第13話 『空を自由に飛びたいな』『じゃあヘリチャーターしてくるね』『ごめん、やめて』
ギリギリ土曜日投稿となりました。
まあ、色々ありまして……。
昼食のときに、リーナが切り取っていたオークの肉を食べた。
やはり臭みやクセがあったが、味自体は悪くないし肉も柔らかかった。今度ちゃんと下処理からやってきちんと調理してみようかな?
夕方までは魔物の襲撃に遭わず、談笑をしながらのんびり歩いた。………え?急いだんじゃなかったのかって?………まあ、あれだよ。なんていうか………雰囲気で?
日も落ちて野営の準備をしていると、索敵に魔物の反応あり。
敵は犬のような魔物で、ハウンドドッグというらしい。リーナ曰わく、「割とすばしっこいけど攻撃の威力がゴブリンとほぼ同じかそれ以下」だそうだ。
正直戦うのも面倒なので、地魔術を使って自分たちの周りを岩壁で囲った。
外でワンワン吠えてる?……ふん、知らんな。
しばらく犬の鳴き声を聞きながらの夕食。僕もリーナも缶詰めのオンパレードである。
しばらくすると、犬達は諦めて去っていったようだ。
……朝まで吠え続けるつもりだったら殲滅しに行こうかと思ってたんだけど、手間が省けて良かった。
今日進んだ距離は大体20キロ弱ぐらいだろう。これをあと6日。……道のりは長いな。
そんなことを考えながら、僕達は交代で見張りをする、なんてこともせずに就寝した。
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翌日。
今日も日の出前に起きた僕は、寝袋の中でまだ寝ているリーナを見ていた。
肌白いな、とか、唇小さいな、とか、髪サラサラだな、なんて思いながらボーっと寝顔を凝視していた。
…………べっ、別に変態じゃないんだからねっ?
………何をやってるんだ僕は…………。
……………よし、冷静になろう。さっさとリーナを起こ…………………………
――ふと、彼女の頬に目がいった。
……………なんだこれ………?………………この………柔らかそうな物体は…………!
透き通るような白さの頬に微かに注す赤み。あどけなさの残るその朱色が、彼女の魅力を最大限に引き出している。
ふに。
ちょっと指でつついてみる。……………うっわ…………なんだこれ…………!?
ふにふに。
……………まるでマシュマロ。いや、むしろそれ以上の柔らかさ。
ふにふにふにふにふにふに
………………もしかしてこの兵器は僕を殺す気なんだろうか。きっとそうだ。そうに違いない。
「……………ん……うぅ……」
頬を弄り回しているとリーナが小さく声を出した。
びっくりしてパッと手を離す。リーナの眼がゆっくりと開いていく。
「リュー………?………なにして………もしかして魔物!?」
魔物への警戒心からか、真剣な表情で眼を見開いた。
「え、えっと……その………、普通に起こしにきた、だけ」
なんとか声を絞り出す。
リーナには本当に申し訳ないと思っているがさっきは至福の時だったと心かr「……なーんだ。心配して損した。まあ、起きなきゃだけどね」
僕の思考をぶった切ったリーナが身体を起こす。
僕は寝袋から出る彼女を横目に、平静を装いながらその場を離れた。
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「ふう…………まだかなあ……王都」
数時間後。昼食も終わり、ひたすら歩き続けることにマンネリ感を感じていた僕はそう呟いた。
「リュー……それ言うの何回目よ。言っても王都は近くならないんだよ?」
リーナが溜め息混じりに言う。
そうは言っても、やっぱり移動にかかる時間は少ない方がいい。早く王都に着いて、早くクエストを受けて、早くランクを上げて目的を達成したい。でも、どうしようもない。
「まあ、何日も歩き詰めっていうのは難儀な話よね。風魔術で空でも飛べたらいいんだけどなぁ」
…………!!!!
