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黒龍の娘  作者: レクフル


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すべき事


 薬屋や治療所の前には人だかりができていて、私はそこにいた人達の呪いを奪っていく。

 

 呪いから解放された人々は、皆嬉しそうに、そして安堵の表情を浮かべる。


 そして、私を不思議そうに見ながら、あの村人達と同じ様にお礼をしたい、と言ってくれる。

 だけど、そんなのはどうでも良くて、とにかく私は他に苦しんでいる人達がいないか探さないといけない。


 帝都は広い。何処に薬屋とかがあるのか分からないから自分で探さないといけなくて、けれど呪いを奪ったばかりだと上手く歩く事が出来なくて、また私は翼を出して飛び上がってしまった。


 私の姿を見た人々は驚いて、ただ茫然と私が去るのを見送っていた。

 大丈夫だよね?ちゃんとペチパンツはいてるから、失礼じゃないよね?

 翼の出し入れが出来るように、前にマドリーネに何着か服を作って貰っている。

マドリーネは背中に二つ、縦に空くデザインの服を、

「変わったデザインになさるんですね」

って不思議そうに言っていた。

 因みに、縦に空いてる所にレースをあしらってあるので、見た感じは空いてるなんて分からないようになっている。

 

 だから、翼を出しても問題なく飛ぶことができる。さぁ、早く次の場所を探さなければ!


 上から見ると、人々が集まっている場所が分かりやすくって、さっきの場所から少し離れた所でまた人だかりを見つけた。

 

 すぐにその場所で降り立つ。


 診療所の前にいる人達は、後ろから降りてきた私の事は気付かずに、早く診察してくれとばかりに医者や受付の人に抗議していた。その人の元へ行って、抱きかかえられている子供の呪いを左手から奪っていく。

 みるみるうちに黒の皮膚が消えていくのを見て、その場の人達は私を取り囲むようになる。

 

 集まってきた人から、次々に呪いを奪っていって、その場にいた人々の呪いを奪い尽くしてから、また飛び立っていく。


 頭がクラクラする……


 一度戻って呪いを右手から出さないと……


 家に戻ってニレの木にもたれ掛かり、右手から呪いを吐き出していく。

 段々体が楽になってきた。良かった……

 

 もう少しここにいたいけど、きっとまだ呪いは帝都にたくさん残っていると思う。だからまた行かなくちゃ。

 

 うん、頑張るよ。もっと頑張る。


 じゃないと、エリアスは帰って来ないもんね。


 分かってる。だからすぐに行くよ。


 帝都に戻ってきて、上空から人だがりを探す。もう翼を出すのも平気になっちゃった。

 

 エリアスは怒るかな?


 ううん、怒られてもいい。帰って来てくれるんなら、怒られてもなんでも良いんだ。どうしてこんな事に気付かなかったんだろう?馬鹿だな私……


 また人だかりを見つけて、同じ様に呪いを奪って、辛くなってきたら家に帰って呪いを吐き出す。

 繰り返しそうやって帝都の呪いを無くしていく。

 でも、思ったよりも呪いは広がっている。

 帝都の外にも出ていってるかも知れない。そうしたらどうすれば良いんだろう? 私の手に負えないかも知れない。

 私は何も分からずに、なんて事をしてしまったんだろう。

 被害がどれ程広がっているのか、知れば知る程に怖くなる。


 とにかく帝都をどうにかしないと。まずはそこからだ。


 けど、今日はもう無理かも……


 なんだか上手く歩けなくなってきた。飛ぶのも難しくなってくる。


 家に着いて右手から呪いを吐き出して、木にもたれ掛かって体を休める。


 何だか息もしづらいな……


 頭のクラクラもずっとある感じだし……


 座っている自分の脚を見る。

 ペチパンツから覗く脚は、見える所は全て黒くなっている。

 腕も黒くなっていて、自分の手なのに上手く動かす事が出来ない。


 早く呪いを出さなくちゃ……全部吐き出さなくちゃ……


 怖くて、呪いに侵されていく自分の体が怖くって、また涙が勝手に溢れてくるけれど、それを拭う事も出来なくて……


 仕方ない……全部私が悪いんだもん……


 私は自分がしてしまった事の責任を取っているだけ。だからこうなっても仕方がないんだよ……


 エリアスは今日も帰って来てくれないのかな……


 まだダメなんだね。


 もっと頑張らないと許してくれないんだね。


 うん、分かったよ。

  

