第23話 暴露配信を見た葛嶋と美香の反応と行動
ぴよこによる暴露配信をしている同時刻……配信している場所から少し離れた空間で葛嶋は気が付いた。
圭太と言う気に入らない相手に回復させられた上に、一瞬で戦いに敗れた葛嶋は未だに納得がいってないようだった。
天を見上げ、大の字で寝ている葛嶋は先ほどの敗北を考えれば考えるほど頭に血が昇っていく。
(あいつの目が昔と違った……だが、俺は知っている。奴は寝ること以外何もできないヘタレ野郎だってことを……何か……細工をして、イカサマをしているに違いねぇ!! そうじゃねぇと生意気なあいつは俺に勝てねぇんだからよぉ)
今すぐに起き上がって、圭太の事を殺してやる……そう思うが、足に力が入らない。
「糞が……」
舌打ちをし目だけを使って周りを見ると、視界の上の方に見慣れた後姿があった。
金髪の頭は自身の彼女、美香しかいない。美香はこのパーティ……いや、葛嶋専用の施療師だ。
だからこそ、葛嶋がクエストに行く際は美香も連れて行き、一緒に行動する。
葛嶋が指示すれば葛嶋優先に治療を行うように調教済みなのだ。
葛嶋は上体を上手く使ってうつ伏せの体勢を取ると、腕だけで美香の元へ身体を引きずらせて近づいていく。
「おいっ! おい美香っ! 俺を回復させろ!! おい!! 聞いてんのかてめぇっ?」
怒鳴りながら美香に声をかけるが、葛嶋から背を向けてピクリとも動かなかった。
本来、葛嶋の一言ですぐ行動する美香が動かない。どうやら何かを見ているようだったが、葛嶋からして見ても、明らかにいつもと様子がおかしいはずなのだが葛嶋にそんな異変を気づけるほどの余裕などない。
「おいっ! 聞こえてんだろ!? 何度も言わせんじゃねぇ!! 早く俺を回復させろ!! おい美香っ!?」
地に伏した身体から首だけを上に向け、叱責すると到頭美香がゆっくりと葛嶋の方へと振り返った。
しかし、葛嶋が見た美香の表情はこの世が終わるのではないかと思わせるほど青く、熱く塗ったアイシャドウがドロドロに溶けて涙と共に頬から流れ落ちていた。
「し、茂……わ、私たち……」
美香の手に持っていたのは葛嶋が買い渡した最新のスマホだった。美香はこれを見て何かショックを受けたのだろう。
「お、おい! それ見せろ! 早く!!」
葛嶋の言葉で美香が見ていたスマホの画面を葛嶋へと向ける。
それはDチューブのダンジョン配信、しかしどこか見覚えのある場所だ。
映っているのはぴよこ、配信のタイトル”【削除覚悟】特別企画!! ぴよこの暴露配信『本配信及び葛嶋茂の真相をお話しします』”を見て、葛嶋は全てを悟った。
「ま、まさか……小川圭太がっ!?」
だが、葛嶋が気づいた時にはもうすでに遅かった。
ぴよこがつらつらとこれまで行ってきた葛嶋の行いを1000万人以上の視聴者の前で話をしている。
ダンジョン配信中の小型カメラの存在、ぴよこが着けていることは知っていたが圭太にも付いていたことを葛嶋はここで初めて知った。
ぴよこが話すと滝のように流れるコメント欄。
最早、目で追うことが難しい程に沢山の人間がコメントをしているが、運よく目に入った言葉はどれも葛嶋や美香、そしてアスモディに対しての攻撃的なものが殆どだった。
「火喰鳥ぃ……!」
苦虫を噛み潰したような顔で配信画面を睨みつける。
”「こほん……私から言えるのはここまで。ここからは私だけで無く、葛嶋茂の近くにいたギルドメンバーの方々にも登場して、話をしてもらいます!」”
その言葉で現れた3人の見覚えある者達。
「あいつらも……裏切りやがったのか……!!」
二多恵、妃兎絵、そして鈴木が話をしてコメント欄は一気に盛り上がりを見せていた。
葛嶋の身体が震える。
それは怒りではなく、身体が恐怖を感じているからであった。
この時、葛嶋は人生で初めて自身が窮地に立たされ、怯えてしまっていたのである。
世界に向けて自身の行いが解き放たれ、今……明るみになっていく。
世界の視界が広くなればなるほど、葛嶋と言う権威は崩れ、周囲の皆が敵になっていく。
そんな権力の近くに居た美香も他人事ではなかった。
「どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしよう!! 私は、私は……なんで!? 茂っ!? なんでこんなことになっちゃうの!? 私が貴方に付いて行ったのがいけなかったの!? 私だって頑張ってたのに!!
耐えてたのに……それなのに……なんで私ばっかりこんな目に合うのよ!!!!!! 貴方と出会って何も良い事が無かった!! ねぇ茂!!?? どうすれば良いの!? どうすれば良いの!?」
美香の精神状態は到頭ボロボロに崩れ、壊れてしまい自分で感情をコントロールできずにヒステリックを引き起こしていた。
倒れる葛嶋の背中を泣きながら叩く美香。その様子を見て、葛嶋は額に血管を浮き出せながら静かにキレた。
「ああ……女はいつもそうだ。自分で男を選び、危うくなると他責思考になってすぐヒスる。てめぇの事棚に上げて、俺のせいにしてんじゃねぇよゴミブスが! 俺はてめぇの末路なんかどうでも良いんだよ!」
「はぁぁ……そんなそんなそんなそんな、圭太どうしようごめんなさい圭太ごめんなさい圭太ごめんなさい圭太ごめんなさい、あの時圭太を選べば……選べば、ああ……」
美香は頭を抱え、もう正気を失っていた。この女はもうだめだ……
「おい、美香……俺の話を聞け」
「……」
「どうせ、俺もお前もここを出たらDICの秩序科に身柄を捕らえられる。なら、最後に一暴れしようぜ? 俺はあいつらを殺してぇんだ……俺達の顔……いや全身に取れない傷を負わせた憎い奴らをここで殺さねぇと俺の気が晴れねぇんだよ。どうせてめぇに味方何かいやしねぇんだから。俺はいつでもてめぇの味方なんだからよぉ。最後までお前の事だけは俺の力で守ってやる。だからお前は俺を信じて、回復させろ。なぁ?」
葛嶋がここで気持ち悪いほどに優しい口調になった。
DV男が良くやるベタな手法である。
本来、正常な女ならこんな胡散臭い言葉で心が揺らぐはずはないと思われるが、美香は違った。
不安定な精神状態、全てが自分の敵になっている状況で掛けられる優しい言葉は、自分を必要としてくれる者がいると強く錯覚させる。
美香はその時、頭の中で何かが弾けた様な感覚になった。
「じゃあ……助けて……助けて助けて!! ”上級治癒”!!」
壊れた精神状態で正常な判断が出来なくなった美香は到頭、その縋って来たものから離れることを諦め、巻かれることに決めたのである。
(馬鹿な挙句ちょろい女で良かったぜ)
美香の回復魔法によってHPが回復し、身体の損傷も回復した葛嶋。
「ありがとよぉ、俺の可愛い美香♡」
そう言いながら、葛嶋は美香の頭を優しく撫でる。
美香は笑顔どころか目に光が消え、表情が死んでいた。
だが、美香の状態など葛嶋にはもうどうでもよい事である。
葛嶋はただただ、全員殺すことだけしか頭になかった。
「さて……殺戮の時間だ」
葛嶋は近くの瓦礫の中から鋭利な石を拾い上げると、配信している奴らに向かって渾身の投擲を行ったのであった。
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