インパクトをオコシモノ
十分な撮れ高なのに坂道さんは3時間程プロレスのトレーニングに付き合ってくれた。
彼はアクション監督でもある為プロレスを少しでも理解し後の作品に活かそうと真剣に練習していた。
基礎トレーニングなので地味でキツイのに文句一つ言わない姿勢は見習いたい。
坂道さんが帰ると俺達も練習を切り上げる。
午後にLIVE中継のスタッフが来るし会見の準備もあるからシャワー浴びたり身嗜みを整えたりとやる事は多い。
時間通りにスタッフがやってくる設営はニーナと3人娘も手伝う。
俺達は会見の流を打ち合わせ。
なんだけどフランクの表情が暗い、十万人規模のスタジアムで試合経験ある彼が緊張なんてありえないし何があったんだろう?
打ち合わせ後二人きりになったタイミングで聞いてみた。
「フランク顔色悪いけど」
「大丈夫だ……久し振りの公式の場だから緊張しただけさハッハハ」
「本当に大丈夫?」
「夜に娘が迎えに来るだけだから何も心配ない」
「え、娘いたの?」
「今まで公表はしてなかったが24になる娘がいる。
日本修行時に若手女性声優と交際しててその時出来た娘だ。
お互いのキャリアの為に別れたんだが自分が帰国後に妊娠が発覚してな」
「それでどうしたの?」
「米国に呼ぼうとしたんだがお互いキャリアを大切にしましょうと言われて断られた……。
嫌いで別れた訳ではないからWWUの日本遠征した時は会っていたんだ。
海外遠征は本当のトップレスラーしか連れてってもらえないから努力したんだよ」
「何で遠征の時だけなんだよ?
アメリカ人は長期休暇とか多いだろうに」
「飛行機が嫌いだから……あんな鉄の塊が空に浮かぶの未だに信じられない」
「いつ時代の人間だよ!」
「ハッハハ……日本に来たのは引退後はじめてなんだ」
「そんなにほっとかれたら娘さんも怒るよ!」
「娘はアメリカにちょくちょく来るし連絡もマメにとってるぞ」
「なのに娘に怯えてるの?」
「娘じゃない!妻だ!籍を入れてないから内縁の妻なのか?」
「そんな事を聞かれても……」
「妻は滅多に怒らないが日本に来たのに連絡しなかった事を怒っているらしい」
「それは100%フランクが悪いじゃん!」
「しかも妻の家がY市にあるのに顔を出さなかった事が許せないそうだ……」
「完全に自業自得じゃん!
逆に考えたら愛されてる証拠なんだからポジティブに考えたら?」
「うん、そうだな愛ゆえに怒ってると考えたら楽になったよ。サンキュートビー!」
「いいんだよ、しかし伝説のレスラーも奥さんには形無しなんだね」
「世界最強でも、どんなに権力を持っていても嫁には勝てないのは万国共通さ」
この会話が終わったタイミングでスタッフが呼びに来たのでリングスタジオに行き会見をする。
想定内の質問ばかりだったので失敗もなく順調に会見は終わった。
会見で緊張すると思っていたが直前にフランクに驚きの話を聞かされていたのでリラックスして対応出来た。
会見終了後スタッフと記者が帰ったあと海外の視聴者様に記者に質問されたことを英語に訳し会見を再現したものを撮影した。
その後椅子を片付けしたりしていたら夜になっていた。
作業が終わり事務所に戻るタイミングでフランクのスマホに着信があり会社の前にいるそうなのでニーナにお願いして門を開けに行ってもらった。
ちなみに今回の話は会社の人間と3人娘には伝えてあり助け舟を出せるなら出してあげてと頼んである。
女性陣はこの話を知ってフランクの評価を大きく下げたが承知してくれた。
俺達はリングスタジオを出て事務所に歩き出すとニーナと仲良さそうに会話する姿が見えた。
娘さんが俺達に気が付くと「パパ~」と大きなは声で言いながら走ってくる。
アックスは「レイナ!」と言いながら両手を広げ受け止める体制になる。
レイナと呼ばれた娘は全力疾走で近寄ると2m手前で大きくジャンプしフランクにドロップキックを喰らわした。
一瞬呆気にとられたが、このままだと背中からアスファルトに落ちると判断しお姫様抱っこの形で受け止めた。
目が合い一瞬の沈黙があり「ありがとう」と一言、俺は「お転婆が過ぎすよ」と言ってから静かに地面に降ろす。
俺の顔を見ていたが腹面してないから何者かわかってないのかな?
「トビー!貴様気軽に娘に触れるな!!」
と怒りのぎょうそうで近付いてくる。
レイナは膝蹴り(ジャンピングニー)でフランクの顎を的確に捉えた。
見た目は和風美人だけど身体能力はアックス譲りだな。
正座されられ叱られているフランクを見ているとニーナがやってきて
「世間って狭いよね」
どういう事か聞き返すと
ニーナとレイナはレイヤー仲間で友達の関係で高校生の時二人共芸能界にスカウトされたがニーナは断りレイナは芸能界入りしたそうだ。
そういえば彼女の出演してる映画観た事ある。
二人の関係は今も続きちゃんねるの公開の時はSNSで拡散するようにお願いしていたそうだ。
ニーナも彼女が同じハーフで母子家庭なのは知っていたが父親が元トップレスラーのフランク・ボーガンとは知らなかったようで本当に世間は狭いと驚いていた。
一夜にして世界を変えてくれたレイナには後で感謝しておこう。
ニーナにも感謝だ!今はも愛がろうと決めた(笑)
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