第六十三話 獣の胎動
バロッグ・タイラントとの激戦の中、アレンの体に異変が起こる。
それは、ただ敵の力を取り込むのではなく——
自身の「喰う力」との共鳴によって目覚めた、新たな力だった。
バロッグ・タイラントの咆哮が、天地を揺るがす。
片目を喪い、怒り狂った巨体が暴れ回る。
大地を砕き、風を巻き上げながら、全身全霊の破壊衝動をアレンへと向ける。
だが——
アレンは笑っていた。
「どうした? さっきまでの余裕はどこいった?」
バロッグ・タイラントの拳が唸りを上げる。
その巨体から放たれる一撃は、まさに圧殺の一撃。
しかし、アレンの目には、それがスローモーションのように映った。
「……遅い」
軽く身を屈めた瞬間、拳が頭上を掠める。
衝撃波が背後の岩壁を粉砕し、飛び散る破片が空を舞った。
しかし、アレンはすでにそこにはいない。
地を蹴り、バロッグ・タイラントの肩へ飛び乗る。
そのまま勢いをつけ、頭部へと一直線に駆け上がる。
振り落とそうとする動きも、今のアレンには遅すぎた。
「今なら……届く!」
アレンの中で、何かが蠢く。
それは、ただ敵の眼球を喰らっただけではない。
自分の中に眠る「喰う力」と、バロッグ・タイラントの生命力が共鳴し、
今までとは異なる、新たな力を生み出していた。
「ぐっ……!!」
右腕が燃えるように熱くなる。
「う……ぐあああっ!!」
筋肉が異様に膨れ上がり、皮膚が裂ける。
赤黒い紋様が腕全体に浮かび上がり、爪が鋭く変化する。
「これは……!!」
アレンの右腕が、まるで異形の獣のそれへと変貌していた。
脈動する血管、異常に発達した筋肉、鉤爪のような指先。
これまでの自分の腕とはまったく異なる、恐るべき獣の力。
「……なるほど、そういうことか」
アレンは、変異した腕をゆっくりと握る。
信じられないほどの力が湧き上がる。
腕を振るうだけで、風が渦を巻くのがわかる。
「なら、この腕で……終わらせる!」
アレンの体が、一瞬で消えた。
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バロッグ・タイラントの拳が振り下ろされる。
だが、アレンはすでに懐へと潜り込んでいた。
「終わりだ」
右腕の爪を振り上げ、バロッグ・タイラントの胸部へ突き刺す。
「ズブッ!!」
硬い皮膚を突き破り、骨を砕く感触が伝わる。
「グオオオオオオッ!!!」
バロッグ・タイラントの絶叫が響く。
だが、アレンはさらに腕を深く突き進めた。
「……そこか」
爪が肋骨を掴む。
その奥で、脈打つものがあった。
「もらった……!!」
アレンは力を込め、一気に引き抜く。
「ブシャァァァァッ!!!」
赤黒い血が噴き出す。
その手には、バロッグ・タイラントの巨大な心臓が握られていた。
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バロッグ・タイラントの巨体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
地面が揺れ、沈黙が訪れた。
「……終わったか」
アレンは、手にした心臓を見つめる。
まだ脈打っている。
まるで「喰え」と囁いているかのように——。
喉が鳴る。
無意識に、指が力を込めていた。
「これを喰えば……俺はどうなる?」
その答えは、誰にもわからない。
だが、確実に言えることが一つある。
——アレンの「喰う力」は、まだ目覚めたばかりだ。
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バロッグ・タイラントの眼球を喰らったアレンは、その力と共鳴し、右腕だけが獣化した。
そして、その力を用いてバロッグ・タイラントの心臓を引きずり出し、勝利を収めた。
その心臓を喰えば、彼はどう変わるのか——。




