第1話「来たぞ!惑星エンカ!」
ブレイヴ――それは、みんなの憧れ。
絵本の中のヒロインが、すぽんと飛び出してきたかのように、強くて勇ましくて、わくわくどきどきさせられる存在。
みんな、そんなブレイヴの姿に憧れて、自分もそうなりたいって目指すんだ。
もちろん、わたし――シャルロットも。
小さな頃から、ブレイヴになるんだって、そう決めてた。
ブレイヴになって、みんなをわくわくどきどきさせられるようになりたいって、ずっと夢見てる。
そして、いまわたしは、その夢を叶えるために、とある惑星に向かっている途中。
その惑星には、いろんな星からブレイヴを目指す子どもたちが集まる学園がある。
半年っていう短い間だけだけど、わたしは、そこに通うんだ。
学園では、どんなわくわくどきどきが待ってるんだろう。
期待で、もう胸の鼓動が高まってきちゃった。
「わぉ~~! あれが、学園のある星かぁ~~!」
スペースシップの窓から、青くて綺麗な星が群青色の宇宙に浮かんでいるのが見えた。
いまから、あの星に降りるんだ。
「えっと、あの星……何て名前だっけ?」
ちゃんと名前を教えてもらったはずなんだけどな。
う~~んと、思い出そうとするけど、なかなか思い出せない。
「エンカよ。惑星エンカ」
わたしの隣の座席から、答えが聞こえてきた。
「そうそう! エンカ! 惑星エンカ! よく、覚えてるねぇ! アンジェちゃん!」
「あんたが、忘れっぽいだけでしょう。あんまり、はしゃぐんじゃないわよ。もうすぐ、大気圏突入なんだから、シートベルトしっかり締めてなさい」
スペースシップの中には、真ん中の通路を挟んで2席が左右に並んでる。
わたしは、進行方向の右の窓際の席に座ってた。
んで、隣の通路側には、アンジェちゃんっていうピンク色の長い髪を真ん中分けにしている可愛い女の子が座ってる。
ふわっとした可愛いお顔なんだけど、真面目でピシっとした雰囲気の子なんだ。
着ているものも綺麗だけど上品で、どこぞのお嬢さまって感じ。
ここまで来る途中で、一緒に乗り合わせた子なんだけど、ちょっと喋っただけでお友だちになっちゃった。
「あっ! ブレイヴバウトだ!」
アンジェちゃんは、座席に付いてるマルチ・モニターで動画を見ていた。
「なによ。他人が視聴してるのを横から見ないでくれるかしら」
つんつんしながら言うアンジェちゃん。
「そんなかたいこと言わないでよ~~。なになに? いつの配信? ライブ? 誰が出てるの?」
「さあ? テキトーにチャンネルを回しただけだから知らないわ」
「ふ~~ん。そうなんだ」
マルチ・モニターの画面には、キラキラしたコスチュームに変身した女の子たちが、たくさん映っていた。
機械の翼から、光の粒子を輝かせながら宇宙を駆ける女の子たち。
その子たちは、みんなブレイヴだ。
それぞれ、違った見た目の装備を身に着け、手にしたライフルを撃ち合ったり、光の刃で斬り結んだりしている。
白熱するブレイヴたちの勇姿に、宇宙がまばゆく輝いていた。
これが、ブレイヴバウト。
ブレイヴとブレイヴが、自分たちの力を競い合う競技。
戦っているブレイヴも、それを観戦する人も、どっちもわくわくどきどきできちゃう最高に楽しくてステキな夢の舞台なんだ。
わたしは、画面に映るブレイヴバウトの光景を見ながら思った。
「わたしも、はやくブレイヴバウトの舞台に立ちたい!」
って、ありゃ~~……。
気づいたら、ぜんぶ声に出ちゃってた。
他の座席に座ってる人たちの視線が、わたしに集まってる。
くすくす笑う声も聞こえてきて、ちょっぴり恥ずかしい。
「うるっさいわねぇ。いまからでも、座席を変えてもらおうかしら」
アンジェちゃんが、ジロっとわたしを見た。
「ご、ごめん! つい、興奮しちゃった!」
「なんで、よりによって、こんな落ち着きのない子の隣になっちゃったのかしら」
ぶつぶつと文句を言いながらマルチ・モニターの画面を見つめるアンジェちゃん。
申し訳ないなぁと思いつつ、わたしも画面を見た。
「あ~~!? フォルテさんだぁ!」
画面の中に、わたしが推してるブレイヴ――フォルテさんの姿が映った。
黒い甲冑を着て、自分の身体よりもでっかい大剣を持ったフォルテさんの勇姿。
激しく飛び交うビーム弾をものともしないで、空を縦横無尽に駆け抜けてる。
「はぁ~~、やっぱりかっこいいなぁ~~」
うっとりしてると、隣からするどい視線を感じた。
おそるおそる、そちらを見ると、
「ちょっとは、静かにしてくれないかしら」
アンジェちゃんが、目を逆三角形にして、じろりと睨んでる……!