「……飛んじゃえばいいじゃん………!」
「―――え?」
「空飛んじゃえばいいじゃん……!!」
∵リーナ・フルストside∵
風魔術で空を飛ぶ。
それは加減が困難で、消費魔力も多い。いくらリューが魔術を得意としていても、恐らく無理だろう。元々選択肢になかった。
それに、私はどうなる。私は風魔術なんてこれっぽっちも使うことができない。たとえリューが飛べたとしても、私を運ぼうとしたら確実に魔力切れを起こす。私はただのお荷物になるだけだ。
そんなありえない、夢の様なことを私は呟いた。
でも、その呟きの返答は、『まず考えもしてなかった』とでも言うようなものだった。
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空を自由に飛びたいな。
それは空想で、淡い夢だ。叶うことは無い。
だが、この世界では違う。空を飛びたければ魔術を使えばいいのだ。
そんな簡単なことをまず考えもしていなかった。
こちらでかれこれ10年(体感で)は過ごしているのに、まるでその発想がなかった。やはり、僕の考え方の根底はこの世界で築かれたものではないからか……。つい、前の世界の常識で物事を考えてしまうのは。
――よし、魔術で飛ぶと決まれば話は早い。
風魔術を使えば多分いける。
……どういう風に飛ぶようにする?
某一〇通行さんみたいに?
それとも某ガ〇ダムのように?
「ちょっと」
いや、ここは王道で、圧縮した空気の翼を生やすのがいいだろうか?
「ねえってば」
リーナには天使の羽根を生やさせてもらって、リーナたんマジ天使ペロペロスハスハ「聞いてるの!?」
…………む?天使の羽根はイヤなのかな?別のがいいのかな?………………しかし異論は認めない。
「風魔術で飛ぶなんて、リューにできるの!?……って……その点では役立たずな私が言える事じゃないんだけど…。」
「……え?……ああ、なんだ、その心配?やったことはないけど……多分、大丈夫だよ。」
まあ、想像だけでいけるんだから問題無いだろう。
「やったこと無いんじゃない!!風魔術での飛行は制御難しいのに加えて、消費する魔力がバカみたいに多いって聞いたことがあるわよ?間に合わせでできるわけがない」
そんなに難しいのかな?………とりあえず試してみよう…。
空気を圧縮して、背中に固定するイメージ。魔力を放出し、固める。
「えっ?」
純白の羽根が肩甲骨のやや内側から延び、形成されていく。
1,5メートルほどで延びが止まる。数回羽ばたくと、身体が浮いてきた。そのまま5メートルほど浮き上がってみる。
飛ぶ分には問題ない。………あとは消費魔力か。
一旦降りて魔術を解き、魔導書を取り出す。そしてステータス確認。
推定魔力量:7369/7402
10秒くらいで約30の消費。1分で180、10分で1800。2人だと消費は倍だから、約20分で魔力が切れる計算。
…………燃費が悪いな。
でもまあ、魔力回復促進を使えば、たまに休憩する程度で大丈夫になるだろう。丸薬もあるし。
とりあえずリーナにも風魔術をかけて飛べるようにしないと。
リーナの背中に魔力を集め、空気を圧縮して固める。
先ほど同様、純白の羽根が形成される。
「………え?ええぇぇぇぇぇぇ!?」
自分の背中から生えた翼を見て、リーナが絶叫する。
ちょっとうるさい…。
「リーナ………ちょっと静かにしてもらえるかな?集中できないよ」
僕がそう言うと、彼女はパッと手で口を塞いだ。
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「まさか本当に飛ぶなんて………。」
僕達2人が飛び立って約30分。浮遊感に恐怖を覚えて悲鳴を上げていたリーナだったが、高度を上げると、風景に見とれたのか静かになった。
「飛べると思ったから飛んだ。それだけだよ。」
「…………なんでちょっと格好つけてるの?」
「うっ」
渾身のドヤ顔だったんだけど冷たい眼差しを送られた。
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丸薬とスキルで魔力を補いつつ数時間飛び続けた。
もう時刻は夕暮れ時。まだかな、と思っていると、眼前に大きな街が見えてきた。城壁に囲まれ、奥のほうには大きな城の姿も確認できる。
「リーナ、あれ王都だよね!?」
「え?………わ、王都だー!」
ああ、遂にやってきた。苦節(?)2日。ようやく待ち望んだ王都だ………!!
飛ぶ速さを一段と上げながら、高度をゆっくりと下げ、門へ近づいていく。
門まであと100メートル弱というところで着陸し、あとは歩いて行こうとした。
だが。
『今空から降りてきたそこの2人組!!今すぐ静止しろ!!!』
と、突然怒鳴られた。
もう少し長くするつもりだったんですけどね…。