2.兄妹の亀裂
吊るされていた遺体が下される。
遺体の状況から見て、絞殺は間違いないようだ。
「秋山さん……」
「そんなことって!」
番組関係者が遺体を見て騒ついている。
「陽子!」
スタジオに入ってきた男が遺体に駆け寄ろうとする。しかし、それを警察官が止めた。
「あなたは?」
聡美が男に訊く。
「ああ、俺は陽子の兄だ。あんたは?」
聡美は手帳を提示した。
「探偵?」
「はい」
「なんで探偵が事件なんか?」
「探偵業法が変わったんですよ。刑事事件において捜査、逮捕ができるように」
「そうなのか」
そういえば——と、続ける兄。「そう言えば、陽子の彼氏が刑事だったが、姿が見えないな」
「捜査を外されたそうですよ」
「そうか」
「で?」
「で?」
「あなたの名前は?」
「ああ、俺は陽太だ」
「陽太さん、陽子さんに何か変わったことは?」
「いや、特にないな」
「生前、誰かに恨まれてたりとかも?」
「ああ」
聡美は顎に手を当てて考え出す。
「……さん? 探偵さん!?」
「え?」
「人の話聞いてる? 陽子にストーカーの被害に遭ってるって相談されたことがあるって言ってるんだけど」
「ストーカー、ですか。しかし、ここはテレビ局。そう簡単に賊が入れるとは思えません。それに、入館には名簿への名前の記入とボディチェックをされます。危険物があれば警備員が飛んできますよ」
「ああ、確かに」
「ということは、内部犯の可能性が濃厚ですね」
「内部犯? どこのどいつだ、陽子を殺したのは?」
「それじゃあ、私は聞き込みに」
「ああ。絶対見つけてくれよ!」
聡美は番組スタッフへ聞き込みをした。
陽子がストーカーの被害を受けていたというのは紛れもない事実だった。
「いろんな人に相談してたのね」
聡美は陽子が消失した控え室へ移動した。
「えっと……」
脚立を探すが、見当たらない。
聡美は部屋を出ると、通りかかった局員に訊ねた。
「すみません、脚立はありますか?」
「脚立? そんなの何に?」
「事件の捜査ですよ」
「ああ、秋山 陽子が絞殺された事件だね?」
「……!? その情報はどこで?」
「ニュース系の局員なら誰だって情報を掴んでるよ」
「ああ、なるほど。あ、じゃなくて、脚立」
「ああ、脚立ね。あそこの扉を開けた倉庫の中にあるよ」
「ありがとう」
聡美は教えてもらった扉を開けた。
脚立を発見する。
聡美は脚立を消失現場に運び、天井裏を確認した。
「ん?」
バッジを拾った。
「これは……」
検事バッジだった。検事が出入りしているのだろうか……。
(レプリカ……じゃない。レプリカだとしたら精巧すぎる。犯人は検事か)
聡美は脚立を元の場所に戻し、スマホを取り出した。
インターネットで局に出入りしている検事を調べる。
(これは!?)
聡美は写真を見つけるが、それが意外な人物であったため、驚いてしまった。
倉庫を出る聡美。
「坂上さん」
小坂に会った。
「小坂さん、捜査を外されたんじゃ?」
「外されたけど、納得いかないから個人的に調べてるんですよ」
「あのさ、陽太さんって検事やってます?」
「送検の時に地検で何度か見てますが、それがどうしたんですか?」
「なるほど」
聡美はスタジオに戻った。
「陽太さん」
「うん?」
「事件の犯人がわかりました」
「なに?」
「その前に、確認しておきたいのですが、あなたは検事ですよね?」
「ああ。だが、なぜ知ってる?」
「小坂刑事に聞きまして」
「そうか。で、犯人は誰なんだ?」
「その前に事件の背景を。最初、陽子さんは控え室で姿を消しました。消失トリックは天井裏から縄を垂らして陽子さんの首に引っ掛け、殺害してから引き上げて、そしてここスタジオの天井に犯人は運び込んだ。しかし、犯人は致命的なミスを犯してしまいました」
「致命的なミス?」
「現場にバッジを落としたんですよ。それがこれです」
聡美は懐から検事バッジを取り出す。
「それは!」
「陽子さん殺害の犯人は、あなたですね?」
「なっ……!?」
陽太は拳を強く握った。
「実は俺、法学時代に人を殺したんだ。それを陽子に咎められ、挙句に口止め料を払わないと喋るって脅されてな。今までは払っていたけど、流石にもう限界になってきて……」
「それが動機、ですか。そんなの自業自得じゃないですか。なに逆ギレしてるんですか」
「……………………」
「それで、法学時代に殺害した人物は?」
「恋人だよ。いや、正確には恋人だと思わせて騙していた詐欺師、ってところか」
「詐欺師?」
「ああ。結婚にお金が必要だとか抜かしてな。結婚詐欺の典型的な手口じゃねえかよ」
聡美は陽太の頬を叩いた。
「間違ってる! あんた間違ってるわ! 他にやり方あったでしょ!? 恥を知りなさい!」
制服警官が集まってきた。
「お願いします」
陽太は連行されていった。
そこへ、小坂がやってくる。
「今、陽太さんが手錠かけられてたけど」
「ああ、彼が陽子さんの殺害犯ですよ」
「なんだって?」
「法学時代に人を殺して、それで脅されてたから二度目を敢行したそうです」
「そんなことって……」
「依頼は終了しました。あとで請求書、送りますので」
聡美はスタジオを後にした。




