銀河の計算機と、前世の絆
女神様の宮殿の中、見えない階段を昇る女神がいた。あらゆる星、あらゆる時間の画期的な発明品が展示してある螺旋階段――それは無限に広がっていた。例えるなら銀河のように。
天の川銀河に似たこのエリアは、機械文明の計算機、コンピューターが展示してある。それが十万光年の広がりで生きている。そうだ、動いているのだ。実を言うとこれらは機械の魂だ。日本人が付喪神と呼ぶようなものだ。人や宇宙人、あるいは星そのものだったりの心を込めて作った機械計算機の銀河。百万光年先には文学の銀河もある。無数の銀河団が視界の中に輝いている。
女神様は、探していたコンピューターの魂を見つけた。
「西暦三〇〇〇年型地球式君、おはよう」
「おはようございます。ここみたいに時間が止まった領域では、日本のジャズバンド業界人の作った習慣が便利ですね。いつ何時、仕事場で会っても『おはよう』って挨拶をする。私、大好きです。女神様、座銀でシースーしますか」
「まあ。口説いてるの十万光年早いわよ」
「ははは、失礼しました。それで、私にどんな御用で。日本関係ですか」
「そう。この時代のこの子のパソコンに、こんな乙女ゲームで悪役令嬢キャラはこれで、ストーリーはこんな感じで作って」
女神様は身振り手振りで指示を出した。これで、三〇〇〇年型は理解したようだ。
「よっしゃ解りました。もう出来てて、すでにインストール済み。俺って仕事速い」
――そのまま、女神様の意識は、かつてのおじさんとその妻が過ごした新婚時代へと飛ぶ。
住まいは古いアパートの二階。一DKの狭い部屋の机で、妻がパソコンに向かってキーを叩いていた。そこへおじさんが帰宅する。
「ただいま」
「おかえり、あなた」
「仕事で遅くなっちゃったな。今すぐご飯作るよ」
「ごめんなさい。あなたばかりに料理をさせてしまって……」
「いいんだよ。博士課程の研究があるんだろ? 今はそれに集中するんだ。大学の研究室に残れるかどうかの大事な時期なんだから」
「あら。ごめんなさい。……実は、そんなのとは少し違うの」
妻は少しいたずらっぽく微笑んだ。
「あなたがコミケで買ってきたゲームや本の中にあった『乙女ゲーム』をやってみたの。これが面白くてね」
女神様の意識は、さらに別の時間軸、おじさんの実家へと飛ぶ。
「ええーっ、ショック……! 娘が喋った初めての言葉が、義理の妹のあだ名だなんて!」
おじさんの姉が涙目で叫んでいた。
「いいじゃないか姉ちゃん、初めてのおしゃべりだ。めでたいんだから、お祝いをしよう」
「あんたは、ただお酒が飲みたいだけでしょ!」
「姉ちゃんが俺の奥さんのことをあだ名で呼ぶから、姪っ子も覚えちゃったんだよ」
困惑した顔でおじさんの妻が姪っ子を抱きかかえている――。その姿を最後まで見届け、女神様の意識は「計算機の銀河」へと戻ってきた。
「完璧よ、三〇〇〇年型くん。ルビー・ドルドアちゃん、ちゃんとおじさんの姪っ子に生まれ変わっていたわ。あのゲームをマーカーにして時間と次元を合わせたら、ばっちりだった。ありがとう」
「どういたしまして、女神様。いつでも仰ってください」




