14話 幽霊少女と花火(終)
夏祭りの屋台。
今夜の夕食と、これから始まる花火大会の肴を求めて、さっきまで屋台で食糧を調達していた。
ソースと青のりの香ばしい匂いが漂う焼きそば。
かつお節と紅しょうががいいバランスの、ふっくらマルマルとした大粒のたこ焼き(8個入り)。
屋台のちょうちんや華々しさを赤に染めあげて反射しているりんご飴に、立派な曲がり具合に感服するチョコバナナ。
楽しさ2倍、出費2倍──。
うん、これは小さな傷じゃないか。食い物がやたらと高値だけど、結衣のためでもある。ブタさん貯金箱をぶっ壊した甲斐があったってものか……。
「ゆーま君、ゆーま君──」
「あ、結衣。……もうしゃべっていいぞ」
「はーっ、苦しかった!」
「なんだ、息止めてたのか?」
「いや、止めてない」
「……じゃあ、なんでそんなフリを?」
「ゆーま君に構ってほしいから!」
さいですか……。
……ほかの人に、結衣の声が聞こえてるのかは正直分からない。『なにもないところから声がっ……!』なんてことになったら、この人混みの中では混乱必至なので、静かにしてもらったということだ。
……まあ、幽霊は確かに夏っぽいが、結衣は見せ物のために幽霊やってるんじゃないし、俺も目立ちたくないし、結衣の隣には俺がいたい──
「そんなノスタルジックな顔してどーしたの?」
「どんな顔だよ、それ」
「数秒前の、ゆーま君の顔」
よくわからん。
「ねえ、人のあまりいないとこに行こ」
「それもそーだな」
人に見られても、いろいろと困るからな。
「ゆーま君と、2人だけの景色が見たいからね」
──というわけで、俺たちは場所を探すことにした。ご飯を食べられる場所と、花火を見られる場所を求めて──。
「ねえ、照れてるでしょ。こっからだと顔真っ赤っ赤!」
「なっ、せいぜい『真っ赤』くらいだろ!」
「赤くなってることは否定しないんだね」
─────
道中。上を見上げれば、割合にして4割5分の夜空と5割5分の木の葉っぱがある。
人の気配のない、いわゆる『裏道』を進んでいく。……もっとも、そんなところにもちょうちんはあるので、比較的安全な道だ。
「いやー、本当にゆーま君はいい顔するようになった!」
「なんだよ、その『あんまパッとしない顔をしてた頃を知ってる!』みたいな言い振りは。……あ、俺がイケメンになったってことか??」
「前者が正解」
「後者は?」
「あんまよく分からないけど、もともとイケメンなんじゃないかな」
適当にあしらわれた様な……。
なんだか、結衣の顔つきも心なしか険しいし。
なんだよ、どーせ俺はイケメンじゃないよっ──
「……ごめん」
「え?」
「大雨」
「結衣?」
「子猫」
「……結衣さん?」
「トラック」
「ゆ、い……?」
「飛び出した」
それは、今まで忘れていた記憶。
……いや。ずっと覚えていたけれど、心の奥底に閉じ込めてしまっていたもの。
「また会ったね、かな?」
「結衣、俺は──」
「それとも、元気してるよ、かな」
─────
1人で整理してもしょうがない。声に出してみる。
震える両足。力を抜けば、すぐに転んでしまいそうなのを必死に堪える。地に足をつけて。
持っているビニール袋は、地面に落とさないように。……ご飯を落としたらばっちいからな……。
1つ1つに対して、確認をとっていく。
「俺と結衣──柏瀬結衣は知り合いだった」
「……うん」
「俺のマンションの前に、子猫が捨てられててさ」
「あのマンションの近くは、通学路で通ってたの。あいにく、ゆーま君とは違う学校みたいだったけど……」
「その子猫を、俺が世話してた」
「……あの白と茶色のぶち模様の子猫ちゃん、元気してるかなあ」
「そして、結衣が俺を偶然見つけて、一緒に世話するようになって」
「あれは晴れた日だったよね。。……でも、私が死んじゃったあの日は大雨で、ちょっと肌寒かったな。その日も一緒にお世話してた」
「元気になった子猫が急に道路に飛び出して、何とか助けようとして、俺も道路に飛び出しちゃって──」
「トラックが来ていることに気づいていなかった君を、私が突き押して助けた」
「……そして、結衣は轢かれたんだな」
しばらく漂う沈黙。でも、言葉を絞り出せたとしても、俺は──
「……ごめん」
──としか言うことができない。そして、結衣は黙って頷くだけだった。
─────
しんみりとした空気に、まばゆい光を伴った急な『揺れ』をもたらした。
「あ、花火が始まったみたいだね」
「……そうみたいだな」
「私、後悔してないの」
「……ああ」
「私は、君に生きてほしかったから」
「…………ありがとう、結衣」
「やっぱり、『ごめん』よりも『ありがとう』のほうが、ゆーま君に似合ってる」
結衣が命を賭して救ってくれた命がここにある。
無駄にしない──というところまで俺が立派にやれるかどうかは分からないが、精一杯、これからも生きてみよう。
結衣の顔を見る。花火にすっかり釘付けだったが、俺が顔を見ていることに気が付くと、ニコッと笑い返してくれた。
地面を見る。不思議と、影が2つ揺らいでいるような、そんなふうに見えた。
おしまい。




