血好きの回復士
「アリス!急患!」
私を呼ぶ声と共に担架で運ばれてきたのは血まみれの人間。
その顔は血や泥など混ざってぐちゃぐちゃで、身につけている装飾品や体型からかろうじて女性とわかるほどだ。
「…それで居合わせたのがたまたま別の依頼をしていた新人の子で…」
「これは、ひどいな」
まず傷のえぐられ方が尋常じゃない。肩から胸。そして脇腹にかけて赤黒く変色している大きな傷跡。
応急手当はされているものの、黄色い膿が多くあり、傷口が見えなくなっていた。
「あの…」
この女性の仲間だろうか。ガタイのいい男がそばに心配そうに付き添っていた。
「…なんとか、なるだろうか。お願いだ。大事なパーティメンバーなんだよ!」
「………」
さらに顔はところどころ皮膚が捲れ上がって痛々しい。骨が折れていないのが不思議なほどだった。
「なあ、どうなんだ?」
「美しい」
「は?」
「ん?…ああ、平気だ。多分…この程度であれば痕も残らないよ。」
まず傷口を洗っていく
「水よ」
魔法によって水が生み出され、傷口の泥や汚れを取り除いていく。すると赤々とした肉の面が見えてくる。
水魔法を解除して消毒をする
消毒液が血液と静かに混ざり合う。
この間10秒。
傷口に異物がないことを確認したらもう終わりは近い。
手早く傷を縫い合わせ治癒魔法をかける
「ヒール」
魔法による光が収まると、血が滲んでいた切れ目はすっかり元通りとなった。
本当か?
冒険者バランが回復士の話を聞いて最初に抱いたのは疑念だった。
冒険者を始めた頃から何度も回復士の世話になってきたが、ここから痕が残らないまでになるというのは信じがたいことだった。
一人しか付き添いができないということで他のパーティーメンバーがいない、という不安も手伝って、もう助からないかもしれない。助かったとしても…という半ば諦めに近い不安があった。
回復士もなんか写真ばっかり撮ってるし…
「おーい、大丈夫か」
それから少し経ち、回復士に声をかけられた。
これから治療室に運び込まれるのだと思い顔を上げると、担架の上にあったのはいつも通りのエリアの姿だった。
「あれ?私…」
「エリア!」
まだ呆然としているエリアに抱きつくと、戸惑いながらも力強く抱き返される感触が、彼女の無事を表していた。
「よかった…!」
「こちらとなります」
一年分の稼ぎでも足らないほどの金額を前に、俺たちは呆然としていた。
(これだけの治療だったんだ。この額でも足りないほどなのだろう。だが…)
じっと見つめてみても紙に書いてある文字は変わらず、ただ重苦しく時間が流れていた。
分割ならなんとか…と思ってペンを取ったそのときだった。
「お代はいいよ。こんな高い代金君たちには払えないだろう?」
そう言って現れたのはエリアを治療してくれた回復士だった。
「いえ、ありがたいのですが…流石にそこまでは…」
エリアが言う。だが、この金額が払えないのは事実だ。エリアもそれに気がつき、言葉に詰まってしまう。
「遠慮しないでいい。あれだけ綺麗な傷口はなかなかないんだ。」
「?」
「とにかく、お大事にね。血が出るようなケガをしたら…絶対また来るといい。」
「ああ、ありがとう…!あの…名前は…?」
「アリスだ」
「アリスさん、この恩は一生忘れません!」
「本当にありがとうございました…!」
「ア〜リ〜ス〜?」
「ああ、マトか。どうしたんだ?」
「とぼけないでちょうだい!白衣のポケット…いえ、胸元。無駄な足掻きはよしなさい。」
とっさに腰元のポケットに手を伸ばすが、バレていたようで誤魔化せなかった。
「………」
仕方なく胸元のポケットから写真を一枚取り出すと、ひったくるように取られた。ひどい。
「趣味悪いことしてばかり続けているといい加減処罰されるわよ?」
そこには、先ほどの患者の治療前の写真が写っていた。
勿論写真の中の患者は血まみれである。
「とても綺麗だったんだ。…待ってマト、ドラゴンの爪の傷なんて、なかなか無いんだよ…?」
炎魔法を詠唱し始めたのを見て、写真の希少性を主張するも、
「法廷でも言ってなさいよ。私は知らないけどね」
ぼうっ、と写真は無慈悲な音を立てて消えてしまった。
「ああっ!」
「そんな悲しそうなリアクションする!?…もう!治療の腕だけはいいのにね」
ショックで倒れ込んだ私を横目に、そんなことを言いながら去っていった。
予備を何枚も撮っておいて本当に良かった…
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