「ご、ごめ~~ん!」
わたしが、謝っていると、
『ぴんぽんぱんぽんぴ~~ん!』
って、アナウンスの音がスペースシップの中に響いた。
それと同時に、マルチ・モニターの画面がフッと消えちゃった。
ありゃりゃ、もう少し見ていたかったのに……。
『ご案内いたします。当機はこれより、惑星エンカの大気圏に突入いたします。ご着席の上、シートベルトを締めてください。繰り返します――』
おお~~、ついに惑星エンカに降りるんだぁ。
がちゃりとシートベルトを締める。
「やれやれ、もうすぐ隣のうるさい客ともおさらばできるわね」
「なに言ってるのさぁ。エンカに降りたら、学園でも一緒だよぉ」
「ああ……そうだったわね。はぁ~~、うるさい学園生活になりそうだこと」
アンジェちゃんは、ため息を吐いた。
だけど、表情は柔らかい笑顔を浮かべてる。
「まあ、学園でもよろしく頼むわ」
「うん! よろしくね!」
ごごごご――!
スペースシップが揺れ出した。
大気圏に突入したんだ。
窓の外を見ると、どんどん地表が近づいてるのがわかる。
ついに、惑星エンカにやってきたんだ。
そのうち、スペースシップの揺れも収まってきた。
「わぉ~~! 綺麗な星~~!」
機内の窓に、張り付くようにして外を見た。
青い海と緑の大地が、半分ずつくらいの割合の星だ。
わたしの故郷のフォルティミヤと雰囲気は似てるかも。
ぐんぐんと、高度を下げるスペースシップ。
ちらほら、建物なんかも見え始めてきた。
「あっ! でっかい、お城みたいなのがある! あれが、学園の校舎かな?」
うっそうとした森を抜けた先に高い山脈がそびえていて、さらに、その先にある荒野のど真ん中には、でっかいお城が建ってるのが見えた。
周りには、毒々しい色の沼があったりするし、お城のデザインも刺々しいというか、ちょっと恐ろしげな雰囲気だ。
まるで、絵本の中に登場する悪役の根城だよ。
「あれは、魔王城ですって」
と、アンジェちゃん。
「魔王城?」
「そっ。詳しく知らないけれど、学園の課題に関係するものらしいわね」
「そうなんだぁ。魔王城で何をするんだろう。楽しみだなぁ」
「あっちの綺麗なお城みたいなのが、学園よ。その名も、ストライヴ・リード学園」
「あれが、ストライヴ・リード学園……!」
青々とした平原に、山のような高台があった。
その高台のてっぺんに、光沢のある真っ白な壁に、青い蛍光ラインが入ったお城が建っていた。
SFチックで、さっきのどろどろとした魔王城とは雰囲気がぜんぜん違う。
真新しくて綺麗だ。
あの綺麗なお城みたいな建物が、わたしが通う学園の校舎なんだ。
その校舎の麓には、城壁に囲まれた町が見えた。
まるで、絵本に出てくるお城と、その城下町だ。
「これから、半年間……あそこで暮らすんだ」
どんな、生活が待ってるんだろう。
そう言えば、わたしは、この星で10歳の誕生日を迎えるんだ。
きっと、ステキな誕生日になるはずだよね。
そう思って、わくわくしているときだった。
ぴしゃ~~~~ん――!
「――ッ!?」
頭の中に、赤い稲妻のイメージが閃いた。
青空を赤い稲妻が、駆け抜けるイメージだ。
「な、なに……? いまの……?」
叩きつけるような強烈なイメージだった。
目の前で、本当に赤い稲妻が閃くような鮮明さ。
ぴしゃ~~~~ん――!
まただ! また、赤い稲妻のイメージが閃いた!
「あっちだ! 赤い稲妻は、あっちにいる!」
わたしは、シートベルトを外して立ち上がった。
「ちょっと! なにしてるのよ!」
驚くアンジェちゃん。
「行かなきゃ!」
「行くって、どこへ!?」
「赤い稲妻のところ!」
「は、はぁ!? なにそれ!?」
「いるんだよ! この近くに、赤い稲妻の『波動』を放つ誰かが! わたし、それが誰なのか知りたい! 確かめたい!」
「あっ! こら! 待ちなさいよ!」
わたしは、アンジェちゃんの制止を振り切って、スペースシップの後部にあるハッチに急いだ。
狭い通路の先に、ひとがひとり通れるくらいのハッチがある。
「よし! この操作パネルなら、扱い方はわかる!」
ぴっぴっぴ! と、操作パネルのボタンを押してハッチを開けた。
ごぅごぅ――!
開け放たれたハッチから、風が吹きつけてくる。
「こ、こら! あぶないわよ! 落っこちるでしょう!」
アンジェちゃんだ。
わたしのことを心配して追いかけてきてくれたみたい。
「ごめん! わたしは、先に降りたって伝えておいて!」
「は、はぁ!? なにを言ってるのよ、あんた……!」
「じゃあ、また後でね! とぅ!」
わたしは、スペースシップのハッチから身を投げ出した。
「ぎゃ~~~~!? シャルロット~~~~!?」
アンジェちゃんの叫び声も、すぐに遠くになった。
自由落下する身体に吹きつける風圧の感触が、心地良い。
くるりと回転しながら、あたりを見回した。
惑星エンカの空は快晴、雲一つない青空にわたしの身体が浮かんでる。
わたしの青い髪も、青空の色に溶け込んじゃいそうだ。
この青空の下に、赤い稲妻の波動を放つ誰かがいるはずなんだ。
「さあ、赤い稲妻のところへレッツゴ~~!」
どぉん――!
わたしは身体からエナジーを噴き上げて、青空を翔け出した。




