第八十四話 変わる戦局
ヴァルガスとゼノンはダーク・ハイドラとの死闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
血抜き槍の力で魔獣を弱らせ、最後は二人の力で心臓を貫いた。
バストリアの危機は終焉を迎え、王城には再び静寂が戻る——。
バストリア城の戦いが終わった直後、城内にはまだ緊張感が残っていた。
「……終わったのか?」
王国兵の一人が呟いた。
大広間には、倒れたダーク・ハイドラの巨大な躯が横たわり、黒い血が床を汚している。
ヴァルガスとゼノンは剣を突き立てたまま、肩で息をしていた。
「……どうやらな」
ヴァルガスは剣を引き抜き、ぐったりとした体を引きずりながらフェンの頭を撫でる。
「お前も、よくやったな」
フェンは満足そうに鼻を鳴らした。
ゼノンはヴァルガスの肩を叩き、微笑む。
「お前には、何度も助けられたな……」
ヴァルガスは鼻を鳴らし、笑った。
「まったく、世話の焼けるやつだぜ」
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戦いが終わった後、ヴァルガスとゼノンは王国兵たちに指示を出しながら、城内の整理に取り掛かった。
「まず、負傷者を集めて治療班のところへ運べ!」
ヴァルガスが叫ぶと、騎士たちはすぐに動き出した。
「おい、新米、そっちの兵士はまだ息がある! しっかり支えてやれ!」
「はい!」
ヴァルガスの厳しい訓練を受けた騎士たちは、以前とは見違えるほど迅速に動いていた。
ゼノンはそれを見ながら静かに言った。
「ヴァルガス……お前のおかげで、騎士団が変わったな」
「俺だけの力じゃねぇよ」
ヴァルガスはミリアとフェンに視線を向けた。
「こいつらのサポートがなけりゃ、ここまで持ちこたえられなかった」
ミリアは照れたように微笑みながらも、真剣な表情で頷いた。
「でも、ヴァルガスの指導があったからこそ、騎士たちもこの戦いを乗り越えられたのよ」
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その後、ヴァルガスとゼノンは王のもとへ報告に向かった。
王は彼らの姿を見るなり、深く頷いた。
「よくぞ戻った。貴殿らの尽力なくして、この戦いに勝つことはできなかった」
ヴァルガスは腕を組み、少し疲れた表情を浮かべながら言った。
「まぁ、なんとか片付けましたよ」
ゼノンも王に向かい、一礼する。
「王国騎士としての務めを果たしました」
王は静かに二人を見つめ、言葉を続けた。
「ヴァルガス……貴殿の実力と指導力には目を見張るものがあった。王国騎士団にとって、貴殿の存在は欠かせない」
ヴァルガスは一瞬だけ驚いたが、すぐに苦笑した。
「俺は騎士って柄じゃねぇんでね……戦いが終わったら、元の生活に戻るさ」
王は微笑みながら頷いた。
「それでも、この国の危機に際し、貴殿が手を貸してくれたことを忘れはしない」
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その日の夜、ヴァルガスはゼノンと共に城の屋上にいた。
「結局、貴族派の連中はどうなった?」
ヴァルガスが尋ねると、ゼノンは腕を組みながら答えた。
「生き残った者たちは捕らえられ、処罰が決まるまで幽閉されることになった。今回の反乱の首謀者は王の前で裁かれるだろう」
ヴァルガスは鼻を鳴らした。
「まぁ、当然だな」
ゼノンはヴァルガスの横顔を見つめ、静かに言った。
「……お前がいなければ、俺はここで死んでいた」
「今さら何言ってんだよ」
ヴァルガスは笑いながらゼノンの肩を軽く叩いた。
「俺は俺のやり方で、この国を守っただけさ」
ゼノンは少しだけ目を細めた。
「……お前と共に戦えて、誇りに思う」
ヴァルガスは少し驚いたが、すぐにニヤリと笑った。
「へぇ、そんなこと言うとはな」
「お前ほどの男を、認めないわけにはいかない」
二人は笑い合い、静かな夜風に吹かれた。
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一方、ミリアは城の庭でフェンと共に空を見上げていた。
「……終わったんだね」
フェンが鼻を鳴らしながら、ミリアの足元に寄り添う。
「ヴァルガス、本当にすごいわ……」
ミリアは、ヴァルガスが戦う姿を思い出しながら、そっと呟いた。
(私は何ができたんだろう……)
自分は戦えない。
それでも、ヴァルガスを支えられる何かがあるのなら——。
「……私も、もっと強くならなきゃ」
ミリアはフェンの頭を撫でながら、静かに決意を固めた。
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バストリアの戦いは終わり、王国騎士団も大きく成長した。
ヴァルガスの指導と戦いを経て、ゼノンとの絆も深まる。
ミリアもまた、自分にできることを考え始める。
一方、アレンとユイはーー。




