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12.軍服萌えミーハー冒険者とひとつの契約書

 さて、会議というか首脳部ミーティング的な図書室の会合が終わって数日後。船は会議の結論通りフェルメラン領の港街ヴァモントに接岸した。

 隣国ハベルスへのフェルメラン使節団の帰り道には、この街への寄港は予定されていなかった。なので、フェルメラン王国の国章旗と、白狼領の紋章をアレンジした、ヴィオーラ様個人の紋章旗、そして軍船自体の所属を現す青嵐領の紋章旗を掲げた船が現れたときには当然ながら陸ではちょっとした混乱が起こった。

 とはいえその混乱は本当に短時間のもので、特に問題はなく船は接岸を許され、私たちは十数日ぶりで陸地に立つことができた。フェドーラ号の生存者の中には、揺れない地面にたどり着けて感涙にむせんでいる人もいる。

「あああああ、ようやく生きた心地が……」

 その筆頭がこの人、崩れた船荷の下から私が助け出したあのおじさんである。どうも、あの沈没事故ですっかり船や海が怖くなってしまったらしい。まあ、気持ちはわかるけど……アレはいくらこの世界の今の航海技術が未熟だったとしても滅多に遭遇しない超・レアケースだと思うよ……。

「ご心中、お察しします」

 と、実に紳士的な台詞はアレクさん。ちなみに着ておられるお衣裳がランクアップしています。船内では部分部分に白のラインや刺繍の入った紺青色の上下を着ていて、私これが騎士団の制服だと思ってたんだけど、あれは船内用の簡略な服であったらしく。正式な騎士団の制服に着替えておられるのです。

 ――はっきり言おう。軍服、萌え!

 やはり目にも鮮やかな紺青の上着に、ライトグレーの乗馬用ズボン。黒革の乗馬用ロングブーツ。フェルメラン人らしい肩幅の広い男らしい身体を首元まできっちり覆った装いから、しかし国家の威信を背負う騎士団であるがゆえの華やかさも同時に匂い立ってくる。袖の折り返しの手の甲側、外から目立つ位置には銀糸の刺繍。左袖は青嵐領の、右袖には彼個人の紋が誇らしげに縫い取られていた。そして白手袋! 素晴らしい。誰かは知らんがデザイナーぐっじょぶ!

 さらに素晴らしいのは上着が二重になってるところだ。地球のナポレオン時代のヨーロッパの軍服にあったようなあれ。体にぴったりした下側の上着の上にさらに、華やかな上着を片袖を抜いて着込んでいる、アレだ。超カッコいい。

 ……こっそりガン見するという高感覚値キャラならではの謎技能を発揮していたら、エベレ夫人とヴィオーラ様にとても微笑ましい物を見る目をされた。やっぱり、バンデリカ騎士のあの制服姿は、フェルメランでは娘さんたち(と男の子の)憧れなんだそうな。さもありなん。

 そして、行軍時になるとになるとさらにこの上にマントが加わるらしい。おおおおおぉぉ。――すみません、もう私フェルメランに住みます。

「宿舎にご案内いたします」

 あ、はいっ。おお、アレクさんがエスコートしてくださる。……これはきっとヴィオーラ様のご指示ですね。ありがとうございます。働く男の軍服姿、心のアルバムに焼き付けておきます。


 さて。

 ――さて。さて!

 ひとまず私たちはこの港街の偉い人の手配してくれた宿に滞在することになった。案内してくれながらアレクさんが説明してくれたところによると、ヴァモントは、近く(ホントにすぐ近く)にある別の港街ベルーアと双子のような存在なのだそうだ。港としての規模は似たようなものなのだが、ヴァモントは遠くの国へ行くような大きな交易船や軍船が主に利用し、ベルーアはそれより小さめの船がもっぱら利用するという使い分けが成立している。

 そして、ヴァモントとベルーアの二つの港を含む領地は、六大領ではなくて王家直轄領。

 というわけで、偉い人というのは代官様だ。現代日本人の感覚だと、代官っていったら「お許しくだせえお代官様あ」みたいな悪役の代名詞かも知れないが、別に代官だからと言って悪い人ってわけじゃない。

