第十八話 肉豆腐
「完成です!」
ヨハンに頼み海水を持ってきて貰った。
「魚介の類いは運ぶのは大変ですが……。
海水なら簡単なので……」
とは、ヨハンさんの言葉だ。
まあ。実際に魚介を運ぶのは大変だろうと私でも分かっている。
海水を浄化……汚れや細菌を取るのはこの世界で覚えた魔法であっさりとできた。
水の精霊の力を借りるらしい。
綺麗……それこそ、最近や不純物を取り除いた海水。
かといって海水特有のミネラルなどは十分にある。
それらを煮詰めて塩を取り出す。
「塩がほしいなら、別に調達しますが……」
「ほしいのは塩じゃなくて……。
塩を作った後に残るこっちなんです」
ヨハンさんの言葉に私はそう言って塩を作り終えて余った水を見せる。
「? これが?」
「はい」
その言葉に味見をしようと思ったのだろう。
ヨハンさんが少しなめて……
「苦っ!」
苦さに目を白黒させた。
「これ……食べられるようにできるんですか?」
「あー。味付けには使いませんので……」
海水から塩を作り終えた後に残った水分。
それはにがりだ。
にがり……それは苦い水と書いてにがりと呼ぶようになったぐらい苦い。
だが、そのにがりにはある効果がある。
それは、
「凝固剤……豆乳を固める力があるんです。
まあ、豆乳以外も固める力がありますけれど……。
ただ、何でもじゃないですね」
正直、固める性質だけなら寒天やゼラチンのほうが強い。
ただにがりには熱に強い。
茹でたり温めたりしても溶けない。
「冷や奴を作るならともかく……。
暖かい豆腐料理を作るならにがりが必要なんですよ」
私は笑顔でそう答えた。
実際の所、豆腐……厳密に言えば豆乳を固めるだけならゼラチンや寒天でも可能だ。
だが、私がにがりにこだわったのは暖かい豆腐料理を作るためだ。
ゼラチンや寒天はどうやっても煮込めば溶けてしまう。
にがりで固めれば、茹でようが焼こうが溶けることはない。
「それで……これが豆腐?」
「はい。食べてみますか? 苦くないですよ」
その後、いろいろとやってどうにか自家製豆腐が完成する。
幸いなことに豆腐そのものは、さほど難しくない。
さすがに専門的に作るのは大変だが……自作するのは難しくない。
さすがにプロ職人ほど作るのは難しいが……。
むしろ工場で大量生産されている市販品よりも大豆の味がよく感じられた。
「……なんというか……シンプルな味だな」
「まあ。豆腐はそれだけを食べるというものじゃないんで……。
基本的に豆腐を食べるなら醤油をかけるのが一般的ですね」
そう言って私は醤油をかけてさらに食べさせると、
「あ……なんというか……。
つるんとした味ですね」
「まあ。豆腐は引き立て役? というわけじゃありませんが……。
主張が強い素材ではないので……。
けれど、メリットも多いんですよ」
「メリット?」
「そうですね。肉料理のかさ増しに使えますね。
挽肉と混ぜて使うと肉だけよりもふわふわで柔らかい食感になります。
それに、こうして冷や奴にしているとおり……。
火を通さないでも美味しく食べれますね。
まあ、日持ちは微妙ですけれど……」
高野豆腐にすれば日持ちするが……。
あれを作るのはちょっと違うのでさておいておく。
「せっかくなので料理にしますね。
鍋料理にも使えますけれど……。
そうですね。
がっつりと食べたいならこれかな?」
豆腐は季節問わずに味わえるが……。
それはそれとしてこの料理はどうだろうか?
