第六十四話 影を裂く疾風
処刑の場には多くの貴族が集まり、見せしめとして執行が行われようとしていた。
王国最強の騎士・アルデンもその場に佇み、沈黙を守る。
しかし、その瞬間——。
ヴァルガスは処刑台の上に立たされていた。
腕を後ろに縛られ、膝をつかされた彼の目には、絶望の色が浮かんでいる。
目の前には、豪奢な装いの貴族たちが居並び、彼を嘲笑していた。
「フン、馬鹿な男だ。あんな盗っ人とつるんだせいで、こんな目に遭うとはな」
「己の身分もわきまえず、貴族の所有物に手を出すからこうなるのさ」
「まぁ、見せしめにはちょうどいいだろう。こいつを見て、愚かな平民どもが少しは恐れを抱けばいい」
ヴァルガスは歯を食いしばる。
「……くそが……」
彼の視線の先に立つのは、一人の男。
無表情のまま静かに佇む、その男の名は——アルデン。
貴族たちの嘲笑も気にせず、まるでそこに「ただいる」だけのような存在感。
しかし、誰よりも強い。
誰よりも速い。
誰よりも冷徹な、王国最強の騎士。
「……こいつがいる限り、アレンが助けに来ても……無駄だ……」
ヴァルガスは諦めかけていた。
——だが、次の瞬間、何かが変わった。
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処刑人がヴァルガスの首元に剣を振り上げる。
「それでは、執行する!!」
重々しい声が響き渡る。
ヴァルガスが目を閉じた、その刹那——
シュンッ——
一陣の疾風が吹き抜けた。
「……!? どこへ行った!」
処刑台の上から、ヴァルガスが消えていた。
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貴族たちは何が起こったのか分からず、騒然となる。
「な、なにが起こった!?」
「どこへ消えた!?」
「まさか、幽霊か!?」
しかし、その場にいた者たちの中で、ただ一人だけ——
アルデンだけは、ヴァルガスの行方を目で追っていた。
彼の視線の先。
そこに立っていたのは——
「……悪ぃな。連れ帰るぞ」
ヴァルガスを肩に担いだ、アレンだった。
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処刑台から遠く離れた場所、屋敷の屋根の上。
アレンはヴァルガスを片手で担ぎながら、冷静に下を見下ろしていた。
「てめぇ……どうやって……」
ヴァルガスは驚愕しながらアレンを見上げる。
アレンは薄く笑いながら、右腕を軽く握りしめた。
ギチギチッ……
獣化した右腕が、わずかに脈動していた。
「……強くなったってことだよ」
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しかし、下の貴族たちはすぐに事態を察し、怒号を上げる。
「追え! 逃がすな!!」
「城壁を封鎖しろ!」
「アルデン様、奴を——」
貴族の一人がアルデンに命じようとしたその瞬間——
ゴゴゴゴ……
空気が張り詰めるような圧が、その場を支配する。
「……いいから黙れ」
その言葉だけで、場が凍りついた。
アルデンは、ただ静かにアレンを見据えていた。
まるで、獲物を狩る瞬間を楽しむかのように——。
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ついに始まったヴァルガスの処刑。
だが、その瞬間、アレンが現れ、ヴァルガスを救い出した。
しかし、その場には、王国最強の騎士・アルデンがいる。
アレンとアルデン、二人の強者の間に、どんな戦いが繰り広げられるのか——?




