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【全年齢】第七話_魔法術士軍少将を豚づくし御膳で「一は全、全は一」させた話

今回は、荒川弘先生の「鋼の錬金術師」のオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将、および、ロイ・マスタング大佐という一作品の二キャラをオマージュしたキャラクターが登場します。

他にも荒川弘先生の銀の匙もオマージュしています。

すみません。今回、前書き、後書きも含めて8,000文字超と長めです。前後編に分けるとテンポが悪いので一話にしてます。

※荒川弘先生。尊敬してます。黄泉のツガイは原作もアニメも見ています。作品のネタバレになるのでオマージュはしませんが作品の宣伝はさせていただいています。

痛々しき光景の広がるキッチンの中でヴァルフェルト王国で深紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーと称えられたプリシラ・スカーレットは、深紅の瞳を潤ませながら心配そうに聡介をみていた。聡介の指からは深紅の血がポタポタと落ちキッチンを濡らしていた。


「いたた……手が滑って指先を切ってしまいました」聡介は、指をティッシュで押さえていた。


「聡介……気を付けるのだぞ。ここは消毒しておくからばんそうこうでも巻いてこい」プリシラは消毒用のアルコールとキッチンペーパーを手に取り聡介に促した。


「すっかりここでの生活にも慣れましたね。すみません、ちょっと行ってきます」

聡介はプリシラにそう告げると、リビングでUNOを眺めているアルボの横を通り過ぎて寝室に向かった。


寝室の扉を開けるとベッドの上に、金色が映える美しい長髪の軍服姿の女性が寝転がっていた。女性は勝手に本棚に置かれた黄泉のツガイの既刊12巻分を並べ、怠惰をむさぼるように読みふけっていた。


意志の強さを物語る、すっと通った高い鼻梁(びりょう)と、すべてを見透かすような、冷たく鋭い青色の瞳が印象的だ。ベッドに寝転がるその手には、(ほのお)の模様と魔法陣が描かれた白い手袋が嵌められていた。シーツに体を沈め、気怠げにマンガを見つめるその姿は、北壁の氷の如き冷たさと、いつ弾けるか分からぬ焔の狂気を同時に孕んでいる。漆黒の軍服と、白い手袋に赤く刻まれた魔法陣の対比が、見る者に死の安らぎと、灼熱の処刑を予感させる……まさに、戦場の支配者に相応しい寝姿だった。


「貴方は誰ですか?」聡介は声をかけた。


だが、その女性からは返事はなく、黙々とマンガを読み続けていた。そして、読み終わるとパタンと音を立てて本を閉じた。


金色の髪をなびかせながら、体を起こし聡介を見て口を開いた。

「この書物は非常に興味深いな」


「そうですね。異能力バトルとしても面白いですし、何よりキャラが立ってて大好きです。アニメも絶賛放映中ですね。ところであなたは誰ですか?」聡介は賛同しつつ、再度同じ質問をした。


「この書物を単なる異能者の殺し合いと括る奴は眼力がない。双子の兄妹が背負わされた『夜と昼を分かつ』宿命……それは誰が生きるべきかを決める世界の傲慢に他ならん。主人公のユルは、一対の怪物『ツガイ』を従え、その理不尽な天秤を暴力で叩き壊しに行く。


だがな。戦場に立てば敵にも正義があり、守るべき生がある。命を奪うとは、その積み上げられた時間をすべて断ち切るということだ。この作品には、引き金を引く指の震えと、命を糧に生き延びる罪の重さが冷徹に刻まれている。」


「よく読み込んでますね。この人の作品はそういうのが多いんですよね。命の価値というか、重みというか……ところであなたは誰ですか?」聡介は感心しつつ、再三にわたり同じ質問をした。


「他にもあるのか、ぜひ読ませてくれ」女性は聡介の質問に答える気はないようだった。


「グぅ~~~~~~~~~~~」北壁を乗り越えんばかりの勢いの腹の虫が聞こえた。


「お腹すきましたか?何か準備しましょうか?」聡介はあきらめたように提案した。


「おごりか?貴様が破産するまで食べていいなら行ってやるぞ。そうだ、あとここはどこだ?小童(こわっぱ)の名前は?名前ぐらい名乗らんか無礼ものめ」女性は傲慢な態度で質問をした。


