本に優しくない図書館
ーー図書館二異常事態発生。ーー繰リ返ス、図書館二異常事態発生ーー……。
図書館の奥深く、様々な器具がひしめき合うその一室に、警告音が鳴り響いた。
上層部の図書館と違い、本棚が壁に収まる形で設置された部屋に、機械的な音声が木霊する。
ーーこちら本部、状況の説明を。
ーー館内二設置サレタ召喚カードガ、何者カニヨリ回収・強奪サレテイマス。回収サレタカードハ全体ノ三十三パーセント。カードノ強奪率ハ、依然増加中……。
ーー了解。特殊罠および、特殊カードの使用制限を解除します。直ちに目標の殲滅を実行して下さい。
ーー了解シマシタ。
鳴り響いていた警告音が止み、辺りに静寂が戻った。
静まり返った一室に、今度は乾いた靴音が鳴り響く。
靴音は、上に続く階段へと向かっていた。
*
図書館の攻略を始めてから六時間。
自分達は、十階層に到達していた。
正直、もう少し時間が掛かるかと思っていたのだが、自分がスキル【魔力感知】で罠の発動を感知出来るのに加え、現れる魔獣が比較的弱かったため、思いの外速く着いてしまったのだ。
「あれ? なんだもう十階か? ……以外と速く着いたな」
片手でリンゴをかじりながら、マリアがそんな事を呟く。ほとんどの魔獣や罠は、自分やスズちゃん達が片づけてしまうため、少しだけ退屈しているのだ。
「そう……ですね……」
「わりと歯応えありませんね?」
「確かに……。正直、これならサヨサヨ達がやってる鍛錬の方が……」
「三人共、それくらいにしてあげて下さいっす! 後ろにいる攻略隊の皆さんが、ガチへこみしてるっすから!」
予想より歯応えのない魔獣や罠にぼやくスズちゃん達をポコ君が止めに入る。
見れば、いつの間にか追いついていた攻略隊の面々が『こんなあっさりと……』とか、『私達の苦労は……』とか言って、真っ白になって燃え尽きていた。
「一応向こうにも体裁とかプライドとか有るんすから、あんまりそう言う事言わないで上げて下さいっす!」
「え~っ? だって……」
「いや、だってとかじゃなくて!」
「まぁまぁポコ君も落ち着いて……とりあえずさ、せっかく“安全地帯”にまで来たんだから、一旦休憩にしよ? ねっ?」
そのまま無駄な口論に成りそうな二人を止めるため、仲裁に入る。
だって、マリアとか絶対反省しないし。
その後、なんとかその場を治まったので、そのまま自分達は、二時間の休憩タイムに入る事にした。
「それにしても不思議だよね~。何でこの階だけ、魔獣も罠も無いんだろ?」
「ギャウギャウ!」
十階の中央、規則的に並べられたテーブルのイスに腰掛けながら、ふと思った疑問を口にする。
何気なく口にしたその疑問に、隣で雷小を撫でていたスズちゃんが小首をかしげた。
「やはり、サヨリ様もおかしいと思いますか?」
「そりゃあね? ここに来るまでは色んな罠がたくさんあったし、仕掛けられてた召喚カードも、数だけみれば相当な数が配置されてたしね?」
そう言って自分は、目の前のテーブルに手に入れた召喚カードを並べてみる。
発動したカードや罠しか【魔力感知】に引っ掛かからないため、遭遇した魔獣の分しか無いが、それでもこうやって見るとかなりの数がある。
「なのに、この十階層にだけは魔獣も罠も配置されていない。ぱっと見、特に変わった点も見られないし……わざわざこんなところに休憩出来る場所を作る理由、あまり無いはずなんだけどねぇ……」
「ん~、何故でしょう……? スズには難しくて、よくわかりません……」
「ギャウギャウ……?」
小首をかしげ考え込むスズちゃんを真似して、雷小も首をかしげる。
その光景に心癒やさながら、自分も同じように首をかしげ、考え込む。
ここに罠がない理由……それは何だ?
油断させといて不意打ち? いや、それなら今までの学院の攻略で何かしら報告があったはず。
別に最下層や、その一歩手前という訳でもないから、ボス戦前のセーブポイントとか休憩ポイントって訳でもないし……。
って、そりゃ考え過ぎか。ゲームやなんかじゃあるまいし……まぁそういうの自分、大好物だけどね!!
