第十九話 肉を使わない肉料理
時たまに客がきて……そんな日々を過ごしていたアカネだったが……
「肉を使わない肉料理?」
「ええ。それを要望されまして……」
「とんち大会か?」
エルダの要望にアカネが首をかしげ、ホムラが怪訝な顔で問いかける。
「実は聖光教についてかかわっているんです」
「せいこうきょう?」
詳しく聞いてみると、ようするに妖怪や精霊なども毛嫌いしている宗教らしい。
「その宗教なんですが……。
問題になっていましてね。
そのために別の宗教……この国で歴史と伝統、そしてその……権威がある宗教が動いているんです。それが、精輪教というんです」
「せいりんきょう」
オウム返しに聞き返す。
精輪教とは、自然を大切にしており……魔力なども認めている。
魔獣など人の命を狙う相手ならばともかく……。
精霊に対しては理解が大きいと聞く。
「ホムラさんも彼には理解を見せてくれると思いますよ」
「そうですか……」
「ただ……その聖職者。
特に一定の地位に持つ方は肉料理を食べてはいけないという決まりがあるんです」
「あー」
その理屈はアカネも理解できた。
「私に世界にもありますよ。
宗教の概念で肉を食べてはいけないという宗教。
というか、宗教だけじゃなくてそう言った主義もありますからね」
ベジタリアンやビーガンなど……。
アカネの世界にもいたのだ。
「もちろん、他の方が肉を食べるのを目くじらをたてませんが……。
ただ主賓として招待する場合は……やはりその方に合わせた食事をというのが……」
「なるほど」
「けれども、今回は対等の立場? として、招待しているというか来るように言った聖光教が肉料理を食べたいと要求してきたんです。
そうじゃなければ来ない。
それで困っていまして……。
私のほうにまでその相談が来たんですよ」
ずいぶんとわがままな話だな。
そうアカネは思った。
とはいえ、そういうことには心当たりがある。
「えっと……質問ですけれど、肉料理ってどこからですか?
たとえば、魚料理は大丈夫ですか?
たまごや牛乳、チーズなどはどうでしょうか?」
そう。ビーガンや菜食主義にも程度のレベルが違う。
たとえば、肉は食べないけれども魚を食べる菜食主義者は多い。
また、魚や肉は食べないが牛乳やたまごなどは食べる人もいる。
実際に、アカネ個人は牛乳やたまごは肉ではないと思うのだが……。
それでも、それも受け付けない人もいるというわけだ。
「たまごや牛乳は大丈夫ですが……。
けれどもあまり推奨していませんね」
「……なるほど……」
それならバターや牛乳、チーズ、たまごなどは仕えるということだ。
そして肉料理か……。
なら、
「えっと……大量の大豆が必要になると思いますが……。
大丈夫でしょうか?」
「なんとかなるんですか?」
私の言葉にエルダが驚いたように問いかける。
「私の故郷にだって宗教があるんですよ。
宗教にはわりと肉を食べるのを禁止しているのが多いんですよ」
まあ。宗教によったら特定の動物のお肉だけは食べないというのもあるが……。
そちらはちょっと違うだろう。
「大豆を使えば肉もどきも作れますので……。
それにアレルギーじゃないなら……。
まあ、どうにかなるかもしれません」
「と、言いますと?」
「……私も専門外ですが……。
なんとかなると思います」
そう言って私が用意したのは大豆ミートだ。
がんもどきや豆腐ハンバーグなどといったものも作ったが……。
もっとも憎らしい肉というのならばこれらだ。
とはいえ、
「試作品を作ってみますので……。
ちょっと待ってください」
あれは手間暇がかなりかかるのだ。
……それでも難しいながら豆腐ハンバーグなどでどうにかしよう。
そう私はいいながら答えるのだった。
私が大豆ミートを作る方法を知っているのは、なんてことはない。図書館で調べたのだ。元々、まともな環境ではなかった実家。
いつ追い出されても良いようにと調べたり……自作することも多い。
その中で自作できる市販品というのでいろいろ調べていて知ったのが大豆ミートだ。
とはいえ、これを完全に一から一人で作るのは正直に言えば簡単ではない。
常人料理を作っていた人もそういったことまでは考えていない。
そのために相談をしたら、
「そりゃ、難しいならご協力しますよ」
とのことだった。
「料理人でも料理に使うものを全て、一人で作るものではないですからね」
そう言われたらその通りだ。
自家用のお酒などもあるが……。
それでも、本格的なお酒はやはり職人が作るし……。
その職人だって大義母となればたくさんの人の手で作っている。
場合によっては必要な別の業者に頼んでいるのだ。
「アカネさんはどうも一人でなんでもしようとしすぎです」
「そうですかね? 経営に関してはヨハンさんに丸投げしていますし……」
「それ以外でもです」
ヨハンさんの言葉に私は目をぱちくりさせる。
「アカネはそういう環境だったからな」
そうつぶやいたのはホムラだ。
「ホムラ……」
「俺も普通の人間には見えない存在だし、この見た目だ。
手助けにも限界があった」
そう溜息交じりに言うホムラ。
「あいつら……アカネの親はお前を助けなかったからな。
だから、お前はさすがに不可能だ。
そう判断できないことは何でもやろうとしているんだよ。
少しは誰かにたよることを覚えろ」
「そうですよ」
ホムラの言葉にヨハンさんが同意する。
「この商売は私とあなたの共同経営の形にちかいものです。
仕事をや経営だけなんてあなたにおんぶ抱っこです。
こちらも一人前の商人。
あなたに料理人としての矜持があるように……。
こちらにも商売人としての矜持があります。
どうか、その矜持を守らせてください」
そう言われてしまえば、私も何も言えなかった。