「ええ……ここでそう来ますか……俺の名前は橋本聡介です。ここは日本という国の東京という都市です。多分あなたがいた世界とは違うところです。深紅の戦乙女は知っていますか?騎士団長と聞いていますが……」


「知らんな。一騎士団の団長程度の名前は憶えていない」女性は首を振った。


「それでは、青眼は」


「知らん」女性は手を横に振った。


「轟雷は……」


「知ら……轟雷だと……?」女性は目を見開いて聡介を見た。猛禽類のような、獲物を追うような目だった。


「ええ……轟雷の奇術師エレクトリコ・ギャンブラーのアルボさんです」聡介はその目力にたじろぎながら答えた。


「……」わなわなと震える女性。


「轟雷がいるのか……あいつは軍議の途中でいなくなった愚か者だ……それから行方をくらましている……案内しろ……」女性は静かに怒りを表した。


パチンと指を鳴らすと火花が散り、指先から焔が出た。


「お、落ち着いてください!こっちです」聡介は慌てて扉を開けると寝室の外に駆けだした。


聡介は全速で女性を案内した。


「アルボさん、プリシラさん、この人知っていますか!?」聡介はキッチンに駆け込んだ。


「聡介?指は大丈夫……あ……この人、いや、この方は……!」プリシラが手に持っていた銀の匙(スプーン)を落とした。


「……」アルボも同時に振り返り、その女性の顔を見た。


その時……アルボに轟雷走る……


家の庭の方で大きな雷の音が聞こえた。


「うわ!何事ですか」聡介は驚いて庭の方をみた。


アルボは震えだした。


「轟雷……こんなところにいたのか」女性はアルボをにらみ、憤怒の表情を浮かべていた。


「今日は火加減ができんかもしれんぞ……」女性はそういいながら手袋を掴みキュッと嵌めなおした。


「……たくない……」アルボが、蚊の飛ぶようなか細い声を出した。


「え……アルボさん何か言いましたか」聡介はアルボの方を見た。


「やめろおぉお……!死にたくなあぁい……!」アルボは叫んだ。


走った。


転んだ。


すぐに立ち上がり……また走った。


「ど、どうしたんですか、急に……普段は落ち着いてるのに今日はダメなアルボさんですね」聡介は困惑しながら普段とは違う、そう、偽物のようなアルボを見ていた。


次の瞬間。聡介の横をチリっ……と音を立て火花が走った。


アルボが爆発した。


煙が周囲に立ち込めて前が見えない。


「あ……アルボさん!」聡介は叫んだ。


煙が消えるとそこにはきれいに服だけを焼かれた全裸のアルボが体育すわりでへたり込んでいた。


「戦の主導権を握るにはまず敵の機動力を削ぐ……奇襲も有効的だ。覚えておけ」女性は足音を立てながらアルボに近づいた。


「全裸にする機動力の削ぎ方って……」聡介は頭をかいた。


「貴様はいったな……まだ死にたくないと……ならば死なない程度に焼くだけだ」女性がアルボに近寄った。


足をつかむと、ずるずると引きずり、リビングの扉を大きな音で閉め、どこかに連れて行った。


「やめろぉぉ!死にたくなぁい!」


遠くからアルボの叫びと、幾度にもわたる爆裂音が聞こえた。


死ーん……とあたりが静まり返った。


「あ……アルボさんは大丈夫ですかね……結局、あの人は誰なんです?」聡介はプリシラの方を見た。


「魔法大隊の少将で、焔の城壁バーニング・ブルワークと呼ばれているエイリーク・ミラ・カルヴァリン様だ。彼女が操る(ほのお)の錬金術は城壁のごとく広範囲におよび、その力でヴァルフェルト王国を守っている最後の砦ともいえる偉大な錬金術師の一人だ」プリシラが説明した。


