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第37話 あるメイドの日記

こんにちは。わたしはアルテイル王室所属、勇者様専属メイドの一人であるリリアといいます。年は14で、勇者様と年齢が近いということで専属メイドに選ばれました。…でもわたし、つい2か月前までは見習いメイドをしていたのです。正直、こんな大役がつとまるのか不安で仕方ありません…。


わたしは今、数人の先輩たちと分担して勇者様の身の回りの世話やスケジュール管理なんかをしています。


わたしの割り振られた仕事の一つには勇者様の行動などを観察して、日記をつけるというものがあります。これは監視のようなおどろおどろしいものではなく、勇者様の様子をしっかり記録して、体調や精神面で不安な点はないかなどの確認という目的でつけています。


格式ばった書き方はしなくていいので、たまにどうでもいいことを書いてしまったりもして、先輩に困ったような表情をされてしまうこともあります。


今日はわたしの日記をすこーしだけ、皆さんにお見せしたいと思います。……ちょっと、恥ずかしさもありますが。




金の月9日

今日、お昼過ぎごろに勇者様が召喚されました。

国王様への謁見などを経て、わたしが勇者様と初めて顔を合わせたのは夕刻のことでした。

勇者様を王族の方々との晩餐にお連れする役目を任され、部屋に訪れたわたし。

勇者様は優しげな表情…ちょっとだけ目つきが怖いような気も…でも悪い人ではなさそうで少し安心しました。

手短に自己紹介を済ませ、晩餐の準備ができたことを伝える予定だったのですけど……うっかり噛んでしまいました。……だって、すごく緊張したんだもん。

慌てて謝るわたしに勇者様は、肩の力を抜いていい、というようなことをなまりのある言葉で優しく言ってくれました。そして続けざまに、『なんなら名前で呼んでもえーよ?』と言われ、『そんなこと畏れ多くてできません!』と返事したわたしに勇者様は苦笑していました。

これが、わたしと勇者様の出会いでした。



金の月10日

今日は朝から、勇者様に文字を教えることになりました。

実は歴代の勇者様たちと違って、今代の勇者様は読み書きもできませんし、こちらの言葉もわからないみたいです。

会話ができているのは、初代勇者様が残したという魔道具?みたいなものを使っているからです。口の動きと言っている言葉が違っているのは、見てて違和感を覚えるというか……ちょっとまだ慣れません…。

それはそうと。わたしは大体30分ぐらいをかけて、勇者様に基本的な文字の読み方を教えていきました。前に、小さい子供たちに読み書きを教えたりしていたこともあったので、教え方には少し自信があります。


勇者様は吸収が早く、一度言ったことは完璧に覚えてしまうようです。子供向けの絵本はすぐにすらすらと読めるようになりました。

さらに30分後、勇者様はよくある簡単な冒険物語を読み進めていました。たまに、ここはどういう意味なのか、どう読むのかと質問しては来ますが、その頻度もだんだんと少なくなってきます。

それを読み終えた後、他に本は無いかと勇者様が言ってきたので、読めるようになるのはしばらく先だろうと思いつつも持ってきていた、歴史に関する難しめの本を勇者様に渡しました。

1時間半ののち、勇者様はそれを読み終わりました。数回しか質問すること無く、です。

勇者様はすごい、と尊敬を覚えつつ、お昼ご飯で休憩を挟みます。


ご飯を食べ終わると、勇者様は次の本を欲しがりました。歴史や文化についての本を中心に読みたい、とのことです。……あれ?つい3時間前までは読み書きが出来なかったはずですよね…?なんでそんなに飲み込みが早いの………!?


