鉄槌の宣言と、崩れた鉄壁
舞踏会の直前、ディーアナ・ドルドア公爵は、ルビー(おじさん)を含む経済大臣、防衛大臣、外務大臣ら「舞踏会対策委員」を円卓に集め、厳かに宣言した。
「我が国の正義が、金で買えるほど安いものだと思わせたままにはしておけん。諸君、心に刻め。礼節を以て接するが、侮辱には鉄槌を。汚職を持ちかける不届き者には、平和を語る資格などない。その不誠実への報いとして、我らは戦争も辞さない。……さあ、行こうではないか」
公爵閣下の苛烈な言葉に、おじさんは内心で戦慄していた。
(……これはえらいことになったぞ。ここにいるメンツが汚職に手を染めるとは思えない。やるとすれば――そう、本来のルビー様だ)
ルビーの記憶を辿れば、彼女はまだ若く、次期公爵(準公爵)の資格を持ちながらも、過酷な政治より恋愛や自由を渇望していた。こっそりオペラ歌手に弟子入りして歌を習ったりもしていたようだ。
(なるほど、本来のルビー様は政治に興味がなかった。だから、私の魂が女神様に選ばれたのか……)
この国において「公爵」は、国民の投票によって決まる。ディーアナ・ドルドアは実績を評価され、地方議会から国会の大臣、そしてパンゲア国家総理大臣選挙と勝ち続けてきた偉人だ。選挙に勝って初めて「ドルドア」という苗字を名乗ることが許される。基本、この国の民に苗字はない。
対しておじさんの日本での仕事は、政治家の秘書だった。地方議員から国会議員になるまで支え続けてきた、プロの裏方だ。
(政治のことなら、異世界でも実力を発揮できるはずだ。この舞踏会、なんとか乗り切ってみせる!)
その頃、情報局局長イツモア・カゲヤネンデスは苛立っていた。
「カゲヤネンデス」という苗字は、局長にのみ許された名誉だ。自慢でもあるこの名を失わぬよう、彼は常に完璧を求めてきた。装備科の科学者たちに口うるさく注文をつけ、嫌われるほどに。
そんな彼の勘が、鋭い警鐘を鳴らしていた。
(解せない。鉄の守りを誇る我が屋敷の警戒網をかいくぐったスパイにしては、あの二人組はあまりに間抜けすぎた。双子の子猫は神の加護だろうが、あのスパイどもは違う……)
イツモアは警備詰め所へ駆け込んだ。
「ドルントはいるか。取り調べの気になる点を聞きたい」
「局長、それが……ドルントの様子が少し変でして」
部下が指し示す先、担当のドルントは直立不動で虚空を見つめ、薄気味悪く微笑んでいた。
「一分ほど前から、ずっとこの様子で……」
「――何かの魔術にかかっている!」
イツモアは驚愕し、収監先へと急いだ。案の定、監視の兵は倒れ、牢獄はもぬけの殻だった。
「全館警戒態勢! スパイを探し出せ!」
イツモアは怒りのままに、壁がめり込むほど強く拳を叩きつけた。




