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21.少年よ大志を抱け、ただし着実に

 前世の父の趣味がバードウォッチングで、たまに付き合って山だの野原だのに一緒に出かけたものだ。実際に珍しい鳥(ハイイロチュウヒとかコノハズクとかサンコウチョウとか)が生きて動いている姿を見るのはそれなりに楽しかった。とはいえその楽しみが、早朝から、夏にはヤブ蚊が飛び交い冬は凍えるような野外で、バズーカ砲みたいな望遠レンズを並べたおじさんたちのカメラ自慢に付き合いながら、現れるかどうかも分からないそれらの鳥を何時間も待つという苦行と釣り合うものかどうかは、正直見解の分かれるところだと思う。せめておじさんたちがいなければねー……。

 しかし面倒なことに、私は父の鳥仲間に何だかあてにされていたらしい。というのも、モズやらオオルリ(ルリビタキだったかも)やら、木立や茂みの中に紛れた小鳥を探し当てるのが妙に早かったのだ。

 そんなに難しいことじゃない。自然物にもパターンってものがある。植物なら、枝と葉っぱと隙間と枝と葉っぱと隙間と枝と葉っぱと隙間と枝……というパターン。風に揺れるときだって、そのパターンの範囲内で動くものだ。その中で、周りと違う形や動きを目ざとく見つける。根気とか集中力というよりは注意力というか、目の付け所の違いの問題のように思う。

 今、私がそれに気づいたのもそのやり方だ。たぶん騎士さんたちもそうだろう。森の手前、ある程度整備された中のある灌木の茂みが、少々不自然に乱れているのが目についたのだ。モンスター……たぶんゴブリンの痕跡だ。


 ゴブリン。私のノートをもとに例のGM神が創造したこの世界にももちろんいる。

 この世界のゴブリンは、まあ、おおむねよくある「日本の西洋風ファンタジー世界のゴブリン」だと思う。しばしば駆け出し冒険者の相手としてマッチングされるおなじみの雑魚だ。

 二足歩行で武器を使用し、ごく単純ながら言葉を使うが、知的生物というにはあまりにも程度が低い。多少心得のある者にとっては脅威にはならないが、一般人がまともに戦って勝てる相手ではない。

 さらに言えば源流はトールキンの世界のオークなんだろうな……あのノートに黒歴史を着々と蓄積していたころの私はまだ『指輪物語』を読んだことはなかったのだけれど、当時の私が無意識のうちに元ネタにしていた日本の漫画やゲームの西洋風ファンタジー世界って、実際にはトールキンに多大に影響を受けていて、亜流と呼べるようなものも多かったように思う。……まあ、私もそんな亜流作者のひとりけどですね! しかも恐ろしいことに実際にここにその世界あるんですけどね! ホントどうしようかしらね……。


 行列の先頭の方に馬を走らせていった騎士さんが、アレクさんといっしょに戻ってくる。馬の向きを変え、歩みをヴィオーラ様の馬車に合わせると、アレクさんが窓越しに声をかけた。

「馬上から失礼いたします。ゴブリンの物と思われる痕跡を発見いたしましたので、念のため安全確認をいたしたく存じます」





 結論を言ってしまうと、やっぱりゴブリンの痕跡だった。

 灌木の茂みの中に潜り込んで隠れていた痕だ。踏み荒らされ、枝が折られたり曲げられたりして空洞ができている。枝の折れた箇所はまだみずみずしく、匂いも新しい。

 足跡からすると四体、一体だけは体の大きな個体で、腕っ節の強さが群れの中の順位にほぼ比例するゴブリンの習性からして、こいつがグループのリーダーだろう。

 街道を通りかかる行商人なんかを狙って待ち伏せていたけど、実際にやってきたのは武装した強そうなヒトがたくさんいる大集団……つまり我々だったので、その気配や馬蹄の響きの多さに怖気づいてさっさと退散した、というところかな。あわてて森の中に戻っていく足跡も土が乾ききっていなかった。

 まあ、これは騎士さんたちの推論だけど、邪魔にならないように確認作業を見学させてもらった私も同意見だ。

 さて、そういうわけで何の問題もなく安全確認は取れたのだけど、騎士さんたちはまだちょっと難しい顔をしている。何でもここは街道でもかなり人里に近い方なので、そこに真昼間からゴブリンが出没するというのはあまりないことらしい。

