第八十六話 再会と霧の村
瞑想を終えるアレン。
そんな中、静寂を破る足音と共に、アレンを訪れる者がいた——。
リューディスは朝も静かだった。
風が木々を揺らし、鳥のさえずりが空に響く。
アレンは瞑想を終え、目を開ける。
この数日間、ヴォイド・リーヴァーの力を制御することに集中していたが、まだ完全に納得できる段階には至っていなかった。
(これで……本当にアルデンに勝てるのか?)
己の拳を握りしめ、考え込んでいると、遠くから足音が近づいてきた。
乾いた土を踏みしめる重みのある足音——聞き覚えのある音だった。
「……よぉ、アレン」
低く響く声。
顔を上げると、旅塵をまとった男が立っていた。
「ヴァルガス……」
---
アレンが立ち上がると、ヴァルガスは肩の荷を下ろし、息をついた。
「相変わらず、ここは静かだな」
「バストリア兵の稽古は終わったのか?」
ヴァルガスは苦笑し、軽く肩を回した。
「まあ、色々あったが……ひとまず落ち着いた。でも、のんびりしてる暇はねぇな」
アレンは彼の表情を見て、ただ事ではないことを悟った。
「……何があった?」
ヴァルガスはしばらくアレンを見つめた後、深く息をついた。
「バストリアの周辺で異変が起きてる。霧に包まれた村がある……そこじゃ、村人が消えてる」
「消えてる?」
「そうだ。"存在ごと"な」
アレンは眉をひそめる。
そして、
ヴァルガスはアレンの目を睨んだ。
「……アルデンが現れた」
---
アレンはヴァルガスの言葉に思わず声を失った。
「……!」
「ただし、前とは違うらしい」
ヴァルガスの表情が険しくなる。
「目撃した奴の話じゃ、もう人の形をしてなかったそうだ」
「……」
「ただの霧じゃねぇ。そこにいるだけで、周囲のものを消していく」
アレンの脳裏に、ヴォイド・リーヴァーの黒い霧がよぎる。
「何を企んでるのか分からねぇが、このまま放っておけば、バストリアもただじゃ済まねぇだろう」
「……なら、止めるしかない」
アレンは静かに言い、拳を握る。
---
二人はリューディスを出発し、バストリア郊外へと向かった。
旅路の途中、ヴァルガスは何気なく尋ねた。
「お前……変わったな」
「そう?」
「ああ。前より、落ち着いた感じがするぜ」
アレンはしばらく考え込んだ後、苦笑した。
「……そうかな」
「ま、何にせよ、お前が強くなってるのは確かだ」
ヴァルガスはにやりと笑う。
「だが……それだけで勝てる相手じゃねぇよな?」
アレンは真剣な表情で頷いた。
「……ああ」
---
日が沈みかける頃、二人は問題の村へと到着した。
村は不気味な静寂に包まれていた。
人の気配がない。
家々はそのままだが、まるで生命が存在していないかのような異様な光景が広がっている。
「……死んでるみてぇな村だな」
ヴァルガスが低く呟く。
アレンは村の奥へ進みながら、異変の原因を探る。
その時——
「……ッ」
足元に霧が広がった。
「何だ、これは……?」
ヴァルガスが剣に手をかける。
霧はただの自然現象ではなかった。
まるで意思を持っているかのように、じわじわと広がり、二人の周囲を包み込んでいく。
「アレン、こいつは……!」
「……分かってる」
アレンの目が鋭くなる。
霧の奥から、ぼんやりとした人影が浮かび上がった。
---
「……誰かいるのか?」
ヴァルガスが声をかける。
だが、人影は何も答えない。
「……まさか、こいつら消えた村人じゃねぇよな?」
ヴァルガスが剣を抜き、構える。
その瞬間、霧の中から不気味な声が響いた。
「アレン……」
アレンは目を見開く。
「……!」
この声——聞き覚えがある。
「……アルデン……?」
その名を口にした途端、霧が一気に渦を巻き、黒い影が立ち上がった。
その影は、かつてのアルデンの輪郭をしていた。
だが、もう彼ではないことは明らかだった。
「久しぶりだな……」
低く響く声。
ヴァルガスが剣を握りしめる。
「お前……本当に、アルデンなのか?」
影のようなアルデンは微かに笑った。
「お前たちは、まだ理解していない……」
「俺は完全になる」
そして、霧が一気に濃くなった。
「……待て、アルデン!!」
アレンが叫ぶが、すでに彼の姿は霧の奥へと消えていた。
---
ヴァルガスとの再会を果たし、アレンはバストリアの異変を知る。
霧に包まれた村、消えた人々、そして現れたアルデンの影——。
すでに人ではなくなったアルデンの真の目的とは?