「少将?」聡介は質問を重ねた。


再び扉が開いた。エイリークだけが戻ってきた。手袋からわずかに煙の臭いがした。


「何日も軍の仕事をさぼるなど、軍服が死に装束になる可能性があることぐらい分かっていたことだろうに……」そうつぶやいて席につくと聡介を見た。


「魔法大隊の下に炎術士団、雷術士団などがある。轟雷の上位組織の幹部だと思え」エイリークがプリシラの説明に補足した。


「ぐぅ~~~~~~~~~~」エイリークの腹がまた鳴った。


「腹が減った。早く飯を作れ」


「聡介、私ではないからな」プリシラは聡介の方を見ていった。


「わかってますよ……今日はスーパーでおいしそうな豚が買えたので、豚づくし御膳を作りますね」聡介はそう告げるとキッチンに向かった。プリシラは後ろからついてきた。


冷蔵庫から材料を取り出す聡介。豚肉のパッケージには、「この子の名前は『トンカツ』です。美味しく食べてね」と記載があり、豚の名前と写真が載っていた。


「ネーミングセンスは置いておいて、名前がついた豚って食いづらくないか。かわいそうではないか」プリシラはその写真を見ながらつぶやいた。


「野菜のパッケージに育てた人の写真や名前が載るケースはありますが……育てた人も名前を付けたってことは愛情をもって接していたはずですし、相当つらい別れもあったんじゃないかと思います。こういうのは心が痛みますね……食べていいんでしょうか……」聡介も同じようにつぶやいた。


エイリークがその言葉を聞いて聡介とプリシラのいるキッチンの方を見た。


「我々人間は生きているものを食らって生きるのだ。その罪を受け入れてこそ……だ。一は全、全は一。これは錬金術の基本ともいえる理……いや、世の理だ」エイリークは語り掛けるように二人に投げかけた。


「そう……ですよね。美味しく余すことなく食べましょう……」聡介は少し下を向いた。


聡介は顔を上げると顔を両手でたたき、手を洗い、包丁を握った。覚悟をした男の目をしていた。


「フッ……」エイリークはその様子をみてわずかに口角を上げた。


聡介は調理を開始した。


 豚ロースの脂身と赤身の境界へ、正確に刃を突き立て筋を切った。これは熱による肉の反り返りを防ぐための準備だ。


下味の塩胡椒を均一に散らし、熱したフライパンへ。


激しい蒸気と共に肉が「ジュワーッ」という咆哮(ほうこう)を上げた。胡椒の刺激的な香りが、豚の脂の甘い香りを巻き込み鼻腔(びくう)をくすぐる。


強火で表面を黄金色に焼き固めていくとひっくり返し、中火にして少し時間を置く。


仕上げにバターをひとかけと醤油をタラリと少量を投入すれば、芳醇(ほうじゅん)薫煙(くんえん)が立ち昇り、肉に『生命の輝き』が定着する。一切の妥協を許さぬ、ポークソテーが錬成(れんせい)された。


 次に、鍋に油を引き、豚小間肉を大地の恵みである大根、ごぼう、ニンジン、タマネギと共に炒め合わせる。


具材の表面が透き通り、肉の脂が野菜の芯まで浸透した瞬間、事前にとって置いた鰹出汁を注ぎ込む。


出汁が沸騰すると、灰汁(アク)という名の不純物を丁寧に取り除き、具材が柔らかくなるまで静かに煮詰めていく。


仕上げに熟成された味噌を溶き入れれば、多種多様な素材の命が一つに溶け合う『魂のスープ』豚汁が完成した。立ち昇る香りは、全知全能の安らぎを与える。


コリコリとした強靭な組織を持つミミガーを、煮え滾る湯で迅速にボイルした。即座に冷水で締め上げる。余分な脂を削ぎ落とし、細切りにしたキュウリと共にボウルの中へ入れた。


