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乙女ゲーのヒロインになったので推しの断罪フラグへし折ります  作者: しろがね瑞紀


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プロローグ

『ユズフィーナ=ディ=モルガナ、学園においてリリアに対して数々の非道を行ったこと、そしてヴァルドレイン帝国と通じセレスティア王国を滅ぼそうとしたこと、この二つの罪をもって有罪とする』


金色の髪が天井から降り注ぐ月の光に輝く。大広間は着飾った者たちであふれていた。

今日は学園の卒業式の日であり、今はそのあとのパーティのさなかだ。有罪を告げたのはこのセレスティア王国の王子で、フェルディアーク=ド=セレスティアだ。

そして有罪の判決を受けたのは藤色の髪を持つ美しい令嬢だった。その顔には何の感情もうかがえない。閉じた扇を持つ手だけがわずかに震える。唇が動くものの彼女は視線を落とすにとどめた。


『申し開きはあるか』

『…ございません』

『ならば婚約解消とともに国外追放を命じる。生涯にわたって再度この国に立ち入ることは許さない』


ユズフィーナが一人で広間を出ていく。フェルディアークはその背中が見えなくなるとすぐに傍らにいた令嬢を見つめ片膝をついた。令嬢のハニーブラウンの髪は優雅に波打ち、少し不安げだった栗色の瞳はこの先に起きることを期待するように輝きを増した。

フェルディアークは彼女に手を差し出す。


『リリア、私の妻として隣にいてくれないだろうか』


ーよろこんで!ー

ーもちろん!ー




「選択肢どっちも同じだろうが!!」


よろこんで!を押す。そうすると手をつないだ二人はシルエットになり、『LoVly KINGDOM』とロゴが出る。エンディングソングが流れだすとイヤホンを外す。

クレジットが流れる画面をそのままにパソコンを操作して即検索をかける。



『やっぱりそうなるよなぁ #ラブキン』

『悪役令嬢ざまぁ #ラブキン』

『わかりやすいいやがらせばっかりだったしね #ラブキン』

『いやがらせの証拠集め楽しかったけどね #ラブキン』

『フェル様正統派のプロポーズ尊い #ラブキン』



「尊くねぇわー!!」


ざまぁはそうですが!確かにそうなんだよ!!ゲームで、悪役令嬢だから、しょうがないんだけど!

と心の中で絶叫する。




「それでもユズフィーナ様だって幸せになったっていいじゃんかー!浮気する王子なんかよりずっといい男がいるってぇ!!」

「七海、うるさい」

「真紀ちゃん!だって、また新規攻略キャラ、悪役令嬢をざまぁしてエンドですよ!?」

「そりゃ恋愛ゲームだし、今のはやりだし」

「それでも、救われたいじゃないか!!」

「恋愛ゲームはヒロインと男が付き合ってなんぼじゃろ」

「そうだけど、言い方!!」


エンディングが終わり、タイトル画面に戻る。アプリを終了し、待ち受け画面を見る。

藤色のふわふわしたきれいな髪、少し吊り上がった緑色の瞳、白い肌、ピンク色の唇。神が作った傑作かと思うほどに美しい。しかも画面越しに微笑みかけている。


「はぁ、ユズフィーナ様美しい…これ、なんで没案にしたんだろう」

「悪役令嬢救って面白いのかって判断したんじゃない?」

「面白いよ、絶対…いいじゃん、それもまた」


村瀬七海(むらせななみ)は微笑む。その様子を見た友人の村上真紀(むらかみまき)はため息をついた。学校が休みの今日、七海に誘われて遊びにやってきた。最初こそ七海とともにゲームをしてみたり、最近学校であった面白いことを互いに話していたが、午後になると推しゲームの再攻略するからと言われたから七海の解説付きでずっと見ていた。

七海はオタクだ。それも好きなものに対してはかなりの強火である。今だって恋愛ゲームの攻略対象ではなく、ヒロインのライバルとなる悪役令嬢に沼っているのだという。よりによって悪役令嬢。

設定画を見させてもらったが、確かに美人である。だが、表情がものの見事にない。攻略対象の男たちは笑ったり、驚いたり、怒ったりと喜怒哀楽すべてに対して設定画が作成されているが、彼女に関しては、無または怒という極端なものしかない。


「そういや、その待ち受けは?ファンアート?」

「違う。この前の連休に、ラブキンのイベント行ったんだけど、そこで公式が出したユズフィーナ様没案の笑顔スチル」

「悪役令嬢の笑顔スチルなんて、ヒロインが逆にざまぁされてそうだけど」

「あー、うん。そうだよね。でもいつ見てもいい笑顔なんだな、これが」


七海は苦笑する。それはそれで面白そうではあるが、ヒロインとしてゲームを遊んでいる以上自分が断罪されるというのはやはりいい気持ちではないかもしれない。


だが、七海の今の推しは、王子のフェルディアークでもなく、学園の騎士団長でも生徒会長でも幼馴染でもない。悪役令嬢その人だ。彼女を幸せにしてあげたい。悪役令嬢ではなく、普通の令嬢として生きさせたい。そう強く思う。

欲を言えば、彼女とお茶もしたいし、街中に出てきゃっきゃっうふふふ、と買い物もしてみたい。部屋に泊まって朝まで恋について語ってみたいし、卒業する彼女を見て号泣もしたい。勉強を教えてもらい、攻略対象のメンズにちょっかいを出してみたり、まじめな彼女を誘っていたずらもしてみたい。彼女に似合う服を選んで着せ替えたいし、彼女に服やアクセサリーを選んでもらいたい。旅行だってしなければなるまい。


いろいろと考えている七海の顔はにやにやとしてきた。真紀はその七海の顔の写真を撮る。



「ファンディスクでも出してもらえるように運営にメールでもしてみたら」

「うん、もう結構前からしてる。何なら笑顔のスチル見た瞬間にビビッときて、イベントのアンケートに書いた」

「そっかぁ」

「結構このゲーム、課金する人いるからそのうちスマホだけじゃなくて、何かしらでソフト化しないかなぁとか祈ってる。要望も出してる」

「強火担」

「…推しハピエン至上主義!」

「知ってる」

「真紀ちゃん、バッドエンドもいけるもんね」

「それもまたおいしい」


ふふ、と笑いあう。ゲームの話ができて、あまりにオタクすぎる七海のことを理解してくれる同性の友人というのは稀有だ。真紀が高校入学時前の席にいなかったら七海の学生生活は真っ暗だったかもしれない。

ゲームの中の彼女も、きっと今まさにその状態かもしれない。




「あぁ、神様…私が彼女を幸せにしたいです」







推しを持つ誰しもが一度は願うであろうことを口に出した。七海が今一番心の底から願うことだった。

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