 頑張る。もっと頑張る。


 ずっとね、ずっと、言えてなかった事があるの。


 私、まだエリアスの事をちゃんと「お父さん」って呼べてない。

 

 前にエリアスが倒れて帰って来た時に、私はエリアスに「お父さん」って言えてない事を凄く反省して、次に目覚めたらちゃんとそう呼ぼうって思っていたのに。

 けれど、エリアスが目覚めた時にそう呼べなくて、そのままその機会を失ってしまって……


 だから今度こそ、エリアスに会ったらちゃんと呼ぶんだ。

 エリアスの事を「お父さん」って。


 エリアスはどんな顔をするのかな……

 

 ビックリするのかな? 嬉しく思ってくれるかな? それとも、エリアスって呼ばれる方が良いのかな? それも帰って来たら話をしてみよう。


 話したいことがいっぱいあるんだよ。 


 私、一人でも頑張ったんだよって。いっぱい頑張ったんだよって。

 だからいっぱい誉めて欲しい。怒られてもいい。それは私の事を思ってしてくれる事だから。


 その場から動けなくって、気づくと横に崩れ落ちるようにして眠っていた。


 ゆっくり体を起こして、辺りを見渡す。

 朝陽が空にあって、あのままずっとここで眠ってしまったんだと気づく。

 体を確認すると、昨日よりも体は動くし、黒くなった部分も少なくなっている。


 良かった……本当に良かった……


 木に手をついて、支えるようにして体を起こして立ち上がる。


 そうだ、私昨日、帰って来たらエゾヒツジのクリームスープを作ろうとしていたんだった。

 

 動きにくい脚を引きずるようにして歩き、家に入ってキッチンで料理をする。

 野菜やエゾヒツジを魔法で切っておいて、バターを炒めてから小麦粉を入れてミルクを入れてホワイトソースを作る。

 それから野菜とエゾヒツジを炒めて、水を入れてから煮込んで味付けをして、それからさっきのホワイトソース加えて具材を馴染ませてから味を整えていく。


 どうかな……


 上手く手が動かなかったから作業に時間がかかっちゃったけど、見た感じは良さそう。


 味見をするけれど、よく分からなかった。

 味覚を感じる所も可笑しくなっちゃったのかな……これじゃ上手く出来たかどうか分からない……

 食べてみようと思ったけど、野菜を上手く噛みきる事も難しくって、仕方なく諦める。


 大丈夫。呪いはここにいたら無くなっていく。テネブレも私の体の中で呪いと戦ってくれているみたいだし。

 今日は体を休めようかな……

 ずっとクラクラするし、上手く動けないし……

 

 でもダメだ。まだダメだ。

 こうやって自分を甘やかすから、エリアスは帰って来ないんだ。だからダメだ。絶対ダメなんだ。

 まだセームルグは帰って来ない。それはきっとエリアスを探してくれてるんだと思う。

 セームルグもそうやって力になってくれてるんだから、私もしっかりしないといけない。


 あ、そうだ。帝城に行かなくちゃ。ゾランに一日に一度は顔を見せなさいって言われるんだ。

 

 リオとテオは大丈夫かな。ミーシャも熱が出たって言ってた……し……


 そう考えてやっと気づく。

 

 リオとテオにも呪いが移ったんじゃないんだろうか……?


 ううん、本当は分かっていたのかも知れない。

 けれど、それを認めるのが私は怖かったんだ……


 現実から目を逸らしちゃいけない。

 帝都があんなだと、帝城はもっと酷いのかも知れない。


 帝城に行かなくちゃ……


 行って皆の呪いを解かなくちゃ!


