第八十五話 喰らう側
バストリアではヴァルガスとゼノンが戦いを終え、王城の防衛を固めていた。
一方、 アレンはヴォイド・リーヴァーの力を制御するため、リューディスの村で瞑想を続けていた。
静寂の中、アレンは新たな気付きを得ようとしていた——。
リューディスの夜は静かだった。
アレンは瞑想を続けながら、ヴォイド・リーヴァーの力を制御することに成功しつつあった。
しかし、その力を理解するほどに、疑問も浮かび上がる。
(この力は、本当に"俺のもの"なのか……?)
アレンは、城を出る前にヴァルガスから聞いた話を思い出した。
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「ヴォイド・リーヴァー……あれは、伝説上のモンスターだ…」
ヴァルガスは、剣の手入れをしながら話していた。
「まぁ、俺もおとぎ話だと思ってたけどな……実際に見ちまったんだ、現実のものだったんだろうよ」
「おとぎ話……どんな話なんだ?」
アレンが尋ねると、ヴァルガスは少し考えながら言った。
「俺が知ってる話じゃ、ヴォイド・リーヴァーってのは"闇を喰らう化け物"って話だ」
「闇を喰らう……?」
「そうだ。普通のモンスターと違って、そいつは肉を喰うんじゃねぇ。影を喰うんだとよ」
「影を……?」
「それが何を意味するのかは分からねぇ。ただ、"存在そのものを喰らう"とか言われてたな」
アレンは黙ってヴァルガスの話を聞いていた。
「一つ、気になることがある」
ヴァルガスはふと、アレンの目を見て言った。
「お前が手に入れた力……それ、本当に大丈夫なのか?」
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瞑想の中で、アレンはヴォイド・リーヴァーの力を感じ取る。
それはたしかに強大だった。
しかし、今まで喰らってきたモンスターとは決定的に違う何かがあった。
普通のモンスターは、喰らえば血肉となり、自分の力となる。
だが、ヴォイド・リーヴァーの力は形を持っていない。
(こいつは……物質じゃない……?)
剣の破片を喰らったことで、この力の一部を得たはずだった。
だが、感じるのは圧倒的な"怨念"のようなもの。
(……これは、闇そのものかもしれない)
アレンの意識の中で、黒い霧が渦巻く。
まるで、意思を持った存在のように、彼の意識を侵食しようとする。
「……っ!」
その瞬間、アレンの体が僅かに震えた。
(違う……こいつは……
…俺を喰おうとしている!?)
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アレンは静かに目を開けた。
「……アレン?」
ユイが、心配そうに彼の顔を覗き込んでいた。
「急に、怖い顔して……」
アレンは息を吐き、額の汗を拭った。
「……大丈夫だ」
ユイはまだ不安そうだったが、そっと頷いた。
「でも……なんだか、アレンがいつもと違う気がする」
アレンは瞑想を続けるべきか迷ったが、今はまだ、それ以上の答えは見つかりそうになかった。
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「アレン……」
ユイがそっと彼の肩に手を置く。
「何か分かったの?」
「……いや、まだ分からない」
アレンは目を閉じ、静かに答えた。
「でも、一つだけ確信したことがある」
ユイが首を傾げる。
「この力……まだ俺のものになっていない」
ユイは黙ってアレンを見つめていた。
「今のままじゃ、俺は"喰う側"じゃなく"喰われる側"になる」
アレンの瞳には、迷いがあった。
「だから……もっと、この力を知る必要がある」
ユイは、少しだけ微笑んだ。
「だったら、私も一緒に考える」
アレンはユイを見て、ゆっくりと頷いた。
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アレンは瞑想を通じて、ヴォイド・リーヴァーの力を制御することに成功しつつあった。
しかし、彼は気付く——ヴォイド・リーヴァーは"物質"ではなく、"怨念"のような存在なのではないかと。
今の力では、まだ完全に"喰う"ことができない。
このままでは、逆に"喰われる"側になってしまうかもしれない。
アレンは、さらなる答えを求めて、力の探求を続ける——。




