表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックパラディン  作者: 鰺fly
第二章 墜落の神王編
31/34

開戦宣言

「少し手加減し過ぎたか……」

 教会の壁を突き破り、弾丸の如き勢いで吹き飛んで行った魔女。

 その後を追い、マイクが建物の外に出ると、通りに多くの女性が溢れかえっていた。


 全員が全員、虚ろな目をしており、魔術で操られているのが一目で分かる。


 その足元に《人形使い》が倒れ込んでいたと思われる血溜まりが見えた。

 しかし、肝心な魔女の姿は既に見当たらない。


(自身で作り出した人混みに紛れて逃げたか。賢いな)

 どうやらマイクの拳は魔女を一撃で死に至らしめるには力不足だったらしい。


「まあ、あれ以上の力を出していたら衝撃波で彼らを殺しかねなかったが……」

 静かに目を細めたマイクが背後を振り返ると、


「腕を見せてください。治療します」

瓦礫の山と化した教会の奥で目を覚ました眼鏡の聖女が、怪我した聖騎士達の治療を行っていた。


 治療の経過を見る限り、全員が一命を取り留める事ができそうだ。


(……この様子なら心配なさそうだな)

 その場で素早く踵を返したマイクは、通りに残った血の足跡を辿り、魔女を追い始めた。


◇◆◇◆


「な、何なんだあの化け物は!あんなヤバいやつがいるなんて聞いてないよぉ!」

 脇腹からおびただしい血を流した《人形使い》は、痛む足を引きずるようにして人混みの中を進んでいた。


 フードを目深に被り、自身が操る女性達の中に身を紛れ込ませている。


(この血を止めなければ……)

 後ろを気にした《人形使い》が、必死に脇腹から流れ出る血を両手で止めようとしていると、


トン、トン。

不意に通りの先から良く響く足音が聞こえてきた。


「誰だ? 」

 驚いて顔を上げた彼女の前方から黒いフードで顔を隠した一人の女性が歩いてくる。

《人形使い》の魔術の及んでいない、自立歩行する人間だ。


(何だ?あの聖騎士達の仲間か?)

 歩みを緩めながら相手の様子を伺う。

 長い金髪で目元の隠れた若い女性。


「……だとしたら、全く恐るるに足らないねぇ」

 現状、服の下から傷口を押さえ、周囲の人々と歩みを合わせた《人形使い》の正体を見破る術はない。


 ニヤリと笑った《人形使い》が、他の女性達に紛れて悠々と真横を通り過ぎようとした瞬間、


ズパンッ。

不意に見えてる景色が180度回転した。


「え?」

 驚きで思わず声を上げた《人形使い》の視界の隅で、自身の体が地面に倒れ込む。

 その首上には頭が乗っていなかった。


(な、何だ?)

 最初は戸惑いで何が起こったか理解できなかった《人形使い》だったが、すぐに自身の置かれた状況を理解する。


(首を、首を切られたのか……しかし、手も触れずに一体どうやって……)

《人形使い》の中を瞬時に駆け巡った疑問。

 しかし、彼女にはそれ以上に気になる点が一つあった。


「なぜ、私が魔女だと分かったんだ……?」

 頭だけになり、静かに地面に転がる。

 それを見下ろすようにして、黒尽くめの女が足を止めた。


 続けて、無言のままフードを脱ぐ。

 その下から表れた氷のように冷たい碧眼と、全身を覆う真紅の光を見て全てを悟った。


「ヒヒッ……何だい……あんたも魔女かい……」


◇◆◇◆


 突如、通りに溢れた女性達が一斉に地面に倒れ込んだ。

 その全員が意識を失ったようにピクリとも動かない。


(《人形使い》の精神支配が解けたのか?一体なぜ急に?)

 嫌な胸騒ぎを覚えたマイクが小走りで通りを進んで行くと、やがてその答えが分かった。


 血塗れの石畳に頭と体が切り離された魔女の死体が転がっていたのだ。

 その鋭利な切断面を見て目を見張る。


「一刀両断?馬鹿な……《人形使い》ほどの魔女をいったい誰が?」

 顎の下に手を当てたマイクが改めて死体を見下ろすと、離れた位置に転がる頭と目があった。

 その口元に浮かぶ楽しげな笑みを見てゾッとする。


(自分が死んだというのに、何が可笑しい……)


◇◆◇◆


「これだけ探して何一つ手掛かりが得られないとなると、完全にお手上げですねぇ」


 停戦協定本会議場。

 その最奥部にある細い廊下でため息を吐いたトーワが、言葉通り両手を頭上に掲げた。

 そのまま、やる気なさげに地面に倒れこむ。


《ジェミニ》との一戦を終えたヤンガルとトーワは、本来の目的であった魔女達が行ったという取り決めに関する調査に移っていた。

 しかし、手掛かりは一向に見つからない。


(流石に会議の内容を残すようなヘマはしないか……)

 そう思ったヤンガルがトーワと同様に諦めかけたその時、


ガサゴソ。

不意に背後で物音がした。


「何だ!?︎ 」

 驚いて振り返るヤンガルの視界に金色の毛並みが飛び込んでくる。


 細い四本足に口元から覗く鋭い牙。

 電気を纏った魔犬、エレクトリカルドッグだ。

 廊下の突き当たりで睨むようにしてこちらの様子を伺っていた。


(なんだ、エレクトリカルドッグか……)

 見慣れた低位の魔物の姿に緊張を解く。

 腰から長剣を引き抜いたヤンガルが、エレクトリカルドッグに向けて思い切り投擲すると、信じられないことが起こった。


 グサリ。

 腹の部分に深く刺さった筈の刃が、数秒後には肉の壁に押し出され、傷口が綺麗さっぱり消え去ったのだ。


(馬鹿な!普通のエレクトリカルドッグなら致命傷だぞ!?︎ )

 驚くヤンガルを横目に魔犬が走り出す。

 その後を追って幾つも角を曲がると、やがて行き止まりに行き着いた。


 しかし、何故かそこにエレクトリカルドッグの姿は見当たらない。


(どうなっている?一つ前の角までは確かにいた筈だが……)

 まるで、狐につままれたような気分だ。

 目的を見失ったヤンガルが周囲の景色に鋭く視線を走らせると、正面の床に一枚の書面が落ちていることに気づいた。


「何だこれは?」

 地面から用紙を拾い上げたヤンガルがその内容に目を通そうとするが、


「どれどれ〜」

直前に後ろから紙を奪い取られた。


「……これ、血判書ですね」

 気づくと、いつの間にかトーワが背後に立っている。


(このクソガキ、何普通に盗ってやがる……)

 トーワの傍若無人さ呆れたヤンガルが低く唸っていると、それを横目にトーワが書面の最初の一文を音読し出した。


「ええっと、魔女平和教会、ゼブラル教、極東魔女連合はここに確固たる同盟を結ぶと共に全世界への開戦を宣言する?……何ですかこれ???」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