そこに醤油、酢、少量の砂糖を正確な比率で配合した「酸味の錬成陣(れんせいじん)」を流し込む。


素材の個性を生かしつつ、酸の力が全体を鋭く引き締める様は、まるで複雑な数式を解き明かすかの如し。口内をリセットする一品の出来上がりだ。


聡介はその三品に冷ややっこを添えて、ご飯をよそうと、一つのお盆に乗せて人数分準備した。豚尽くし御膳の完成だ。


聡介が食卓に料理を運ぶとプリシラはそわそわした様子で、フォークとナイフ、銀の匙(スプーン)をエイリークに渡した。

「カルヴァリン様……お先にお召し上がりください……」プリシラは少し歯切れの悪い言い方をした。


エイリークはフォークとナイフでポークソテーを切ると一切れ口に入れた。無言で咀嚼した。

「ふむ……素晴らしい焼き加減だ……うまいな……それにこれはソースか?不思議な味わいだが肉にあうな」


エイリークはそういうとポークソテーを二切れ、三切れと食べた。


エイリークはわずかに眉をひそめると、フォークを置いた。

「確かにうまいが、ソテーばかりだと脂っこいな」


「ああ、そういう時は酢の物も食べてください」聡介は酢の物を指さした。


フォークで酢の物を救い上げるエイリーク。そして口に運ぶと無言で咀嚼した。

咀嚼して、目を見開いた。


「なんだこれは!コリコリした触感が心地よく、そして酸味の影響で口の中の脂分が飛んですっきりするな」エイリークは感嘆を示していた。


「豚汁やご飯も召し上がってください」聡介はそういって料理を勧めた。


豚汁の椀を持ち、一口すすった。


「塩味の中に豚の脂や野菜の甘みが広がるな。それにこの、スープの香り……鼻を突き抜けるような磯と土の芳醇(ほうじゅん)な香りが、満たされていたはずの食欲を叩き起こしてくれるな」


白米を口に入れると身震いした。


「そして、この白米だ。甘みがある中でほくほくとして優しさがある。甘み、塩味、酸味、旨味を四身一体で包み込んでいる」エイリークは飲み込むと息を吐いた。


目を見開いた。


「そうか!ポークソテーのジューシィな肉汁と旨味、だが食べ過ぎると重い。酢の物の酸味で口をすっきりさせて食べやすい環境を整える、豚汁の甘み、塩気と強力な香りでさらに食欲をそそる。そしてこの米ですべての橋渡しをする。一つ一つでも料理として成り立つが、皆が合わさり一つの御膳(せかい)を作っているのか。そうか、これは錬金術だな!一は膳、膳は一だ!」


エイリークは静かに余韻に浸るように目をつぶった。


そして、目を開けた次の瞬間、自身の目を疑った。


そこは先ほどまでいたリビングではなく、真っ白な空間だった。


辺り一面真っ白、しかし、目の前には巨大な石の扉が浮かんでいる。その扉の表面には複雑な樹状の図形が刻まれ、全知の真理と絶望を同時に内包していた。


「こ……これは、真理の扉……か?」エイリークは周囲を見渡した。


後ろから声が聞こえた。


「あーあ……きてしまったか、通行料はいただくぞ……」


石の扉がひとりでに開いた。扉の先には大きな目があった。そこから禍々しい大量の手が現れ、エイリークを襲った。それと同時に脳内に直接大量の情報が叩き込まれ、頭の中をかき回された。


次の瞬間……


エイリークは元の場所に戻っていた。


「な……やはり今のは、真理の扉か……う……ぐぅうう」エイリークはうめき声を上げると下を向いた。


「エイリークさん大丈夫ですか!真理の扉って!?」聡介はプリシラとエイリークを交互に見た。


「真理の扉というのは錬金術師の一部だけが開くことができる世界の理を示す場所だ。だが、それを開くためには代償が必要だと言われている」プリシラは、汗をかくエイリークの様子をみた。


「……」エイリークは、腹を押さえ無言で下を向いていた。ぽたぽたと何かが垂れる音が聞こえる。


「まさか……カルヴァリン様!」プリシラはエイリークに駆け寄り、顔を見た。


「腹の中身を……いろいろ……持っていかれた……」エイリークの口元には一筋の雫が垂れていた。


「カルヴァリン様!」プリシラがエイリークの体を支えてその液体をよく見た。



(よだれ)だった。



「通行料代わりに食べたものを全部持っていかれた!」エイリークは叫ぶと立ちあがった。


「お前たちの分もすべてよこせ!ポークソテーも、酢の物も、豚汁も米もすべて私のものだ!」エイリークは強欲なことを言った。


「な……落ち着いてください、カルヴァリン様!」プリシラは立ち上がると、エイリークの体を掴んだ。


「ええい!はなせ!」エイリークはプリシラの腕をつかむと左右に振り、引きはがした。


プリシラが腕に力を入れて押さえようとした。


だが、プリシラの体はエイリークの腕を軸に、くるりと一回転し、地面に打ち据えられた。


「がはっ!」プリシラは背中を強く打ち付け呼吸ができず意識が朦朧(もうろう)としていた。


エイリークは、静かに首だけ向きを変えて、聡介の方を見た。口からは(よだれ)が滴り落ちていた。


「これ……食べていいよな?」エイリークは食卓を指さしながら、口と目を見開いて聞くと、聡介は無言で頬を引きつらせながら縦に何度も首を振った。


エイリークはテーブルの上のすべての食事を食べた。黄金色のポークソテーを、つややかな緑で彩られたミミガーを、色彩豊かな豚汁を、銀色に輝く白米を、そして、白が映える冷奴を。暴食しつくした。


