思うしか
呪いで黒くなった人達は
皆が恐怖に顔を歪めて
悲しみや苦しみに耐えている表情で
そこからは死への恐怖とか絶望とか
そんな事しか読み取る事が出来なかった
けれど
最後に見たリュカは
涙を流しながら
俺を見て微笑んでいた
微笑んでいたんだ
俺はしばらくその場から動けずにいて、何が起こったのかも分からずに、ただ呆然とする事しかできなかった……
リュカの服や身に付けていた物を広い集めて手にしたまま、その姿を探す。
リュカを思って空間移動で行こうとするけれど、どこにも行く事が出来なかった。
ただその場に立ち尽くすだけで、いなくなったリュカをどう探せば良いのかさえ分からないままで……
いや……そうか……家の中にいるかも知んねぇ。
そう思いたって、すぐに家に入っていく。
居間にはいなかった。次に寝室に行って、リュカの部屋も見に行く。そこにもいなかったから、風呂も見に行って、俺の部屋も確認しに行く。
けれど、どこにもリュカはいなかった。
嘘だ。
違う。
絶対に違う。
ひとつの答えにたどり着こうとするのを必死で止めて、それからもリュカの姿を求めて家中を探して、それからまた外に出て辺りを必死に探す。
けれどリュカの姿はどこにもなくて、きっと帰って来れなくて困ってる筈だから、俺が探し出さないといけないんだと思って、あちこち走り回ってリュカを探す。
なんで何処にもいないんだ?
何処に行ったんだ?
怖くなって、リュカの存在を確認できなくて、手に残ったリュカの身に付けていた物を胸に抱きしめるようにして、何度も違う、そんな筈はないって思いながら、またリュカを探して走る。
なんでリュカは黒くなっていた?
呪いに侵されていたのか?
いつだ?! いつそうなった?!
あんな姿で、リュカは何処に行った?!
早く助けてやらないと……!
怖かったよな?
俺が帰って来なくって、ずっと不安だったよな?
ごめんな? 俺、もう何処にも行かねぇから。ずっとリュカの傍にいてやるから。だからそろそろ出て来てくんねぇかな。
なぁ、頼むよ、リュカ……
頼むから……!
俺を置いて何処にも行かねぇでくれよ……!
リュカっ!
「セームルグっ!」
堪らずにセームルグを呼び出した。
そうだ、セームルグならリュカが何処にいるのか知ってる筈だ。
そうやって呼び出したセームルグは、俺の中から光りを帯びて出てきた。
なんでだ?! なんで俺からセームルグが出てくんだよ?!
「セームルグ?! なんで俺から出てきたんだよ?! リュカの元にいたんじゃねぇのかよ!」
「リュカが私に貴方を連れて帰って来て欲しいと頼んだからです」
「リュカが……」
「リュカに頼まれて、私は仕方なくエリアスさんを探しに行きました。そこは時空の歪みがある場所でしたね」
「そう、だ……俺は遺跡の中にいて……」
「私が貴方を見つけた時、貴方は水晶に手を当てていたところでした。呪いの術式を奪っていたのですね? しかしあのままでは、貴方の体は呪いの術式に占領され、あの水晶のようになってしまう状態だったのです」
「えっ?! けど最後に呪いの術式を奪った時は……俺に何も起きなかったぜ!? それよりも体の調子は良くなって……もしかしてその時セームルグが……」
「はい。私が貴方に宿りました。その術式を破壊させたのです」
「待ってくれ……じゃあ、じゃあリュカは?! リュカは何処に行ったんだよ?! なぁ、何処にいるか教えてくれよ!」
「それは……」
「セームルグはリュカに宿ってたんだろ?! なんで頼まれたからって俺んとこに来てんだよ!」
「エリアスさん……」
「なぁ、リュカは一人で寂しがってると思うんだ……だからすぐに迎えに行ってやらなきゃいけないんだよ……リュカは何処にいるんだ? 知ってんだろ? セームルグなら知ってんだろ?! 」
「エリアスさん……リュカは……もう……」
「もうって……なんだよ? 隠すなよ! リュカが何処にいるか分かってんだろ?! 教えろよ!」
「リュカはもうこの世にはいません!」
「ハ、ハ……何、言って……なわけ……ねぇ、だろ……?」
「あの呪いを……呪いに侵された人々から呪いを奪って……リュカは……!」
「んな事……信じられるわけ、ねぇだろ……? そんな事……あるわけねぇって……! 俺の呪いを破壊させられたのに、なんでリュカの呪いはそうしなかったんだよ!」
「あの複雑に絡み合った術式をエリアスさんは一つずつ紐解き、最後の一つのみとなっていたから私でも壊滅できたんです。あの呪い自体は複雑過ぎて私には手に負えなかったんです……!」
「なんで俺なんか助けるんだよっ! なんでリュカのそばにいてやってくれなかったんだよ!!」
「帰って来ない貴方を! リュカはずっと一人で待っていたんです! 泣きながら誰に助けを求める事もせずに! 私に貴方を連れて帰って来てと泣いて……!」
「リュカがもういないとか、信じられるわけねぇだろっ!!」
嘘だ!