 この土地は王家直轄領、つまり領主がいるんじゃなくて王様自身の土地だ。とはいえ王様が各地方の統治まで実際にやっていたら到底手が回らないので、お役人を代理として任命する。それが代官だ。そういう仕事の人であるだけであって代官イコール悪徳官吏というのは偏見だ。

 ……まあ、中央から派遣されて来て地元の事情とかあんまりわかってないお役人がどうしても煙たく思われちゃうのはあっちもこっちも変わらないみたいだけど。以前、地元に帰ってしばらく繋ぎで働いてた先が公立の施設でさ、ちょうど市長選の時期で何省だったか中央官庁上がりの候補が……あ、すみません、なんか前世の愚痴が。まあ、異世界でも人の営みはそんなに変わらないってことなのかな? そもそもの根本が私の妄想だし。

 そして宿に身を落ち着かせた後、やっぱり代官の管理するお館(ヴィオーラ様の宿泊先)に呼び出され、証言を求められたりこれからのことを相談したり。私にしてみれば何度も同じことを聞かれて正直面倒だったけれど、まあ、仕方ない。仕事上の引継ぎってのはそんなものだ。適当に伝言ゲームされた方が困るでしょ。

 相手が権力とか、助けてやった恩をかさに着てあまりにも高圧的だったり無理難題を押し付けてくるような人ならこちらだって、それなりの対応をするだけだ。商人あきんどと冒険者なめんな。でもヴィオーラ様もアレクさんたちも、ここのお代官様も真剣に私たちの言うことを聞いてくれているんだから、こちらも真面目に応えるだけのことだ。それだけの話である。

 そして、ほぼ船内での相談通りに事は進んだ。王都へ報告の早馬が出され、それとは別にハベルスへの連絡便が組織される。私はヴィオーラ様と一緒に王都に向かうので、ハベルス組とはお別れだ。




「では、契約書をご確認ください」

 番頭さんが、立会人になってくださったヴィオーラ様に、一枚の書類を差し出した。

 内容は簡単。私が両親から相続した、ナジェド国アルバでの商業権を、番頭さんの所属する商会に売却するというもの。彼はやはり商会ではかなりの権限を持っているようで、本国に問い合わせることもせずこの取引に応じた。

 とはいえ、商業権を買えるだけの現金の持ちあわせはさすがになく(私が旅を続ける都合上ツケにはできないので)、ヴィオーラ様が商会に貸し、そこから商会が払うという形になった。そういうわけで多少、相場よりは控えめなお値段になったが、番頭さんも私も納得の上なので問題ない。これからどんどんナジェドから遠い方へ移動していき、多分フェルメランの王都に住むことになりそうな私がアルバの商業権を持っていても、移動距離に応じて価値が目減りしていくだけだ。今が売り時だろう。商会の方も、おそらく転売で儲けるのだろうから、ちょっとでも安く買えるならそれに越したことはあるまい。

 問題ありません、と、ヴィオーラ様はうなずく。番頭さんが次は私に書類を回した。一読する。私も答えは同じだ。

「問題ありません」

「では、サインと……もしお持ちなら紋印章をお願いします」

 ペンをとり、ナジェドに居たころと同じようにサインをしようとして、ふと手が止まった。サインと紋印章。

 軍船にヴィオーラ様の旗が立っていたり、アレクさんが軍服の右袖に個人のマークを刺繍していたように、フェルメランではある程度の社会的地位を持っている人はたいてい個人の紋(家の紋をアレンジしたものが多い)を持っていて、そのハンコをサインの横に押すのだそうだ。まあ、日本で言えば花押みたいなものかなあ。もちろん私はナジェド人なので作ってはいない。

「紋印章……」

「ナジェドの方にはなじみのない習慣でしょうね。直筆のサインがあれば大丈夫ですよ。紋印章は慣習のようなものですから」

「……魔法の紋では代用できませんか?」

 花押みたいなものなら、実はあのノートの呪文ラインナップにあったりする。

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