたかが知れているのだから。



 せめて、その無邪気な笑顔を奪いたくはない。

 いや、単純に俺が見ていたかったのかもしれない。

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作者の都合上、毎日更新が難しいかもしれません。出来るだけ毎日更新を心がけますが、ご理解頂けると幸いです。

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3月1日昼12時に投稿開始し!
一話だけでも……!
是非お読みください!
貧乏国家のクズ王子~国家建て直しのため魔王軍に入った俺が天才と呼ばれ始める。
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