第七十四話 王国騎士団最強の男
アレンたちはバストリア王の使者に招かれ、王と直接会うため城へと向かったーー。
バストリア城は堂々たる威容を誇っていた。
高くそびえる城壁、豪華な装飾が施された門、そしてそこを警備する精鋭たちの鋭い視線。
アレンたちは馬を降り、城の正門へと歩みを進めた。
門番が彼らを見定めた後、先導する使者に敬礼する。
「陛下がお待ちです。どうぞ中へ」
広大な廊下を進み、奥の玉座の間へと案内された。
そこには、王の座に腰を下ろした男がいた。
「よくぞ参られた」
レオナード・ヴァン=バストリア三世——バストリア王国を統べる王が、静かに口を開いた。
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王は堂々とした姿勢で玉座に座りながら、一行を見渡す。
「貴公らがアルデンを退けたと聞いている。まずは、王として、心からの感謝を述べねばなるまい」
アレンは王を見つめ、一礼する。
「ありがたきお言葉、恐れ入ります。しかし、私たちは自分たちのために戦っただけです」
「謙虚なことだ。しかし、貴公らがいなければ、この国の均衡は今も崩れたままだっただろう」
王は小さく頷くと、側近に合図を送った。
「貴殿らには、相応の褒美を用意している」
側近が、立派な木箱をいくつか運び込んだ。
箱の中には金貨、貴族が持つような装飾品、そして上質な武具が並べられていた。
「これらを受け取ってほしい」
ミリアとユイが驚いたように箱を見つめる。
「……こんなに?」
「当然のことだ。我が国の危機を救ってくれたのだからな」
ヴァルガスは箱の中を覗き込み、肩をすくめた。
「随分と気前がいいな」
アレンは一度考えたが、静かに頷く。
「ありがたく頂戴いたします」
王が満足げに微笑んだその時、王の側近に控えていた騎士たちの間から、低く押し殺した笑いが聞こえた。
「……アルデンを退けた? そんな話、信じられるか」
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騎士たちは皆、一様に疑いの眼差しを向けていた。
「アルデンは王国最強の騎士だぞ。そんな相手を、この程度の連中が退けたと?」
「伝説級の強さを誇る男を相手に、互角どころか勝ったなど、にわかに信じがたいな」
アレンは冷静に彼らの視線を受け止めた。
(まあ、疑われるのも当然か……)
確かに、アルデンがどれほど強かったかを知る者たちにとって、アレンたちの勝利は信じがたいものだったのかもしれない。
そのとき、一歩前に進み出た男がいた。
「ならば、確かめさせてもらおう」
鋭い視線を持つ男が、アレンを見据えながら口を開く。
「ゼノン・ヴァル=クラウス」
彼こそ、王国騎士団最強と謳われる男。
「俺と手合わせしろ」
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ゼノンは鋭い視線を向けながらアレンに言い放った。
「アルデンを退けたというなら、その実力を見せてもらおう」
アレンはゼノンの申し出に対し、すぐに首を横に振る。
「申し訳ありませんが、そういった類の戦いに興味はありません」
騎士たちがざわめく。
「ほう……逃げるのか?」
ゼノンが挑発するように言うが、アレンは表情を変えなかった。
「私は戦いを証明するためにここへ来たわけではありません」
その言葉に、ゼノンの目が細まる。
「……なるほどな。だが、貴様の力をこの国の者たちが信じられないのも事実だ」
王が静かに口を開く。
「ゼノンの言い分にも一理あるな。貴殿の実力を示すことで、我が国の者たちが納得するだろう」
アレンは王の言葉を聞き、一度考え込んだ。
(……やっぱり、こうなるか)
王の頼みとあれば、断るのも難しい。
アレンは静かにため息をつき、王へと向き直った。
「陛下のご意向であれば、お受けいたします」
「よろしい」
王が頷くと、ゼノンは薄く笑った。
「試合は三日後、王城の武闘場にて行う」
王が決定を下すと、騎士たちの間にざわめきが広がる。
「ゼノン様が相手なら、これで真実が明らかになる」
「どちらが勝つか、楽しみだな……」
アレンは少しだけ肩をすくめた。
「まあ、仕方ねぇな……」
ヴァルガスは腕を組みながら、笑った。
「やるしかねぇだろ」
こうして、王の頼みを受ける形で、アレンとゼノンの試合が正式に決定した。
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バストリア王はアレンたちに褒美を授けた。
しかし、王国騎士団の中には彼らの実力を疑う者も多く、ゼノン・ヴァル=クラウスが試合を申し込む。
アレンは最初は拒否するが、王の頼みで仕方なく受けることに。
王国最強の騎士との戦い、その行方は——。
次回、アレン vs ゼノン、開戦!




