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ブラックパラディン  作者: 鰺fly
第二章 墜落の神王編
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力比べ

「ほらほらほら゛ぁぁぁ!行くよぉ!」

 両手を大きく広げた眼鏡の聖女の口から汚いダミ声が飛び出した。

 そのまま、両手を地面につくと、四足歩行で真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。


 それに釣られるようにして精神魔術に操られた女性達が動き出した。

 全員が全員、体勢を低くし、一斉に飛びかかってくる。


 無駄のない足運びに、一切躊躇いのない瞳。


(……精神魔術を介してこれ程の動きが出来るとは、魔女本体は相当な手練れと見て間違いなさそうだな)

 先頭で突っ込んで来た聖女の動きをあっさり見切ったミライザは繰り出された相手の拳を手の甲ではたき落とそうとした。

 しかし、直後に自らの腕を駆け上がった痺れに目を丸くする。


 まるで、筋骨隆々の大男に殴られたような衝撃だ。


(馬鹿な!精神魔術で細身の女性からこれだけの力を引き出せるものなのか⁉︎ )

 続けて雪崩れるようにして殴りかかってきた複数の女性達の間をかいくぐった。

 耳元をギリギリで通り抜けていった拳が強く風を叩き、派手な音を立てる。


 ドパン。

 直後にミライザの真横の空間を殴った女性の腕の骨がミシミシと軋んだ。


「これは当たったら一たまりもないな」

 精神支配は術者と対象の距離が近いほど、より強く、機敏に操ることができる。

 そして、今現在、ミライザの目の前にいる女性達は明らかに活動限界ギリギリの力を引き出されていた。


(敵はどこにいる?これほどの戦闘力、相当近くにいないと引き出せないぞ?)


 極悪非道の女王《人形使い》は、かつてスワット皇国と呼ばれる小国の民1000人以上を操り、殺し合いをさせたことで有名だ。

 結果、スワット皇国は滅亡し、彼女の名前は伝説となった。


 正に規格外。

 その事件以降、《人形使い》は一度も姿を現していないが、国のトップ達は常に彼女の影を恐れていた。


 そんな伝説上の怪物が今、確実に手の届く距離にいる。


「こんなチャンスは二度とない。確実に排除せねば……」


 教会の天井。長椅子の陰。女神像の裏。

 隠れられる場所を片っ端から見ていくが、それらしき影は見当たらない。


(どこだ?敵はどこにいる?)

 絶え間なく繰り出される十を超える拳に、次第に体の反応が追いつかなくなってくる。

 既に教会内の人が隠れられる場所は何度も見返した。

 しかし、敵の姿は一向に見つからない。


(あり得ない。他に隠れられる場所など……)

