(七)
大殿様の御思召しは、車を焼きその中に乗る者をも焼き殺してまでも地獄変の画を描こうとする父の絵師根性は曲ますぎて、此れを懲らしめない事には道理が立たないとの御心算だと云うものでした。
父良秀の思い上がりを懲らしめる為に、娘のわたしに危うき真似をせよとの御下命でした。戒めの鎖は結ばずに絡ませるだけに計らい、衣には多くの水を含ませるので火をかけても暫しは時が保てる筈。父が驚き狼狽え助けを請い求めるのであれば、すぐに救い出す手立てはあると。
父が娘可愛さに筆を捨てる凡百の絵師に成り下がるのなら、大殿はもう父を目に留めず切り捨てる御心積もりだったのでしょう。誇りを捨てて堕ちたものを顧みる御方ではありません。
しかし私は信じておりました。
父は大殿に劣るような御方ではないと。
その大殿が、今まるで別人かと思われる程に御顔の色も青ざめて、口元に泡を御溜めになっておりまするのは、わたしと父の姿を見たからにございます。
父は車の中に居る罪人がわたしであるとは知らなかったのでありましょうか。いいえ、分かっていても目の当たりにした衝撃に耐えられなかったのでしょう。死人や苦しむものは数え切れぬほど見てきた父も、御知り置いた者の死にゆくさまを見るのは初めてで遭ったでしょうから。
車に駆け寄ろうとする父を嬉しく思いながらも、それを阻むためわたしは大仰に叫びました。焔火が燈れば父は絵師の生業を取り戻す筈でございます。世俗を捨て五道を歩むことと引き換えに才を受けた父は、その生業を全うしなくてはならないのです。
父に見てもらう為に私は身をよじり舞いました。噎せ返る煙に喉を焼かれるまで痛み熱さ苦しみを思うままに叫び、髪を振り乱し浅ましいまでに悶えます。心の内を晒すことは良しとされず、常に平静で求められることを強いられる女人に生まれてから、初めて我を忘れ心のままに形振り構わず動いたのだと思います。
目の端にちらりと大殿の姿が映りました。紫の指貫袴の膝を両手にしっかり御掴みになられ、まるで喉の渇いた獣のやうに喘ぐ御姿を見て、わたしは父の勝利を確信致しました。