「あ……ああ私のトンカツ(豚の名前)が……」プリシラは朦朧(もうろう)とする意識の中でふらふらと立ち上がりながらあっという間に消費される食事を見ていた。


「く……かなり役職が上の少将が来た時からこの展開は予想していた。当たってしまった……くっ……殺せ……殺してくれ……」プリシラは涙を流した。


エイリークはすべての食事を食べ終えると満足げにつぶやいた。


「十分だ……ああ、もう十分だ……もう何にも要らないな……」


ゆっくりと深呼吸をすると、落ち着いた顔で聡介の方を見た。


「しかし、橋本聡介。こんなに素晴らしい料理(錬金術)を行使できるならお前に二つ名をやらんといかんな」そういいながら聡介の体をまじまじと眺めるエイリーク。


指の傷に気付いた。


「そうだ!お前は傷跡の錬金術師だ。これから傷跡(スカ―)と名乗れ!」エイリークは聡介の顔を指さしてそう答えた。


「ええ……この傷が直ったらどうするんですか……」聡介は困惑していた。


「そうだな……気にするな……心配ならお前のような料理ができる男は貴重だからな。私の夫にしてやってもいいぞ。毎晩その指を噛んで傷を広げてやる」エイリークは色欲に満ちた目で聡介を見た。


「な……聡介になんということを言うのですか……」プリシラはエイリークのことを睨んだ。


「なんだその眼は?傷跡(スカ―)はお前の男か?私の男を取れるものなら取ってみろ……ただではすまんぞ……」エイリークは嫉妬を孕んだ目をし、口角を上げながらプリシラを見た。


「そ、そんなわけありません!誰がこんな男のこと好きになるものですか!料理しか取り柄のない腰抜けなのですよ!好きになんか……なるものですか……」プリシラは顔を真っ赤にして否定した。


「はっは!確かにこいつは腰抜けで愚鈍だが……存外本質は押さえておるぞ?」エイリークは笑った。


「二人とも、さらっとひどいこと言うのやめてもらっていいですか……」聡介は、傷を広げられることなく、心に消えない傷跡(スカ―)を残した。


聡介は二人の言葉をかみしめ、顎に手を当てた。


「まあ……エイリークさんはちょっと年齢が上すぎますかね……」聡介は冷静につぶやくように言った。


「なんだ……と?」エイリークは聡介の言葉に目を見開いた。


「……」悲哀に包まれた顔をするエイリーク。


「む……雨が降ってきたな」エイリークは少し上を向いてつぶやくように言った。


「え?雨など降っていませんが……」プリシラは外を見た。夕焼け空だった。


「いや、雨だ……」エイリークの頬についた一筋の線を、夕焼けが照らしていた。


「……そうですね。今日は少し冷え込みそうですね……」プリシラはそうつぶやいた。


徐々に闇が広がりつつある深いオレンジ色の空に、深紅の戦乙女、焔の城壁、傷跡の錬金術師、それぞれの思いが溶け込んでいった。


時を同じくして……


「明日は……晴れるかな……」と、髪の毛がチリチリになった轟雷の奇術師の独白(あいず)は夕闇に飲まれていったのだった……

お読みいただきありがとうございました。

途中いくつか麻雀マンガのオマージュも挿入しております。いずれの原作もこよなく愛しております。


次回、予告!


聡介の家を訪れた魅惑の吸血鬼。


「貴様は今まで喰ったご飯の杯数を覚えているのか」


「初めての相手は〇〇ではないこの△△だぁ!」


様々なオマージュを駆使する作者、そこにしびれてあこがれてくれ!


次回も見てくれよな!5月中旬くらいに公開できればいいかなと思ってます。


※筆やすめなので不定期更新です。ご了承ください。

※荒川弘先生尊敬してます。

※本作は各作品へのオマージュ・パロディを含みます。権利者の方でご不満がある場合はご連絡ください。

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