第21話 世界滅亡とか言われても実感ないし身の安全が第一よね
オリエラはそういうと、応急処置を終えた扉から離れ、ティーテーブルにティーポットを用意し始めた。あたしは首を振って、その場に座ると、ヴィエラがごく自然にあたしの隣へ座る。その様子を見たオリエラが、ヴィエラを目で制した。そして、あたしに対して視線を向けてから折り畳み椅子を引いた。……今回ばかりは、甘えることにして、あたしはその椅子に座った。
「まずは。シルバーナ。貴方にはかなり危険なことをお願いしておりました。ヴィエラの症状について。これは病気といえば病気ではあるのですが、ただの病気ではございません。異世界からの侵略者……寄生体『パラメテノイド』に寄生された人間の……末路……と言えばよいのでしょうか」
「末路というのは結末、行く末。自分でわかってるわ。まだ先がある。だからまだその言葉には少しばかり早いかしら。いずれにしても、寄生体、と名がつくだけあって、最終的には寄生を広げるのが目的の生き物に書き換える……そういう生き物ね。私はそれに寄生されている」
オリエラが概要を説明し、ヴィエラが淡々とそれを補足した。オリエラが俯いたまま、悲壮的に話すのに対して、ヴィエラはまるで他人事のように表情一つ変えずに話す。なんで当事者の方が淡々としてるのよ! っていうか……
「待って。つまり、症状って言ってる魔素が高い人を襲いたくなる衝動っていうのは、寄生体の動物的本能ってこと? で、あたしは、ヴィエラに狙われてると」
「ええ、そういうこと。さっきも言ったわよね。コントロールできているうちはいいけれど、近い将来、できなくなる可能性があるって。希望を言えば元の体に戻れるように、だけれど、寄生されて早三か月。私自身の体質もあってか、進行が早いみたいで、これは無理だろうな、って、感じ取っているところよ」
「そんな簡単にあきらめないでください! 貴方らしくない!」
珍しく怒気を隠さずヴィエラに向かってオリエラが叫ぶ。気持ちは、わかるわ。だけど、数回話した中でヴィエラの性格から考えると……
「それは何か根拠があるのよね? 体質の、不可逆的変化か何かを感じ取ってるってことでいい? それだと、確かに対症療法を行うしかない、って結論を出さざるを得ないわ。これは諦めてるんじゃないの。現実的に見ての話よ」
あたしは医者じゃない。だけど、薬師として人の体を治すという行為に対して知識がないわけでもない。人として、できる範囲がどこまでなのかも理解してる。だからこそ、オリエラには悪いとは思いながらも、オリエラにもわかる様に説明する必要があった。治療っていうのは、周りの理解がなければ進まないから。
「話が早くて助かるわ。もしかして、あの雪山での戦いで気づいていたかもしれないけれど、私は血を武器のように操って見せたでしょう? あれはね、体の一部を動かしてる感覚でやれるのよ。この寄生体は元々は液体。液体を介して他の生き物の体に侵入し、その生き物の体液を自分に置き換えるの。そして脳に対してもそれが正常だと認識させ、増殖する環境を整えて、他の生き物へと寄生できる準備を整える。血を操るというのは、もう既に、体液は自分自身だと、脳に認識させることに成功している証。手遅れよ」
オリエラが顔を背けるのが見えた。気持ちはわかる。助けたくてここまで追ってきた相手が、自分でもう手遅れだと宣言する。耐えられないわよね。だけど、これではっきりしたことがあるわ。あたしは、オリエラにもわかるよう、はっきりとヴィエラに対して力強く言った。
「確かに、体が人として終わってる可能性はあるわね。でもこうして人として話せてる。本人として話せてる。精神的に終わってるわけじゃないのなら。寄生体とやらに全部持っていかれる前に、患者を救うのが医者や薬師の仕事よ。もっとも、患者にその気があるのならなんだけど」
「その気がないのなら、依頼を継続する必要性はないし、貴方に話すべきだなんて言わなかったわ。なんなら、貴方を私のものにしたい、というこの感情もね、話す必要性はないもののはず。……ただね、この感情については本当に寄生体だけのせいかは、怪しいわね。だって、私、貴方の事、このやりとりでますます気に入っちゃったもの」
ああ、怖っ! あたしもあんたのその性格は嫌いじゃないわよ。オリエラほどじゃないけど。好きってのを真正面からぶつけてくれるなんて気持ちいいじゃない。でもそれが、正真正銘、自分の身の危険と直結してるのは怖すぎるのよ!