そう思いながら私は肉豆腐を作ることにした。
肉豆腐。
肉と豆腐、そしてネギを使った料理だ。
これだけ聞くとすき焼きとどう違うのかわからないかもしれない。
肉豆腐はすき焼きよりも味付けは違うのも特徴だ。
それに、作りやすさはかなり違ったりする。
後はやっぱり肉豆腐は豆腐が主役だが、すき焼きはやっぱり肉が主役だと思う。
今回は豆腐の魅力を伝えたいので肉豆腐にする。
と言うか……
「今日は豆腐祭ですね!」
シンプルな冷や奴に湯豆腐。
それらも当然だが、炒り豆腐や揚げ出し豆腐。
そして白和えなども作ってみせる。
完成した料理を見て、
「なんというか……。
いろいろだな」
「はい。白和えや冷や奴は確かにゼラチンで良いかもしれませんが……。
いえ。白和えのこの感覚はゼラチンでは作れませんね」
にっこりと笑いながら料理を出していく。
それに何よりも
「それに……熱に強いので……。
こうして熱々の料理が食べられるんですよ」
そう言って一通りの料理を出してみせる。
「確かに……。
ゼリーだとこれは食べられないな」
そう言って頷くヨハンさん。
「他にも豆腐はいろいろとアレンジが出来ますからね。
卯の花も美味しいですし……」
そう言って豆乳を作った結果、出てきたおからを見せたりする。
「これも食べる事が出来るんですよ」
そう言えば、驚くヨハンさん。
「それに制作過程で出来る大豆を液体状にしたもの。
これは豆乳と言うんですけれど……。
これを呑むのも美味しいですしね」
さすがに現代日本で売られていたようなプリン味やミルクココア味とか、イチゴ味とかは作れる自信はないが……。
普通の豆乳なら作ることぐらい出来る。
……いや。豆乳プリンは作れるけれど……。
それは個体の形である。
あとは、
「あとは、豆腐にする家庭で生まれるおからもお勧めですね。
普通にお肉を使ったハンバーグにませてお肉の量を減らすことも出来ますし……。
それだけを調理することもできるんですよね」
そう笑うアカネ。
「それに、栄養素も肉の代用品になるんですよ。
味とかは変わりませんが……栄養は肉と同じなんですよ。
……と、言っても厳密には少し違いますが……」
植物性タンパク質と動物性タンパク質は厳密には違う。
軍人などには肉のほうが栄養を取りやすいが……。
ダイエットなどにもあるだろうし、
「あと、普通に美味しいですしね」
「確かに……」
癖のない味だが……それでもある。
それに肉の代用品になるというのはかなりの魅力だ。
そうヨハンは考えていた。
「まあ。保存目的は大豆だけれどね。
ただダイエット効果はあるから」
「それは……需要がありそうだね」
ダイエットというのは女性にとってはかなり魅力的だ。一定の年齢を迎えた年頃の女性は体型維持は重視される。
粗食が多い平民は別だが……。
貴族となれば話は別だ。
豪華な食事が多い晩餐を繰り返した結果……コルセットがハマらなくなる。
そういった話は元貴族、現商人であるヨハンはよく聞く。
それに、貴族ならば男性の中にも肥満に悩むものが多い。
騎士として軍部で活躍していたが、年齢や体の負傷で引退、後身に任せて行動をする。そう言った元軍人貴族もいるし、それらを否定しない。
だが、その結果……肥満に悩む軍人が多い。
軍で活躍していたときの食事量と減った運動量。
老化により減った代謝……。
結果……気がつけば、体に無駄な肉がつき若い頃は身につけていた鎧は入らず、自由に動くことも出来ない姿となる。
そう言った貴族も大勢いる。
そう言った貴族は……肥満を恥ずかしいと感じる。
もちろん、肥満を自信の豊かさの象徴だと自慢する者もいるが……。
当然ながら医者からは説教となっている。
肥満と運動不足で医者から説教される貴族も多い。
それに元軍人あがりの貴族だと節制できていない。
そういったことで悪い評価を受けることも多い。
そういう意味からしたら、豆腐は良いのかも知れない。
そう思っている。
「ただ、太りにくくなるだけですよ。
これを大量に食べていて痩せるわけではないんで」
日本でもあったダイエット食品に対する誤解を注意するアカネであった。




