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深夜水溶液8

「ただいま」

 と住み慣れない部屋に戻った。まだスイッチの位置もろくに把握していない我が家。

「お邪魔します」

 栞もそれに続いた。

「適当なとこに座って。まぁ……。ワンルームやから狭いけど」

 西浦さんが用意してくれた部屋は可もなく不可もない部屋だった。二〇歳の女子が暮らすごく一般的な部屋だと思う。まぁ短期出張用と考えれば至れり尽くせりだと思うけれど。

「したらお茶煎れる」

「あ、私も手伝うよ!」

 インスタントのティーパックの封を開ける。リプトンの黄色い包み紙。そして実務的な白いティーカップ。応接セットのような組み合わせだ。せっかくなので茶葉から煎れたいけれど贅沢は言っていられない。

 それから私たちは一緒にキッチンでお茶の準備をした。私がお湯を沸かし、栞がお菓子を皿に盛り付ける。

「ラジオのお仕事いつから?」

 と栞に聞かれた。

「来週からやで。平日限定やけどな。週末はツアーあるから移動ばっかやけどな」

「うわぁ。大変だね。あんまり無理しないでね」

「せやな。気ぃつけるわ……」

 気をつける。とは言ったものの多少の無理は仕方ないと思う。他のメンバーや西浦さん、あとはスタッフ全員かなりの無理をしているのだ。私だけサボるわけにはいかないだろう。

「そういえば岸田くんは? こっち来てるの月子ちゃんだけ?」

 栞はふと思い出したように話題を変えた。

「ケンちゃんはイベントのときだけこっち来る感じかな? 一応東京公演の前にはウチのメンバー全員ラジオ出るからその前には来るで」

「そっかぁ。あの人も変わらない?」

 栞は続けざまに質問した。やはり元彼の動向が多少は気になるのだろう。

「変わらんで。少し太ってギター上手くなったぐらいかな? 基本あの人は変わらんから」

「へー。元気そうなら良かった!」

 思い返せば健次は昔から変わらない。それこそ小学校の頃から見た目を覗けば変化していない気さえする。

「ほんまにな。まったくケンちゃんいつまで経ってもガキなんやから……」

 思わずため息が零れる。

「フフフ、二人とも変わってなくてよかった」

 栞は嬉しそうに笑った。

「まぁなぁ。でもケンちゃんぜんっぜん成長してへんで! バンドマンとしてはともかく人としては小学生のままやから!」

 本当に変わらない。健次は変わってくれないのだ。その変化の無さは私を苛立たせた。別に遅刻癖が治らないだとか、つまらないことにこだわり過ぎるとかそういう話ではない。

 もっと異性として。男として変化して欲しいのだ。そして私を抱きしめて欲しい……。邪な下心ではそう思う。

「まぁまぁ、男の人ってみんな子供だよ? 水貴だってまだまだ子供っぽいこと言うしさ」

「はぁ……。栞はええなぁ。ええ旦那さんなんやろ?」

「うーん……。うん! 良い旦那さんだよ!」

 謙遜せんのかい! とツッコみそうになる。

 やれやれ。栞は昔から文芸と男に関してはいつもこうだ。


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