「ヴィエラ、貴方はどこまで本気で話してるんですか」
オリエラが丁寧なのにイラついているのが分かるような声でヴィエラに問う。オリエラ、あんたは本当、隠せないわね……
「あら、オリエラ。相変わらず素直ね。私がふざけてこんな事を言っていると思う? 全部本当よ? 本当のことしか言ってないじゃない。それとも、貴方の気に障るようなこと、私、言ってるかしら? 私、貴方のことはずっと前から好きなのよ。大丈夫、以前話したと思うけれど、この体になってから、貴方の魔素が低いことが分かって、安心して傍に置いておけるのがとても嬉しくてたまらないの。だから追ってきてね、どこまでも」
うっとりしたような顔でオリエラに告げるヴィエラ。
ヴィエラはヴィエラでそれ、隠す気、一切ないわよね? ちらりと、あたしはオリエラを見て、確認するように聞く。
「……オリエラ」
「なんですか、シルバーナ」
「あんた、物凄く厄介なものに好かれてるっていう自覚ある?」
「好かれている? ヴィエラのいつもの冗談です。真に受けていたら体がいくつあっても足りません」
……ああ……そういうこと……つまり、ヴィエラは正確に自分の状況はわかっていて、タイムリミットも多分、本人の自己申告通りだと思う。だけど、オリエラがあまりに心配性で、ヴィエラの気持ちがわかってないから、過度に症状を見てしまっている構図ね……
あんたらどっちも悪いわ。ヴィエラの発想はちょっと病んでるし、オリエラは真面目過ぎ。世界滅亡モノ、ってのは話を聞く限り大げさではなさそうだけど……あたしにできることって結局は変わらないんじゃない?
「とりあえず。あたしはあんたの衝動を抑える薬をいち早く作って、その後、他人に寄生させないような薬を作れば万事解決ってことで、いい?」
「! シルバーナ! それは、できるのですか!?」
「今、ヴィエラがヒント言ったじゃない。あんた、魔素が低いんでしょ。魔素が低い奴には寄生させたいっていう意欲が落ちてるってことでしょ? つまり、寄生の仕組みに魔素が絡んでるんじゃない? もっと詳しいこと分かって、設備さえ手に入れば作れないことはないんじゃない? って思ったんだけど」
あっけらかんと言ってみたけれど、あくまでこれは推測。寄生体、っていうぐらいだから生態があるはずなのよね。その生態に合わせた薬は多分、作れると思うのよね。多分。できないって最初から考えるのはあたしはあまり好きじゃないのよ。だから、楽観的な見通しを口にした。だって、希望があるから前に進めるんでしょう?
「ふふっ、全部推測なのに、自信満々なのね。ほら、オリエラ。シルバーナは信用して話してもいい人だったでしょう?」
「ですから貴方がそう信じる根拠がありませんでした。ですが……信じてくださり、ありがとうございます。では次の」
「ああ、いいわいいわ。次の話は次の機会で。症状にまつわる話だけであたし、今日はお腹いっぱい! その事だけに集中したいから、その次はまた今度ね! 今日は寝ましょう」
「……シルバーナ……ありがとうございます」
メリッサ、テリッサ、という単語とか気になる話はいくつもあるけど。だけど、オリエラの話を聞く限り、これ以上話させるのはオリエラが辛すぎると思った。だから、あたしはまずは一つ、その不安を片付けてから、じっくりその話を聞かせてもらうことにした。
オリエラがいつも通り馬鹿丁寧なお辞儀をする姿を見て、その判断が正しかったことを確信して、その日の夜は、三人で、夜を明かした。
明日は拠点内を整えて、早速初製造しないとね。一刻も早くこの依頼をこなすために。
そうじゃないと、あたしの身も危ないし!
告知:第2章はここまでとなります。次回連載再開は11月19日の予定となります。同シリーズの連載は引き続き行っておりますので、今しばらくお待ちください。
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