第36話 助言
「まさかあなたが固有魔術師だとはね……リュー。」
戦闘終了後、全員の治療を終えて発したフェリアの言葉に僕たちは驚いた。
「え、どういう……ことですか……!?」
一番驚いていたのは僕自身だろう。今まで自分の魔術に関して「そういうもの」だという認識しか持っていなかった。詠唱が要らない、むしろ詠唱無しでないと発動しないことに疑問すら抱いていなかったのだ。それが……固有魔術……!?訳が分からない。
「ああ、自覚は無かったのね…?」
自覚というか。
「でも、それだとおかしい。……固有魔術は一つの指向性しか持たない。…リューみたいにいくつもの属性魔術を使えるはずがない」
「それに僕は…親類に固有魔術を使える人は居ません。固有魔術の発現は遺伝によるものがほとんど全てのはずですよね…?」
僕の実親は……そもそも魔術なんて存在しない世界の人間だし…。
「十数代前の祖先からの遺伝で発現した、という例もあるし……そうでないとしても、それはそれで前例があるわよね?」
「………勇者」
「そ。後天的に発現した例。異例とは言っても、あなたもその異例でないとは言い切れないわ。…なんか別にもよくわからない力を使っていたようだし、自分がある意味異常な存在だってのはわかってるでしょ?」
……魔術とスキルとじゃ魔力の流れが違うのは分かってたけど…普通に見抜かれたな…。
「続いて、ティファの疑問に応えるけど……まずは固有魔術について説明していきましょうか。固有魔術が、その発現、効果において他の魔術とは一線を隔しているのは分かっているわよね?……うん。固有魔術が特別だってのは知ってるでしょうね。けど、固有魔術の中に分類があるのは知ってる?」
分類…?どういうことだろうか。
「色々と研究が成されてきた結果から分かってきたことだけど。簡単に言えば、固有魔術には『上級』『下級』の二種類があると言われているわ。ま、『中級』を加えて三種類だ、と主張する研究者もいるけど。それはさておき、『上級』『下級』の分類方法はその威力なんかに関係なく、発動方法が無詠唱か、詠唱破棄か。これによるわ。」
無詠唱、詠唱破棄…。
「ピンときたみたいね。あたしは、リューが無詠唱で魔術を使ったことから、それは上級固有魔術なんじゃないかと思ってる。でも、ここで立ちはだかってくるのがティファの疑問ね。確かに、固有魔術の指向性は限られている。翻訳魔術なら言葉と文字の翻訳だけ。創造魔術なら物を創造するだけ。異なる効果をいくつも出せるなんてあり得ないわ。普通ならね」
ティファは小さく頷きながら、話に耳を傾けている。
「それで……ここからは完全にあたしの推論なんだけどね?リューみたいな固有魔術は今まで確認されていないから、恐らくは未発見の固有魔術。指向性に関しては……例えば『魔術を造り出す』効果を持つ固有魔術だとか、『想像したことを実現する』効果の固有魔術だったら……複数の属性魔術を使えてもおかしくはないと思うわ」
その場に居る皆が驚愕の表情を露わにした。本当だとすればどれだけ異常な固有魔術なのか。それは誰にでも分かることだろう。そこにあるのは無限の可能性。その気になれば、『固有魔術を作り出す』ことだってできるかもしれないのだから。
「もしそれが証明されれば……大変なことになるね。」
エミールは先程までと打って変わり、険しい表情を浮かべている。
「様々な組織、研究機関からの引き抜き。……戦力として、ならまだマシだけど、実験対象として扱うような……犯罪を厭わない輩に目をつけららればどうなることか……」
………え?
「そ、それってどういう………」
「極論だけど、人前で使うべきじゃないわね。……まあ、それは無理だろうし、どうにかカモフラージュしないとね」
「陣を使った魔術っていうことにできないですか?」とリーナ。
「それじゃ誤魔化すにも限界が出てくるね。何らかのキーワードを口に出して、普通の属性魔術を使ってるだけに見せるのがベターじゃないかな?」
「でもそれじゃ、専門家が見聞きすればバレる可能性もあるわよ?」
「…………何らかの別言語……今は使われてないような言葉を使えば良いと思う」
エミール、フェリア、ティファが次々と打開策を考えていく。
「なるほどね。例えば古代言語なら……デリト語、ミスティ語、アマザ語、クエリ語……ダメね。大抵、少なからず研究者が存在してるわ」
使われてない言葉……か……。
あ。
日本語ならどうだろうか。
試してみようか。
発する言葉とは関係なく、ただその単語と同じ効果だけを出すように気をつけて。
《焔の蝶》
そう呟くと周囲に炎でできた3匹の蝶が現れ、ゆったりと羽ばたき始める。
よし、できた。これで問題ないだろう。
そう思い僕が満足していると、周りの全員がこちらを見て微妙な表情を浮かべていた。
「リ、リュー……すごいねー……」苦笑いでそう言うリーナ。
「まあ……もう何も言わねえよ…」なんというか、諦めたような表情を浮かべるエル。
ティファはフードの奥から覗く目が、妙な優しさを湛えていた。や、やめて。そっと肩を叩かないで。
「…んまあ…リューがとことん異常だってのは分かったわ。それじゃ、問題も解決したし。さっきの対戦に関してのアドバイスでも始めるか?」