「う~ん……」
「おや? どうしたんだいサヨサヨ? 面白いポーズなんかとって」
色々と考え込む自分に、十階層の中を見回っていたマリアが声をかけてきた。
後ろには、一緒に中を見て回っていたチエちゃんと、トイレに行っていたポコ君もいる。
「いや、別に大した事は無いよ? ただこの階層に、罠やカードが無いのは何でだろうなぁ、って考えてただけで♪」
「あぁ、なるほど。それで……」
「マリちゃんやチエちゃん達はどうだった? なんか面白い本とか見つかった?」
「それなんだが、実は少し気になる点を見つけてね。私とチエちゃん、二人で気づいた事何だが……」
「えっ? なになに? なんに気づいたの?」
「本が足りてないんだ。錬金術に関係する本、それが圧倒的に不足している。一応本棚などがある事から見て、最初から無いのではなく、どうも『持ち出されて』いるみたい何だ」
そう言ってマリアが、チエちゃんと二人で気づいた点について説明を始めた。
それによると、一階からここまでの間に見た本棚の中で、いくつか空っぽの本棚があったらしい。
その本棚の並びを考えてみると、どうやら空っぽになっている本棚は全て、錬金術に関係する本があった物らしいのだ。
「最初は盗まれたか何かだと思ったが、どうも違うらしい。仮に盗むのなら一階の手前の本棚から持って行けばいいし、わざわざ本の種類を限定する意味もない。攻略隊の誰かが持って行くというのも考えにくいし……」
「『錬金術の本を持って来い』って、依頼された誰かが持って行った。なんて事は……」
「それこそあり得ない。そもそもそんな依頼を出したところで、わざわざ大図書館に忍び込んで盗みを働くような猛者は、そうそういないだろうし」
おおぅ、あっさり一蹴されてしまった。
しかし、謎が減るかと思ったら余計に増えてしまった。
謎の安全地帯に消えた錬金術の本……困ったな。自分推理や謎解きとか、むしろ苦手なんだけど……ん?
いや、ちょっと待てよ? そういえば……。
「ねぇ、マリちゃん。ひょっとしてーーっ!?」
ある考えに思い至った、その時、自分の足下に青白い魔法陣が発生した。
見ればソレは自分だけでなく、スズちゃんやチエちゃん、その場にいた全員の足元に発生している。
しまった……油断した……!!
「なっ!?」
「これ……!?」
「転移陣!? 気をつけろ!! どこかに飛ばさー-」
マリアが何か言い切るも先に、その場にいた全員が光に包まれて、そして消えた。
ただ一人、自分だけを残して。
「……はっ? ……はぁあああっっ!!?」
いやいやいやいやいやいや!?
はぁっ!? なんで!? 何してんの!? なに自分だけ置いてっててんの!?
てか、なにスズちゃん達攫ってってんだよ!! ふ・ざ・け・ん・な!!
「許さんっ! 許さんぞぉっ!!ぶるぁあああっっ!!!」
全神経を集中して【魔力感知】を発動させる。
マリアが言いかけた「転移陣」、あの言葉が本当なら、全員この図書館のどこかにいるはず。
上から下。全ての階層へと感知を最大化しスズちゃん達を捜索する。
ーー見つけた!! 全員、下の階層にいる!!!
「【追い風】!! 最大加速!!」
風魔法で全身に風を纏い、移動速度を加速させる。
この状態なら、最大二百㎞まで加速できる。
脇目も振らず自分は、下の階層へと続く階段めがけて、全速力で走りだした。
「うわあぁぁっっ!!?」
「まっ、魔獣!?」
「なんで!? ここは安全地帯なのに!?」
階段へと向かう自分の進行方向から、攻略隊の叫び声がする。
見れば下へと続く階段のその前に、全長五メートルはあるかという巨大な鶏型魔獣、バシリスクが暴れていた。
「駄目だ! 武器が通じない!」
「下手に近づくな! まずは距離をとってたら魔法で……」
「邪魔ぁぁあ!!!」
「うわっ!?」
「ぎゃっ!?」
チョロチョロしている攻略隊を跳ね飛ばし、真っ直ぐ突き進む。
そのまま一気にバシリスクに近づき、引き抜きざま【腐食の剣】を発動させた斧ではらわたを切り裂く。
切り裂かれたバシリスクは一瞬で腐りきり、ドロドロの液体になってから消滅した。
「馬鹿なっ!?」
「二つ星クラスの魔獣だぞ!?」
なんか後ろでぺちゃくちゃ喋っているが気にしない。
そのまま全速力で階段まで走り抜け、一気に駈け降りた。
「サヨリ!! いま、会いに行きまぁぁあす!!」
階段内部に自分の声が響きわたる。
あぁ、なんか変なテンションになってきた。
でもそんなの関係ねぇ。
階段を降りきり、さらに加速した。
「くけきゃはきゃはは!!!!」




