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第23話:新米冒険者、あえて聞かない

 観客たちは、ジェイドを目当てで見に来ていた。

 だから、俺たちが勝ってしまうのは想定外なわけで……案の定、試合終了後もしばらく静寂に包まれた。さて、大ブーイングも覚悟していたが――。


「うおおおおおおお!!!! すっげええええええ!!」


「あ、あのジェイド様が……あいつら何者だ!?」


「確かこの村では有名なジークと……一番すごかったあの男がわからねえぞ!」


「二刀流をあそこまで使いこなすやつ初めて見たぜ」


「いい試合を見せてもらった。事実上の決勝戦だろ!」


 なんか、意外と受け入れられていた。

 俺がぽかーんと眺めていると、


「彼らがジェイドの試合を楽しみにしていたのは事実でしょうが、何よりも良い試合を見たいと思っている人たちです。大番狂わせは盛り上がる展開ですから、かなり満足しているみたいですね」


「そんなもんなのか。俺たちって無名なのにな」


「無名の冒険者が強敵に勝つ方が面白いということですよ」


 バトルゾーン内には、精神力を失った五人と、俺たち五人。

 決闘場の職員が騎士団の五人を担架に乗せて運んでいく。

 次の試合のために、早く場所を空けなければならないのだ。


「じゃあ、みんなひとまずお疲れ様」


 第二試合にして、準決勝。なんとか勝つことはできたが、みんなの疲労は相当なものだ。早めに戻って休んだ方が良さそうだ。


 五人を引き連れ、バトルゾーンを離れる。

 俺たちが控室に入った時には、次の準決勝出場パーティが万全の体制で睨みあっていた。


 FパーティとGパーティ。

 どちらも冒険者パーティではあるが、明らかにGパーティの方が強いオーラを感じる。


「ジーク……お前もついに落ち着いたのか」


 Gパーティのリーダーらしき巨漢の男が、ジークに話しかけた。


「……いえ、一時的なものですよ。今回だけです」


「そうかよ。案外お前も居心地良いんじゃないかと思ったけどな」


「…………」


「もう時間がねえ。また後で……決勝戦でな」


 そう言い残して、他四人の仲間とともに控室を出た。

 奥に設置された観戦用の座席に座るまで、ジークはずっと無言だった。


 知り合いだということはなんとなくわかったが、聞いていいのかどうかわからない。

 話したくないことは誰にでもある。ましてや、ジークとは今回限りの関係なのだ。


「……シオン君、次の試合――決勝戦にはさっきの男が相手になります。強いですよ」


「そうか。まー、強そうな感じはしたからな」


「……事情とか聞かないんですか?」


「言いたくないなら言わなくていいんだよ。訳アリなんだろ?」


「いえ……彼とはそんなに特別なことがあるわけではないんですが。……リーダーのアインは知っていますか?」


「知ってるよ。この村で一番Aランクに近いって言われてる冒険者だしな。確か【銀積連合】の一派だったよな」


 銀積連合。銀という名前は、Bランク冒険者の冒険者バッジの色にちなんでつけられたと言われている。当初のパーティリーダーは今やAランク冒険者となっていているので、名前にはやや違和感があるが、それで通っている。今では数十の少数パーティに分かれて活動していて、組織全体を指すときはパーティより大きな括りであるレギオンという呼び方をする。


「そうです。実は、アインさんにはパーティに誘われていたことがあります」


 アイン率いるパーティは、銀積連合の中でもかなり上位の方だ。本来はユニオール村のような辺境に留まっているようなパーティではないのだ。


「大手のパーティに誘われてたって噂はそれだったのか。……にしても、なんで断ったんだ?」


「それは……」


 ジークは申し訳なさそうに、俯いた。

 どうやら、これが禁句だったらしい。


「……悪かった。まあ、色々あるよな」


「すみません」


「いいよ。話したくなった時に話してくれ」


 重苦しい空気を払拭するように、俺は話題を切り替えた。


「それより、ミリア、シロナ、ルビス。次の試合大丈夫そうか?」


 試合直後はかなり疲れていた様子だった三人。ミリアとシロナはともかく、ルビスが疲れた様子を見せたのは初めてだったような気がする。……いや、俺の記憶にある限りではあるが。


「大丈夫だよー!」


「ま、ミリアは元気そうでなによりだけどな」


 あまりこっちは心配していない。


「ミリアの近くにいたから大分疲労は取れたわ。心配しなくても大丈夫よ」


「……近くにいるだけで疲れ取れるのか?」


「密着するのが一番だけど、近くにいるだけでもそこそこ癒しの効果あるよ?」


「へえ……なんか凄いんだな」


 密着することでの癒し効果も驚いたが、まさか近くにいるだけでも効果があるとは。確かに、さっきより身体が軽いような気がする。豊満な胸も手伝って視覚からも癒し効果が……って、これは気のせいか。


「私もミリアのおかげで大分回復しました。お気遣いなく」


 その声は、いつものルビスだった。

 まだ多少の疲れは残っているようだが、大分回復しているようだ。そういえば、もともと竜族の体力回復速度は速いんだっけ?

 これなら心配いらなそうだ。


 ふと、ガラス越しに見えるバトルゾーンを見やる。

 ちょうどFパーティとGパーティが試合を始めたところだった。


 Fパーティの五人が見事な連携で前衛・中衛・後衛とを分割したフォーメーションを組み、攻撃態勢に入る。Gパーティのアインたちは、試合が始まったことに気づいていないかのように微動だにしない。


 Fパーティの前衛が攻撃を仕掛けてきたタイミングで、アインが右手を天に上げた。

 バトルゾーン内に突如として黒雲が立ち込め、落雷が発生する。

 前衛の二人と中衛の一人を巻き込み、火花が飛び散るほどの衝撃が迸る。

 クジ運が良かったとはいえ、一回戦を突破した冒険者を瞬殺――。これがアインの実力か。

 まるで底が見えない魔力量だ。


 その場から動けなくなった後衛の二人。そこを目掛けて、無慈悲にも落雷が起こった。強烈な電撃により、光ったと思った瞬間には全精神力を刈り取った。


 俺たちの準決勝はなんだったのかと思うほどの呆気ない決着。

 試合時間十秒のワンサイドゲームだった。


 俺たちは、次の試合――決勝戦でこんなやつと戦わなくちゃいけないらしい。

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