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見えないダンスと、情報局長の溜息

猫族の双子が、実においしそうに「リスのドルドア風」を頬張っている。

 その様子を、半透明の隠れマントを羽織ったグレートグレープ国のスパイ、タキオンが、相棒のクマ獣人ツキノワと共に飛行魔法で上空からうかがっていた。

「ドルドア風、うまそうだな……」

 昨日から何も食べずに潜入作戦に従事しているタキオンが、恨めしそうに呟く。

「ああ。見たところ、単なるリスの塩串焼きだけどな」

 体格が良すぎて半透明マントが少し窮屈そうなツキノワが、冷静に返した。


「ツキノワ、あんな可愛いメイドが嫁だったらいいのになあ」

「ああ、あの子、猫族だよ。双子ちゃんの叔母だな。猫族は可愛い上に賢い。選挙権は当然持っているし、その上バロン試験にも余裕で合格したらしいぞ。ちなみにこの国では、バロンのことを『サツマ』って呼ぶんだとよ」

「すげえな。この国、大人の九割が選挙権を持ってるんだろ?」

 タキオンはグレートグレープ情報局特製の魔法道具「双眼鏡」を覗き込みながら言った。


彼らの真の目的は、猫族の男の子が肩から提げているバッグである。

 それは男の子が一時も離さず、たとえ放り出したとしても自ずと主の元へ戻ってくるという不思議な代物だった。ツキノワはそこから、強力な神の力を感じ取っていた。

 世界中で猫族が神の加護を受けているというのは有名な話だ。だからこそ、そんな奇妙な子供がいても不思議ではないと二人は結論づけた。だが、あの価値の測り知れないアイテムを手に入れることができれば、国に帰って相当な贅沢ができるはずだ――そんな野心が、二人の脳裏をかすめていた。


猫族の双子がドルドア邸の庭に突如として現れた瞬間を、彼らは目撃している。

 グレートグレープ国で事前に叩き込まれた屋敷の住人データに、あの子猫たちの記録はなかった。「これは神の仕業に違いない」。二人のスパイはそう確信し、チャンスを虎視眈々と狙っていた。


その時――。

 突如、青い稲妻が二人の体を貫いた。

「あ、熱っ……! なんだ、体が動かないぞ!」

「俺もだタキオン! 防御魔法か……っ!?」

 空中で硬直する二人の目の前で、「はははは!」と愉快そうな笑い声が響いた。だが、そこには誰もいない。

「グレートグレープの諜報員殿。半透明マントですか? 私共ドルドアでは、すでに『完全透明』を実現しておりましてね。科学者の出来が違うのですよ」

 無慈悲に青い稲妻の威力が増していく。

「「わー! やめてくれー! 痛い、痛い!!」」

「はははは! さあ、シャル・ウィ・ダンス?」


タキオンとツキノワは、まるで見えないパートナーと踊るかのように、空中でクルクルと無様に回り始めた。

「まあ、私も男とダンスを踊る趣味はございませんし、この辺で拷問部屋へご案内するとしましょうか」

「うわー! ごめんなさい! 痛い目はいやです! すでに痛いけど! もう何でも話しますからあぁっ!」

 タキオンは涙目で必死に懇願した。


透明化を解いたその主は、もちろんイツモアであった。

「……この者らには、諜報部員としての矜持というものはないのか」

 呆れたように呟くと、彼は部下たちに事後の取り調べを任せた。

 実は屋敷の外でも、百人規模の同様のスパイが潜んでいたが、すでにその全員を確保済みである。潜入、あるいは「侵入したつもり」で屋敷の敷居を跨げたのは、皮肉にもこの二人だけであった。

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