(八)
父は云いようのない輝きを眸に浮かべ、さながら恍惚とした法悦の笑みを湛えながら両腕をしっかり胸に組んだ姿で私の乗る火車の前に佇んでおります。
わたしは初めて父の絵師としての容貌を目の当たりにしました。
とても人とは思えない程の厳かな空気は、まるで夢に見る獅子王の怒りにも似た円光の如き尊さがありました。あの大殿ですら、今は横川の僧都程にしか見えぬ程、わたしの目には父が美しく輝いて映ったのでございます。
煙に巻かれた息苦しさの中で見た幻影かもしれません。
ですがわたしの目には確かに、父がわたしの姿を余すことなく精緻に描きつける光景が焼き付けられたのです。飢えて己の肉を喰らう獣のように呻きながら、わたしは夢を見ていました。
父は眼をらんらんと輝かせながら、まるで憑かれた様に一心に絵を描く事でしょう。白く塗られた肌が燃え爛れるさまを、飾る釵子もとうに振り捨てた黒髪に赤い金粉の様な火の粉が散り乱れるさまを、縛めの鎖も切れるばかり身悶えをした有様を――目前で娘を焼き殺される事で見る事の出来た地獄の業苦を再現するまで、眠る間さえも惜しんで脳裏に刻んだ思いを筆にのせて奮うのです。
きっと誰もが心打たれる凄まじい作品が出来上がるに違いありません。
常でありましたら、そのような人面獣心な卑しい心の輩が描いた絵など、嫌悪して討ち捨てられる事でございましょう。
しかし父の絵は、それらの道理や人臣の理り等を打ち消す程に見事な出来栄えとなる筈でございます。一帖の天地に吹き荒すさんでゐる火焔の恐しさに言葉を失い、地獄の苦しさ恐ろしさを如実にその身に感じるさまに慄く絵となりましょう。