 すぐに帝城へ空間移動で行く。


 あれ……リオの部屋に来たつもりだったのに、エリアスの部屋に来ちゃった……


 まだ頭がクラクラしちゃうし、段々考えとかも覚束無くなってくる……

 ダメだ、ちゃんとしないと…… 

 

 ここからリオの部屋までは遠くないから、歩いて行こう。

 そう思って部屋を出て歩いていると、執事のダミアが向こうからやって来る。

 見るとダミアも手の甲が黒くなっていた。

 やっぱりここにも呪いは蔓延していたんだね。大丈夫、すぐに取り除くからね。


 フラフラとダミアに近寄って行くと、私を見てニッコリ笑って礼をする。

 その手を取って、左手から呪いを奪っていく。ダミアは驚いて、私を見る。



「リュカさん、何をされたんですか?!」


「うん、えっとね、私ね、治せるんだよ。他にも黒くなっちゃった人、いない?」


「あ、います! 他の執事やメイドもそうですし、使用人や料理人もなんです!」


「そうなんだ……えっと、動けない人の所まで連れてってくれるかな?」


「はいっ! ありがとうございます!」


 ダミアに連れていって貰って、グッタリして動けなくなって休んでいるメイドの部屋までやって来た。そこには数人メイドがいて、黒くなって動けなくなって辛そうだった。

 

 ごめんね。私のせいなんだ。だからね、ちゃんと呪いを解くからね。すぐに平気になるからね。


 一人一人そうやって呪いを奪っていって、皆を元通りの元気な姿へ戻していく。


 えっと、あれ? 


 私、どこに行こうとしてたんだっけ……


 えっと……


 あ、そうだ、リオのところに行かなくちゃ……


 フラフラするけど、早く行ってあげなくちゃって考えだけが頭の中にあって、そうしたら目の前が歪んで見えたから、その歪みを抜けて行った。

 行く前にダミアとかメイド達が何か言ってたけど、お礼とかかな? よく聞こえなかったけど、お礼とかいいのに。だってこれは私のせいだから。


 部屋にはマドリーネがいて、私を見て驚いている。


 え? 何を言ってるの? よく聞こえないよ……


 フラフラとした足取りで、リオの寝室へと向かう。

 眠っているリオを見る。リオの腕も黒くなっていた。横で眠るテオもやっぱり黒くなっていて、それが申し訳なくて申し訳なくて、何度もリオとテオに謝る。


 テオの呪いを奪うと、テオは目を覚ました。それから私を見て、ビックリした感じで突然泣き出した。

 どうしたのかな? 黒いのが無くなって嬉しくて泣いちゃったのかな?


 あ、大丈夫だよ。リオの呪いもね、ちゃんと奪うから。だからテオ、泣いちゃダメだよ?



 あれ……


 上手く歩けない……


 そこにリオはいるのに、リオの元まで行けないよ……


 助けなきゃいけないのに、足が上手く動かせない……


 何とか少しずつでも足を前に出していって、ゆっくりリオに近づいていく。


 少しずつ少しずつ……大丈夫……近づいていけてる


 リオ、元気になったら、また一緒に帝都に遊びに行こうね


 冷やしたパイナポーは美味しいんだよ? だから一緒にたべようね


 あの観劇もまた行きたいね


 ずっとリオと友達でいたいから、私はリオを治さなくちゃいけないの


 私のはじめての友達だから


 

 やっとリオに触れる所まで来れた。

 

 と思ったら、誰かが何かを言ってるのが聞こえる。けど、何を言ってるのかよく分からない。ゆっくり顔を向けると、そこにはゾランがいた。

 

 ゾランは私を見て凄く驚いた顔をする。

 けれど、ゾランの顔もボヤけてちゃんと見えない。なんでかな? 私、泣いてるのかな? もうそれさえも分からない。


 ちょっと待ってね。リオの呪いを無くすから。


 リオに触れてそこから呪いを奪っていく。

 ゾランがそれを止めに来る。

 

 どうして? どうして止めるの? 


 こうしないとエリアスは帰って来ないんだよ?


 だからね、こうやって私頑張ってるんだよ?


 リオが目覚めて、私を見て何か言ってる。

 でも何を言ってるのか分からない。

 聞こえない。聞こえないよ……なんでなの?

 

 そうだ、呪いを吐き出しに行かなくちゃ……


 家に帰らなくちゃ


 帰らなくちゃ



 

 


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