 強く唇を噛んだミライザが目を回していると、


「オラぁ!死ねぇ!」

正面から眼鏡の聖女が殴りかかってきた。


 ガラ空きの首元に思わず腰の剣を抜きかける。

 しかし、すんでのところで思い留まった。


 一般市民である彼女達を傷つけることはできない。


 直後に右頬に熱い拳をもらう。

 続け様に二発、三発。


 鈍い痛みの中でミライザはある可能性に気付いた。


「まさか……しかし、そんなことが……」

 何とかバランスを立て直し、群がる女性達を眺める。

 ミライザの思いついた隠れ場所は常識的にあり得ないものだ。

 例え思いついたとしてもそれを実行するには相当な度胸がいる。

 しかし、現状、他に考えられないのも事実。


「まさか、この女性達の中に《人形使い》本人も紛れているというのか……?」

 驚きで目を見張るミライザの前で、眼鏡の聖女が不気味に笑った。


「ひひっ、正解」


◇◆◇◆


 多くの聖騎士達が殺された血塗れの会議室で、二人の最高位聖騎士と双子の魔女が睨み合っていた。


 バチバチ。

 肩を並べた双子が地面に手をかざすと、床が割れて黒い粉末が舞い上がった。

 彼女達の手元に吸い込まれるようにして収束し、剣の形を成す。


「砂鉄……成る程、先程からの魔術の正体は磁力でしたか。面白い手品ですねぇ」

 レイピアを携えたトーワが双子の元に淀みない足取りで向かって行くと、


「いつだって身を滅ぼすのは自惚れと決まっています」

「……ですね」

素早く目配せをした双子が強く地面を蹴った。


 そのまま、同色の燐光を纏い、挟撃するような形で左右から長剣を振るってくる。

 その刃先がトーワに触れようかという瞬間、双子の片割れを覆う燐光が青から赤へと変わった。


 直後に慣性の法則に逆らうようにして双子の動きが急激に加速する。

 空中で互いに強い磁力で引き合うと、砂鉄で出来た重い黒剣をトーワに叩きつけてきた。


 それを頭の高さまで両腕を掲げることで防ぐ。


 ドパンッ。

 トーワの腕を強く打った砂鉄の剣が派手な音と共に砕け散った。


「無駄ですよ?そんな生ぬるい攻撃では僕に傷一つ付けられません」

 それを全く意に介さずトーワが手元のレイピアを振るった。


 白銀の細い刀身が鋭く弧を描き、双子の魔女達を強襲する。


 しかし、それと同時にトーワの手元のレイピアが青い燐光に包まれ、魔女達を覆う光も青に統一された。


 フワリ。

 強い磁力に押されるようにして双子の魔女達が軽やかに離れていく。


「その言葉、そのままお返しますよ」

 無表情のまま呟く魔女を見てトーワがニヤリと笑った。


「フフ、どうやらあなた達はまだ自身のした選択の意味が分かっていないようだ。神の子と戦うということは一方的に蹂躙されるということ……その先に未来はない」

 そのまま雑にレイピアを放り捨てると、右足で強く地面を叩く。


 一気にトップスピードまで加速すると、双子のよく喋る方に向かって思い切り拳を振り抜いた。


「S極付与!」

 拳が触れる直前に魔女が魔術を使用し、咄嗟にトーワの全身を青い燐光で覆う。

 しかし、拳を中心に巻き起こった爆風に煽られ、背後の壁に勢い良く叩きつけられた。


 その衝撃の余波を受け、床のタイルがめくれ上がり、会議机がひしゃげる。


「がはっ!」

 思い切り壁に頭を打ちつけた魔女が苦しそうに吐血した。

 それを見たトーワが両目と前歯を剥き出しにして大声で吠える。


「いいですか!僕とあなた達では次元が違うんですよ!そんな貧弱な魔術では僕に傷一つ付けられない!何度も同じ事を言わせないで下さい!」


 身体中に力を漲らせたトーワが近くにあったパイプ椅子を蹴り飛ばすと、空中で鉄の棒が弾けるようにして分散した。


 そのうちの一本が倒れた魔女の喉元へ真っ直ぐ飛んでいく。

 既に意識を失っている魔女の命を確実に刈り取る一撃だ。


 しかし、その棒先があと少しで喉元に突き刺さるという瞬間に、もう一人の魔女が割って入ってきた。


「いつだって身を滅ぼすのは自惚れだと決まっています……何度も同じ事を言わせないでください」


 鉄の棒を左手で思い切り叩くと、トーワの元に真っ直ぐ弾き返した。


 ドパンッ!

 爆発的な初速で打ち出された鉄棒が、真っ赤な弾丸となり、トーワの頬を掠める。

 鉄の棒は更に背後の壁を貫通すると、火の粉の雨と熱風を室内に撒き散らした。


 豪快な音を立てて天井が崩れ落ちる。

 頭上に空が覗き、砂煙が舞い上がった。


「ぐをぉぉぉ!!!」

 爆風を受けたヤンガルが野太い声を出す。


「何だ……無口な片割れも普通に話せるじゃないですか」

 ゲホゲホと咳き込んだトーワが顔を上げると、そこには既に魔女二人の姿はなかった。


 自身の頬を伝う血を拭い、静かに呟いた。


「僕に勝てないと見るや否やすぐさま逃げ出すとは……ようやく力関係が分かったようですねぇ」


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