第七十三話 王の使者
ヴァルガスを救い出し、バストリアを脱出したアレン。
ヴァルガスはリューディスでの生活に馴染み、フェンと共に修行を続ける日々を送っていた。
穏やかな時が流れていたが、数ヶ月が経ったある日——。
秋の風が心地よく吹き抜けるリューディスの村。
ヴァルガスは剣を振り、日課の鍛錬を終えたばかりだった。
「……いい天気だな」
そんな呟きとともに、馬の足音が遠くから聞こえてきた。
ヴァルガスは剣を鞘に収め、目を細める。
「……あの紋章、バストリア王国軍のものか」
彼は静かに呟くと、村の入り口に向かって歩き出す。
アレンも気づき、フェンを連れて後に続いた。
やがて、馬に乗った数人の男たちが姿を現した。
その中央にいる男は、立派な装束をまとい、威厳ある態度で馬を降りる。
「アレン殿ですね?」
男はアレンを見つめながら問いかけた。
「ああ、そうだが……」
「私はバストリア王の使者として、貴殿にお会いするために参りました」
ヴァルガスが腕を組みながら尋ねる。
「王が俺たちに何の用だ?」
使者は一礼し、口を開いた。
「まずは、王より貴殿へ深い感謝をお伝えしたい」
「感謝?」
アレンが眉をひそめると、使者はゆっくりと頷いた。
「貴殿がアルデンを退けてくださったことで、バストリア王はようやく自由に政を執ることができるようになったのです」
「……退けた?」
アレンは少し考え込みながら呟いた。
「アルデンは王の配下じゃなかったのか?」
ヴァルガスが鋭く問いかけると、使者は首を横に振る。
「アルデンは王直属の騎士ではなく、貴族派が雇った戦士でした。王は長らく彼の存在に苦しめられていたのです」
アレンは納得したように頷いた。
「つまり、あの貴族どもが勝手に強い奴を雇って、好き放題やってたってわけか」
「その通りです。しかし、貴殿の手でアルデンが討たれたことで、貴族派は力を失い、王が本来の力を取り戻したのです」
「……で?」
アレンは真っ直ぐに使者を見据えた。
「わざわざここまで来たんだから、それだけじゃないんだろ?」
使者の表情が僅かに曇る。
「はい。問題は、アルデンがまだ完全に消えたわけではないということです」
「……やっぱりな」
ヴァルガスが腕を組み直す。
「王はアルデンが再び現れる可能性を危惧しています。貴族たちが彼を復活させる手段を探している可能性があるのです」
アレンは静かに考え込んだ。
「つまり、また厄介なことになるかもしれないってことか」
「王は貴殿と直接話をしたいと望んでおります」
使者は慎重に言葉を選びながら続ける。
「バストリアへお越しいただけませんか?」
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「……バストリアへ?」
アレンは少し考え込む。
ユイの表情が一瞬で曇るのがわかった。
「行かないとダメなの?」
ユイの声は小さかったが、その言葉には強い感情が込められていた。
「……ユイ」
ミリアが心配そうにユイの肩に手を置く。
「無理に行く必要はないさ」
ヴァルガスが優しく言うと、ユイは少しだけ目を伏せた。
「……ごめん。でも、バストリアは……」
アレンはユイの気持ちを察し、少し笑いながら言った。
「無理に来なくていい。俺とヴァルガスで行くさ」
「……」
ユイは沈黙したまま、拳を握る。
「でも……」
小さな声が漏れる。
「私、ずっと逃げてばっかりだった……」
ミリアが驚いたようにユイを見つめる。
「バストリアは怖い。思い出すのも嫌。でも……」
ユイはアレンを見上げた。
「アレンが行くなら、私も行く。今度は逃げたくない」
アレンはユイの瞳をしっかりと見つめた。
「……分かった。でも、無理はするなよ」
「うん」
ユイは小さく頷いた。
ミリアも、少し悩んだ末に口を開いた。
「私も行くわ」
「ミリア?」
「私だって、何か役に立ちたいの!」
アレンはミリアを見て、ゆっくりと頷いた。
「そうだな。じゃあ、全員で行くか」
「もちろん、フェンもだよ!」
ユイがにっこりと笑いながら言う。
フェンは静かにアレンのそばに立ち、低く唸った。
「……よし、決まりだな」
アレンは使者に向き直り、静かに言った。
「バストリアへ行こう」
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バストリア王の使者が現れ、アルデンが再び現れる可能性を示唆した。
ユイ、ミリアもバストリア行きを決意。
こうして、アレン、ヴァルガス、ユイ、ミリア、フェンの一行はバストリアへ向かう。




