深夜水溶液11
アパートに戻るとすぐに京都から持ってきた『みっつめの狂気』を取り出した。マッドな質感の表紙に毒々しい紅茶のイラスト。実に栞らしくない装丁だと思う。まぁ、中身を読めばこれ以上の表紙もないとは思うけれど……。
『みっつめの狂気』はある女性が配偶者と自身の娘、そして不倫相手の三人を毒殺する話だ。これだけ聞くと非常にサスペンスっぽく聞こえるかもしれない。でも……。内容はサスペンスというよりも人間ドラマ、純文学に近かった。特に最後に主人公の女性が紅茶に毒を混ぜるシーンは文学的だった。(私は文芸には疎いので上手く論評出来ないけれど)
私は反芻するように本のページを捲った。二回目の『みっつめの狂気』。基本的に私は一度読んだ本は読まないけれどこの本だけは何回でも読める気がする。
栞は「ただ筋道立てて書いただけ」と言っていたけれど、『みっつめの狂気』はそれだけの作品ではなかった。この小説には変えることの出来ない人間の本質……。具体的には愛されたいという欲望が淡々と描写されていた。
愛されたい。
愛されなければ生きている意味がない。
愛されないくらいなら……。
――と話が進む。
控えめに言ってかなり狂気じみた内容だ。一人称視点で話が進むだけにそれを強く感じる。
一見すると順風満帆な主人公がふとした弾みに落ちていく。その様はとても他人事とは思えなかった。私だって同じようになるかもしれない……。そう強く釘を刺されたような気がした。
気がつくとすっかり日が落ちていた。カーテン越しに差し込む日差しはすっかりオレンジ色だ。
私は『みっつめの狂気』を閉じて枕元に投げた――。