2時間ほど本を読み通した後、勇者様にお客様が来ました。

なんと、アルテイル騎士団の副団長、ロベルタ様です。

用件は、戦闘の指南と訓練をやるので来てほしい、というものでした。

勇者様はそれに快く応じて、ロベルタ様についていきました。

わたしはここで先輩メイドのリーズさんと交代。休憩をとりました。


……後で聞いた話ですが、勇者様は騎士団のみなさんを棍棒で相手取り、団長さんと副団長さん、そして顧問として呼ばれたというギルド長さん以外には負けを許さなかったそうです。多才な勇者様に脱帽です。



金の月11日

今朝は勇者様を起こしに行ったところ、勇者様はすでに目を覚ましていて、ベッドに三冊ほどの本を広げて読んでいました。……三冊同時に、です。傍らには大量の本が積まれていて、聞くところによると、書庫に自由に出入りできるように王様にかけあったそうです。いや、そうではなく。なんで三冊同時に本が読めているのかが疑問なんですよ。それを口にすると、数年前に身につけた特技で、集中すれば4、5冊は同時に読める、とのことです。…なんですかそれ。

本当に理解して読めているのかと疑問に思った私は、勇者様が読んでいた本の一つをめくり、『38ページ目の内容を答えてください!』と無理難題をふっかけました。勇者様が一文字違うことなく、そのページに書かれたことを読み上げたのを聞いて、わたしは心底驚きました。びっくりしすぎて大声を出しました。…だって、本をいっぺんに何冊も読めて、こんなに記憶力がいいなんて尋常じゃないし、なにより、羨ましいです…!!ずるいです!

朝食を摂った後は昼まで読書を続け、わたしはそれを眺めて時々飲み物を薦め、静かに時間が過ぎていきました。


昼食後は宮廷魔術師の一人、オルド様が部屋に訪れました。歴代の勇者様は必ず、固有魔術という特別な魔術が使えるそうで、今日はその検査を行うことになっています。午後からは先輩と交代になっていましたが、少し無理を言ってわたしも一緒に見学させてもらうことにしました。どうなるのかわくわくします。


結果的に、勇者様は2つの固有魔術が使えることが分かりました。2つですよ2つ!!オルド様によると過去に前例のないことなんだそうです!

ただ、固有魔術には上位と下位?というランク付けがあって、勇者様が使えるのは両方下位なんだそうです。でもまあ、応用はだいぶ効くから好都合、なんてことを勇者様は言ってたから良かった。落ち込んじゃったらどうしよう、なんて思ってましたから。


その後は、勇者様が属性魔術を使えるようにするための訓練が始まりました。

まずは理論。これに関しては勇者様があらかじめ魔術に関する本を読み、おおよその内容を理解していたために省略されました。さすがですね。…ん?いつ読んだんでしょうか?

早速実践に移りましたが、勇者様はなかなか魔術を発動することができませんでした。オルド様によると、魔力の運用はうまくいっているが放出するときに属性の変換が全くできていない、ということでした。

あまりに進展がないので、オルド様は魔力属性変換効率測定器?とかいう……まあ、簡単に言えば得意な属性が解る魔道具を取り出し、勇者様に使うように促しました。

色の強弱はあれど、魔力を流せば大抵は6色に光るように作られているそうですが…勇者様が魔力を流し込んでも、魔道具は全く反応しませんでした。

つまりは…勇者様は属性魔術を使うことができません……。

人にできることが自分にはできない。期待されているのに能力がない。その辛さはわたし自身、人一倍分かっているつもりです。勇者様はどれほど傷ついているか………



――――でも。


勇者様はその哀しい事実を、軽く。笑い飛ばしました。


『これで固有魔術に専念できるわ!』なんて言って。

そして続けて、『ま、今回の危機を乗り越えるためには属性魔術なんぞ必要ないって……そういうこととちゃう?』と、この結果に少しだけ不安になってしまったわたしたちを励ます言葉まで口にしました。

……勇者様の専属メイドになって良かった。心からそう思える瞬間でした。


その後は、勇者様は固有魔術の訓練を―――あ、えっと……詳しくは書いていけないことになってるんでしたね…。とにかく、関心の連続でした。勇者様のやることは見ていて飽きませんね。





短いですが、今回はここまでです。また今度、機会があればこの日記を皆さんに公開したいと思います。

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