図書館ではお静かに?
図書館前でのいざこざ? も終わり、ようやく図書館への扉をくぐった自分達を出迎えたのは、見渡す限りの本棚の森だった。
高さ三メートルはあろうかという本棚が所狭しと並べられていて、はるか彼方、部屋の奥のほうまでと続いている。
「それではこれより、第九百六十七回アルバス大図書館攻略へと入ります! 各自あらかじめ決められた持ち場につき、警戒へと入って下さい!」
「「「おおっ!!」」」
「今回は新たに発見された、第十四階層へと続く階段から先への攻略となります! 必然的に罠や魔獣なども強力になりますので、皆さん油断しないで下さい! それでは、出発します!」
代表の学院生の掛け声に、攻略隊全員が素早く配置へとつき、陣形を構える。
その一方、“同行すれども悪魔で別行動”と決められた自分達は、立ち並ぶ本棚の本を見たりなんかして、のんびりと先に進んでいた。
「あの~……先行っても大丈夫なんすか?」
「なに大丈夫だ、問題ない! 地図ならさっき見て、全部覚えた!」
後ろの攻略隊を気にするポコ君に、マリアが見当外れな答えを返す。
地図を覚えたと言っているところから見るに、多分マリアの中では、攻略隊はもはや用済みなのだろう。
「いや、そう言う事じゃなくて……」
「ん? 違う? あっ、もしかしてトイレ? それなら、そこの本棚から数えて八つ目のーー」
そう言って本棚を指差し歩くマリアの横から突然、魔力のうねりの様なモノを感じた。
この感覚は知っている。
これは、自分達が魔法を使う時に感じる魔力の流れ、それと同じだ。
「で、二つ目の本棚を左に……」
「マリちゃん、ちょいとゴメン」
「えっ?」
進もうとするマリアの肩をつかみ、強引にこちらに引き寄せる。
その直後、マリアがいたすぐ横の本棚の隙間から、槍の穂先が飛び出してきた。
「うわっ!?」
「大丈夫……ですか……!?」
「あぁ、私は大丈夫だ……ありがとうサヨサヨ。おかげで助かったよ」
自分に肩を預けた姿勢のまま、マリアがお礼を言った。
自分はそれに「どういたしまして♪」と軽く言って、本棚から飛び出したままになっている槍を、あらためて見てみた。
「これが例の罠?」
「あぁ、対盗難者用全自動補填罠。しかも毎回配置が変わる仕組みみたいだから、地図に書き記しても意味がないときてる」
白衣の襟をなおしながら、マリアが答えた。
この図書館が難攻不落の理由、それは、どこからともなく現れる大量の魔獣と、貴重な魔導書を盗もうとする侵入者用に設置された数々の罠によるもの。
元々は本を盗もうとする者にしか反応しないよう作られていたらしいのだが、件の魔術師が閉じ込もる際に改造されたようで、今では盗難者どころか、図書館に入った者全般を攻撃するようになっているそうだ。
「それにしても、ピンポイントに喉の高さに槍が飛んでくるとは……」
「危なかったっすねぇ……」
「後……もうちょっとで……マリアさん……串刺しになるとこ……でした……」
飛び出したままになっている槍を見ながら、スズちゃん達が思い思いに言う。
たしかに、槍の高さはピンポイントでマリアの首筋を狙う高さに飛び出している。
もしあのままマリアを引き寄せなければ、槍の穂先がマリアの喉笛を貫いて、変わったオブジェが出来上がっているところだった。
「これから先、こんな罠がまだ沢山あるんすよね……」
「注意……しないと……」
「それにしてもよく気付けたねサヨサヨ? 特に変化や物音があった訳でもないのに」
「あぁ、それは……」
ついさっき感じた魔力のうねりを説明しようとした時、また同じ感覚が前方から感じられた。
今度は六つ。
少しづつ近づいてきている。
「サヨリ様……!」
「大丈夫、わかってるから♪」
近づいてくる何かの気配を感じたチエちゃんが、杖を構える。
スズちゃん達も近づいてくる気配に反応し、それぞれ短剣を構えたり、刀の鯉口を切ったりしている。
「来ます!」
前方からやって来る六つの影を視認する。
やってきたのは虎のような体躯と縞模様の毛皮を持つ狼ーー通称ストライプウルフだ。
「“雷”」
チエちゃんが小さく呟き、魔法を発動させる。
杖の先から雷光が迸り、向かって来るストライプウルフの内、三匹を塵へと還した。
「……三匹撃ち逃しました……!」
「任せて!」
撃ち逃した三匹に向け、スズちゃんが駆け抜ける。
迫りくる正面のストライプウルフを抜刀と同時に斬り捨て、そのまま返す二の太刀で、二匹目の首を落とした。
「締めはオイラっす!」
スズちゃんがあえて(・・・)残した一匹へと向け、ポコ君が奔った。
一矢報いんとストライプウルフが口を開き、噛みつこうとする。
その攻撃を右に避けて、ガラ空きになった喉笛に、ポコ君が短剣を突き立てた。
その直後、短剣を突き刺されたストライプウルフの体が光の粒となり、跡形もなく消滅してしまった。
「えっ!?」
「これは……?」
突き刺した標的が突然消え去り、ポコ君が目を丸くした。
この消え方……前に見たことがある!