そう言ったアレックスだったが、フェリアの声に打ち消される。
「バカ、まだよ!………リュー。さっきあなたが使っていた、固有魔術ではないほうの力。あれは今度の大会では絶対に使ってはいけないわ」
「え……なんで、ですか…!?」
思わず聞き返すと、フェリアは渋い表情で言う。
「…………どこにでもバカは居るもんなのよ。あんなの異端だ、邪神の使徒だ、なんて声高に叫ぶようなおかしな奴らがこの国には……少なからず存在してるはずよ」
そういうものだろうか。でも確かにこの力は特異なものだ。助言に従っておいたほうがいいだろう。
僕はそう考えて、わかりました、と返事を返す。
「……で?今度こそ終わりだよな?……つーかフェリアお前!!さりげなく俺をバカ呼ばわりしてんじゃねえよ!!」
「うるっさいわね!!バカにバカって言って何が悪いのよ!事実でしょ!?」
「事実なワケあるか!!それに、バカって言うほうがバカだって相場は決まってんだよ!!」
「ハァ!!?私がバカなわけないでしょ!?あんたと一緒にしないでよね!!っていうか何その子供みたいな言い訳!!いつまで経ってもガキなのねバカアレックスは!!年考えなさいよ!?」
「……えーっとぉ……横槍入れて悪いんだけど、25歳にもなるいい大人が大声で喚き合ってるのってどうかなぁ…って思うのはわたしだけなのかな…?」
そのダリアの言葉を聞いた途端2人は我に帰ったのか、僕たち4人の方に同時にバッと顔を向けた。
………あ、しまった。つい目を逸らしてしまった。
「…ダリアさん、それは言っちゃ駄目っすよ。アレクさんとフェリアさんの精神年齢は10年前くらいから止まってるんすから」
そこに追い討ちをかけるシモン。
「おいおいおいシモン。ダリアはあんま自覚無くああいうこと言うけどな、お前の場合は大体わざとじゃんか。……あいつらの怒りの矛先は十中八九お前に向くだろ」
「あ………」
墓穴を掘った、とでも言う様な表情を浮かべるシモン。
アレックスとフェリアの空ろな目は、シモンをロックオンしている。
「はーいはい。それは後で後で。さっきの対戦の反省、さっさと始めるよ?」
宥め役、エミールの一声から、反省会が始まった。
反省会は時折アレックスとフェリアの言い争いを挟みながら、2、30分ほどで終了。
そして指導箇所を踏まえつつ、『春風』と『マスターピース(仮)』の対戦は再開された。
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5回の対戦を終え、受付で支払いを済ませたふたつのパーティが改めて相対する。
「ありがとうございました、皆さん。色々と参考になりました。特に連携の強化とか、魔術の弾き方なんかは凄く役に立ちそうです」
「そりゃよかった。まあ、封魔剣の技術は練度を高めねえとまだ実用はできないかもしれねえけどな。こっちも珍しいもん見れて楽しかったぜ?」
「はい。なるべく実戦で使えるように、一か月訓練していきます」
「伸びしろの大きいお前らのことだから……普通に実現しちまいそうだな!!」
「だな。こいつらならきっとできるっしょ。俺も割とすぐできたし。ああ、アレックスは遅かったっけなあ?」
「うっせ、今はできるんだからいいだろ?」
「は?あんたが役に立たないせいで、Aランクへの昇級試験2回も落ちたのよ?少しは責任感じなさいっての!!」
「…そういう言い方はねえだろうが!!つーかあの頃はお前『焦る必要はないわ。別にあんたの上達がヘタってわけじゃないんだから。』とか言ってただろ!?あれウソだったのかよ!!」
「は、はー!?違うわよ!!落ち込んでる奴のフォローぐらいする良識はあるわよ!!平気でウソつく女みたいに言わないでくれる!?大体あんたはいっつも」
ゴツン、という鈍い音が辺りに響いた。と同時に、アレックスとフェリアの両人が地面へと這いつくばる。
「アレックスくん、フェリアちゃん。いい加減、喧嘩する場所は選ぼ?」
拳を握りしめたダリアが、底冷えのするような笑みを浮かべてそう言う。
「出たっすね、怒りのダリアさんが…………」と、シモンが呟いた。
ダリアに怯えながら小さく返事を返す2人を横目に、エミールが口を開いた。
「あーっと……悪いね、何度も…。それじゃまた、修練所で会う機会があればその時に。もしくは大会で当たったらよろしくね。……手加減はしないよ?」
「ああ、望むとこだ。楽しい試合を期待してる」
「勝つのは難しいかもしれないけど……私たちも頑張ります」
「………リーナは消極的すぎる。…勝つために頑張る、で良い」
「ま、そうだね。なるべく目標は高く、ポジティブでいた方が良いと思うよ。俺たちもそうしてのし上がってきたからね」
エミールはそう言うと、他のパーティメンバー達を一瞥する。
「健闘を祈るよ。俺たちも君らと当たるまでは負けないように努力するからさ。…じゃあね!」
両パーティは互いに礼をしながら、その場を離れていった。
封魔剣・・・ありきたりな名前ですが、前話で魔術を弾いてたあれです。
武器に魔力を纏わせて、魔術を散らせたり弾けたりする、と思ってもらえればいいです。