 次の宿泊地に着き次第、地元の治安担当に報せを出さないと、いったことを、窓から顔をのぞかせたヴィオーラ様も交えて話し合うと、行列は再び進み始める。

「リュナ殿は、ゴブリンと戦ったことはおありなのですか?」

 私の隣に馬を並べたトランくんが尋ねてくる。先ほどの確認作業の間はアレクさんの指示で、私と一緒に見学だった。足跡の大きさや深さからゴブリンの体格を、折れた枝の枯れ具合や土の乾き具合で経過時間を推測する騎士さんたちの様子をものすごく真剣に見ていた。

「そうね……さっきみたいに、ああこれはゴブリンが待ち伏せしてたんだ、っていうのは何度も見たし、……実際に襲われたこともそれなりには」

 お得意様を巡る旅には他の商人さんたちと声をかけあって、できるだけ大集団になるようにしていた。

 うちの商会は裕福な農場主とか、村の小領主のような、まあ、いわゆる小金持ちがお客だけれど、その村々の普通の住人相手に日用品を売ったり、修理を請け負ったりする旅の職人や行商人といった人たちに頼まれて同行していたら、いつの間にかグループができていた。

 あちらにしてみれば冒険者の護衛が付いたうちと同行できて安心なわけだ。悪い言い方をすれば寄生されてるといえなくもないけれど、こちらとしても人数が多ければそれだけゴブリン(や、人間の不届き者)に対する威嚇にもなるし、行き先の村々でメインのお客様以外にも歓迎してもらえるし、客層が違う以上商売敵にもならないし、話し相手も増えるし、まあいいかな、という感じだった。だいいち、世の中何があるかわからないわけで、わざわざ彼らに対してお高くとまって嫌われる必要もなかろう。実際、例の火事で両親も店もなくした私に対してベニートさんたちの次ぐらいに親身になってくれたのは彼らで、情けは人の為ならずってこのことだろうなと思ったりもした。

 とはいえ、いつも人数が集まるとも限らなかったし、人数が居てもゴブリンたちの方が強気に出てくることもあった。幸いベニートさんたちがいてくれたし、運が良かった面もあるのだろう、今まで深刻な事態になったことはない。

 多少ひやっとすることくらいは、まあ、あったけれど。ここ一、二年は戦闘の最初にかける補助魔法のいくつかは私が担当して、ポーリンさんは早めに攻撃呪文を使うという戦術が取れるようになっていたから、かなり楽になっていたと思う。

 ……といった経験談を、思い出すままに話す。トランくんはさっきの見学の時と同じくらい、ひょっとしたらそれよりもさらに真剣な顔をして聞いていた。

「僕はまだ実戦経験がないんです。街育ちだからゴブリンも他のモンスターも身近では見かけないし、僕はまだ実戦に参加を許されていないので……経験があるとないとでは、まったく違うものでしょう? 」

「それは否定しないけど、私だって後衛から魔法撃ったらあとは隠れてただけだから、実戦経験にカウントはしづらいわね。見習いはどうやったら卒業できるの?」

 トランくんの年齢は知らないが、見た感じ十四歳か十五歳か、まさに成長途中の少年って感じの体格だ。傍から見てもバンデリカ騎士団はかなりきっちりした組織のようなので、もう少し身体が出来上がってからじゃないと無理はさせないんじゃないかな?

「ええと、見習いと言ってもいろんなパターンがあるのですが、僕のように子供のころに入団した場合は、十五歳から二十歳までの間に指導役の騎士の許可を得て実戦に少しずつ参加させていただいて、その働きぶり次第、です」

「じゃあそろそろ……というか、この仕事も見極めのうちじゃないの?」

 大陸の事情はそんなに詳しくないが、知る限りではフェルメランが他の国や勢力――ハベルスやディバン、北の草原の諸部族など――と表だってもめ事を起こしているということはない。騎士団も他国との紛争解決よりは国内の治安維持、貴人の警護(今がまさにそれ)などが主な任務になっているだろう。モンスターの掃討は、小規模なものなら冒険者に振られるのだろうし。

「それは僕もわかっているのですが……」

 まあ、それでも実戦の華々しさに憧れてしまう、という気持ちはすごくわかる。地道な護衛任務よりも敵を実際に倒した方が手柄としてはわかりやすいしね。

 ちらっと周囲を見ると、トランくんを挟んで向こうにいる騎士さんが実にほほえましい、という表情で彼を見ておられました。……うん。ですよねー。見抜かれてるよ少年。がんばれー。

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