第九十三話 闇に沈む声
完全獣化したアレンの猛攻も、アルデンの圧倒的な力の前では通じなかった。
霧の波に飲み込まれ、アレンは深い闇の中へ沈んでいく——。
霧が全てを覆った。
アレンの体は宙に浮かび、冷たい闇に包まれていく。
意識が遠のいていく中、手足の感覚が消えていくのがわかる。
「……これは……」
まるで、溶けていくような感覚。
体が闇に同化していく。
「ここで……終わるのか……?」
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遠くで、誰かの声が聞こえた。
「アレン!!!」
ヴァルガスの叫びが微かに響く。
「目を覚まして……!!」
ミリアの切実な声。
「アレンを返して!!」
ユイの悲痛な叫び。
しかし、その声はどこか遠く、霧の向こうへ消えていく。
ゼノンの声、フェンの鳴き声——
全てが薄れ、静寂が訪れる。
「……喰え……」
どこからか、囁く声が聞こえた。
「影を喰え、アレン……」
目の前に、アルデンがいた。
「お前が求めていたのは、さらなる力だろう?」
アルデンの声は穏やかだった。
「影を取り込めば、お前は限界を超える。誰にも負けない、最強の存在になれる……」
アレンは朦朧とした意識の中で、その言葉に飲み込まれそうになる。
「もっと……強く……」
「そうだ。お前が求めていたものだろう?」
アルデンが手を差し出す。
その手の中には、蠢く黒い影があった。
「これを喰えば、お前はすべてを手にできる」
アレンの体が、自然と動きそうになる。
目の前にある闇を、自らの力として取り込むように——。
指先が、黒い霧に触れた。
しかし——
「アレン!!!」
外から、ユイの叫ぶ声が響いた。
その瞬間、頭の奥で"何か"が砕けるような衝撃が走る。
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アレンの目が見開かれた。
黒い霧が弾け、熱い血流が全身を駆け巡る。
アルデンが目を細める。
「……何?」
アレンは、ゆっくりと拳を握りしめた。
「俺が……喰うのは……」
一瞬の静寂。
アレンの視線が、自分の腕へと向いた。
「俺だ!!!!」
そのまま、アレンは自分の腕に噛み付いた。
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アルデンに「影を喰え」と囁かれ、闇に飲み込まれそうになるアレン。
しかし、ユイの叫びが彼を呼び戻す。
そして、彼は決断する——「俺が喰うのは、俺だ!!!」