嘘だ嘘だ!
嘘だ嘘だ嘘だっ!!
そんな事ある訳ねぇっ!!
リュカは何処かに行ってるんだ!
俺が探しに来てくれるのを待ってる筈なんだ!
俺が帰って来ないのを怒って、いたずらに隠れているだけなんだ!
なぁ、そうだろ? リュカ!
分かったから、もう分かったから、頼むから出てきてくれよ! なぁ! リュカ!!
セームルグの言うことが信じられなくて、信じたくなくて、さっきと同じ様にまた家の中を探して、けど見つからなくて、また外に出て走ってリュカの姿を探す。
けれど何処にもリュカの姿は無い……
「嫌だ……嫌だ……! リュカがいねぇとか、考えらんねぇって! 嘘だ! リュカっ!!」
大きな声で叫ぶようにして、リュカの名を呼び続けて
だけどリュカはどこにもいなくって
俺の叫ぶ声だけが響き渡る
なんでこうなった?
何がいけなかった?
俺はなにを間違えた?
俺はどうすれば良かった?
どうしたらリュカは俺の元へ帰って来てくれる?
俺は何の為に生きている?
リュカを生かす為に不死になって
なのになんでリュカはいない?
「嫌だ……嫌だよ……リュカ……何でもするから……帰って来てくれよ……! リュカ! 頼むよ! リュカーっ!」
何度も何度もリュカを求めて言うけれど、その声は何処にも届かない
俺のリュカは 何処にいるんだ?!
気づくと帝城のゾランの部屋に来ていた。
目の前にはゾランがいて、心配そうに俺に駆け寄って来る。
「エリアスさん! リュカは?!」
「ゾラン、リュカ来てねぇか?!」
「え?!」
「どっかに行ったみてぇなんだ! 探してやらねぇとダメだろ? なぁ、リュカが何処に行ったか知らねぇか?!」
「何処にって……家に帰ったんじゃ……」
「リオは?! またリオと何処か遊びに行ったんじゃねぇか?!」
「リオはずっとここにいますよ! 遊びに行くなんて、この状況であり得ないでしょ?!」
「じゃあリュカは何処にいんだよ!!」
「リュカは……エリアスさん、手に持ってるのは……?」
「え……これはリュカの……」
「それじゃあ……リュカは……」
「違う……んな訳ねぇ……んな事……ある訳……」
「エリアスさん……!」
「リュカに何があったんだよ?! なんでリュカはっ!!」
「恐らくですが……」
それからポツリポツリとゾランは俺に話して聞かせてくれた。それは、リュカに聞いた訳ではない事だったけれど、ゾランが言ってる事はほぼ間違いなく事実なんだろう。
なぜ気づいてやれなかった……?
なんであんな依頼を受けちまったんだ?
リュカを一人放っておいて
寂しい思いをさせて
誰よりも守りたい存在であるのに
そばにいてやる事が出来なかった……
「エリアスさん、すみません! 僕がリュカをちゃんと見ていなかったから!!」
「いや……違う……俺が悪い……」
「でも! エリアスさんっ!!」
ゾランが何か言ってたけれど、それを聞かずにそこから姿を消して家まで戻ってきた。
フラリと歩きながらもう一度家中をくまなく探す。
けれど、やっぱりリュカの姿は見当たらなかった。
キッチンには鍋があって、何かが作られた後が感じられた。
鍋の蓋を取ると、それはエゾヒツジのクリームスープだった。
ひとすくいして、口に含んでみる。
「濃いな……けど……不味くはねぇ……」
不意に涙が溢れてきた。
俺の好きなエゾヒツジのクリームスープを作って待っててくれてたんだな……
一人で寂しくて、怖くて不安で、ずっとずっと一人で……
「ごめんな……リュカ……ごめん……っ!」
俺に泣く資格はない
俺が何かを求めるのは、そんなにいけない事だったのか?
どうすれば良かった?
これからどうすれば良い?
何も考えられなくて
ただリュカを思って
俺は何も出来ずにその場にいる事しか
リュカを思う事しかできなかった




