十七話 三人目
十七話 三人目
教会を出た二人は、集落の方に戻ってきていた。
「ユリ、そろそろ説明してもらえない?」
前を歩き、何も言わずに舟に乗ったユリに、アルはやっと声をかけることができた。
「そうね。……ごめんなさいね、勝手に話進めちゃって」
「いや……まぁ、うん。別に、もうそれはいいんだけど」(結果として、闇の秘宝の話はできたわけだし、あの女の子をほっておくこともできなかったし……)
「相手が闇の秘宝を狙っている組織だとしたら、早めに手をうっておく方がいいわ」
「そうだな」
「女神さまが言っていた不穏な動きを見せるモノたち、うちの国に・・・炎の国に侵入してきた何者か、そして、今回あの子をさらったモノ。つながりが見えるかもしれない」
舟を動かしながら、二人は思考を巡らす。
「……そういえばさ、前から思ってたんだけど」
「何?」
「闇の秘宝を狙う奴らって……組織としては一つなのか?なんか、複数っぽい感じには言ってるけど」
「そうね……複数人っていうのは、想像だけど。……手口がね、炎の国のと今回とで、かなり違うのよ。だから、おそらく別人じゃないかと思うの」
「じゃあ、そいつらがそれぞれ集めてるって可能性もあるだろ?」
「これは、私の主観なんだけど」
「うん」
「……………………こんなバカなことをする輩が、そんなたくさんいて堪りますか」
「……なるほど。」
一応の納得をするとともに、旅の同行者の性格が、またよくわからなくなるアルであった。
「でも、さっきのユリすごかったな。大人相手にひかないで、あんなに堂々と話持ち出したりして。さすがは、炎の島の長様?」
「……私ね、魔物を使役して、自分は何もしないで、使役した魔物たちに悪ささせるような人間、大っきらいなの」
「……つまり、それで?」
「…………アル、必要な物の買い出し済ませて、早く出発しよう。」
「え?……あ、おう!」
いつの間にか雑貨屋の前に舟は着いており、降りて行くユリをアルは慌てて追いかけた。
ユリに言われるままに、必要らしいものを購入したアルは、それらをカバンにしまい、店を出た。ちなみに、お金は村を出る時に村長からもらっているし、炎の国を出る際にも、「旅の道具の購入に使って」と、ユリからそれなりの……いやかなりのお金をもらっていたりするため、自分の財布からお金が出ていくことには何の異論もなかった。
「ちょっと待って!!」
二人がまた自分たちの舟に乗ろうとしたところで、どこかで聞いた声が聞こえた。声のした方に振り向くと、そこには……
「えっと……フォールくん……だっけ?」
先程教会で、一番に少女・セイカの心配をしていた少年、フォールがいた。
「なぁ、あんたたち……ホントにセイカを助けに行ってくれるのか?」
「うん。そのつもりだけど……」
「そんなたちの悪い嘘をつく趣味は無いわ」
二人の返答に、フォールは強い意志を持った目で言葉を続けた。
「なら、オレも連れて行ってくれ!」
「え……?」
フォールの言葉に、二人は目を見開いた。
「……本気か?」
「もちろん! セイカを助けるんだ!!」
「…………戦えるの?」
「体術は、大人にも負けねぇ」
「魔物と戦えるのかと聞いているの。必要とあらば、その命を奪うことができる?」
「……えっと、それは……」
元気に答えてきたフォールが、そこで初めてひるんだ。フォールに向けられた言葉だったはずなのに、アルも息を呑んだ。
「足手まといになるようなら、付いてこないで」
ユリの厳しい言葉は、単純に嫌悪しているのではなく、少年への心配の色も見受けられた。
「で、でも! お前ら、さっきのヤツの居場所わかるのかよ!」
「大体はね。気配からして、この町の西になにかあるんじゃない?」
「うっ……。で、でも、中に入ったことは無いだろ! オレ、一階なら……地下に続く階段までなら案内できるぞ! オレ、いつもそこで修行してるんだ」
「修行を?」
思いがけない事実に、ユリは少々迷いの色を見せた。
「化け物を、殺す……とかは、まだしたことないし、わかんねぇけど……でも! オレは、セイカを助けたいんだ!!」
そう言う、フォールの顔は必死で、
「いいんじゃないかな?助けに来た中に、知り合いがいた方がセイカちゃんも安心するだろうし」
アルは、ユリにそう進言した。
「……そうね」
ユリの賛同をもらって、アルもフォールも顔をほころばせた。
「ありがとうございます!」
「あ、名前教えとかないとな。俺は、アルフォート=アスタ。アルって呼んでくれ」
「オレは、フォール=ソイドってんだ。よろしくな、アル」
互いに自己紹介を終えた二人は、ユリへと目を向ける。
「……ユリでもユリシアでも、好きなように呼んでちょうだい」
「はい! よろしくお願いします、ユリシアさん」
うれしそうに言うフォールに、ユリも、笑顔を返した。
「で、ユリ。どこに行くんだっけ?」
「とりあえず、街を出ましょう。たしか、島の西側に何かあったはずだから」
「ユリ、このあたりの地形詳しいのか?魔物の生息域?だって知ってたし」
「本で読んだだけよ。本物を見るのは初めて」
「へぇ」
話しながら、二人は今度こそ舟に乗るために歩き出す。しかし
「フォール?」
「あ、はい!」
動こうとしないフォールに、アルは首をかしげる。
「一緒に行くんだろ? 準備はいいか?」
「すぐに行ける!」
「じゃあ、舟に乗れよ。急ごう」
「うん!」
三人は、船へと乗り込んだ。目指すは……
「魔物の祠?」
「うん。たぶん、セイカは……そこにいるんじゃないかと……」
「それって、この国の西の洞穴?」
「あ……はい。でもその洞穴の上に、何十年か前からは今の祠が建てられたらしくて……」
「なら、絶対そこであっていると思うわ」
「……じゃあ、行くか!」
「えぇ」
「うん!」
三人は、小さな舟で、目的地を目指した。