「マリちゃんこれってーー」
「サヨサヨの思ってる通りだよ。ここに出没する魔獣は全て、召喚カードによる物だ」
消えていく光の粒を見ながら、マリアが静かにそう言った。
召喚カード。
術者の魔力によって、カードに登録された魔獣を再現する事が出来るリアル遊○王な魔導具。
ここに出没する魔獣全部が召喚カード?
あれ? という事は……。
「……ねぇ、マリちゃん。召喚カードによる物って事はさ、当然、カード本体もここにあるって事だよね?」
「ん? ……まぁ、そうだな」
「そのカードってさ、見つけたら持ち帰っちゃっても良いんだよね?」
「えっ? あっ……ん~……」
マリアが腕を組んで考え込み始めた。
組んだ腕の上に胸が乗っかって、谷間がこんにちはしている。
……あれほど下着を着なさいと言ったのに。……後で説教だな。
「ん~……」
「ダメなの?」
「ん~……いや。多分、大丈夫だと思う。サヨサヨがカードを持ってってしまえば、魔獣が出没しなくなる訳だし……」
「やった! ラッキー♪」
「でも、見つけるのは至難の技だと思う。実際これまでの学院の攻略隊による攻略でも、カードを発見する事はおろか、在処さえ判明しなかった訳だし……」
「その点については大丈夫♪ 大体見当はついてるから♪」
「えっ?」
「♪~」
お気に入りのアニソンを口ずさむながら、目標へ向けて歩き出す。
欲しかった物が手に入ると聞いて、気分は上々、心がぴょんぴょんする。
程なくして目的の本棚へと到達、その中の一冊を手にとり、ページを開いた。
「おっ♪ あったあった♪」
「えっ!? えっ!?」
「あっ!」
「それって……!」
開いた本のページから、一枚のカードをとる。
カードに描かれているのは複雑な魔法陣と、デフォルメされたストライプウルフの絵。
間違いない。召喚カードだ。
「そんな!? 一体どうやって!?」
「簡単だよマリちゃん♪ 自分が持ってる【魔力感知】のスキル。それがこのカードに反応したんだ♪」
目を見開いてこちらを見るマリアに、事情を説明する。
罠が発動した時にも感じた、魔力のうねり。
それと同じ物を、魔獣達が現れた時にも感じた。
だが、罠の時とは違い、魔獣達が消えた後にもその魔力は消えず、この本棚のカード本体まで、魔力の残滓が続いてたのだ。
「だから、その魔力の残滓を辿って、カードの在処を割り出したって訳♪ いやホント便利だよね~【魔力感知】♪ 全方位感知能力の他、魔力の痕跡を辿る事も出来るなんて~♪」
「そっ……そうか、サヨサヨの持つ【魔力感知】。あれは確か、未だ発現条件が確定していないレアスキルだったはず……」
「みたいだね~♪ だから今までの攻略隊の人達も、カード見つけられなかったんだろうね♪ まっ、おかげで自分としては、かなりオイシイ思いが出来るんだけどね♪」
取り出したカードを汚さないよう、持ってきていた手帳の間に挟んでおく。
ちなみに持ってきていた手帳の中身は、いずれ作りたいスズちゃん達の洋服デザインだ。
「さぁて、この調子でガンガン進もう! まだまだこの先にも、沢山のカードがあるはずだし!!」
「あの、サヨリさん? 目的変わってないすか?」
「細かい事は言いっこなしだ! さぁ行くぞ! 未知なる世界が自分達を、待ぁっているのだ~♪」
そう言って下へ続く階段を目指し、歩き出す。
思わぬところで、面白い収穫があった。
この調子でいけば、下にはもっと面白い物があるに違いない。
自分達の冒険は、まだ始まったばかりなのだ!!




