第六十一話 血に宿る力
バロッグ・タイラントの異常な耐久力と再生能力により、アレンの攻撃は決定打にならなかった。
どれほど傷を負わせても、すぐに塞がり、まるで無傷のように立ち続ける。
自分の力では勝てないと悟った時、アレンはある可能性に気づく。
バロッグ・タイラントの咆哮が響き渡る。
アレンは息を荒げながら、戦闘の状況を見極める。
この戦い、すでに何度も攻撃を仕掛け、確実にダメージを与えているはずだった。
しかし。
「……嘘だろ」
アレンの目の前で、バロッグ・タイラントの体は何事もなかったかのように佇んでいた。
何度も拳を叩き込んだ。
鋭く貫手を突き込み、深い傷をつけたはずだった。
しかし、結果はどうだ。
「全部……無駄だったのか……?」
バロッグ・タイラントの体には、かすかに裂けた跡が残っている。
だが、その傷はすでに塞がっており、血すら流れていない。
アレンの拳や蹴りは、この怪物の前ではかすり傷にもならないのか。
「……クソッ!!」
拳を握りしめる。
バロッグ・タイラントは、未だに余裕の表情を浮かべながら、ゆっくりとアレンを見下ろしていた。
「まだ……遊びのつもりか……」
圧倒的な力の差。
自分の攻撃は何の意味もなさない。
アレンの中に、じわじわと焦りが広がっていく。
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「……なら、どうすればいい?」
このままでは勝てない。
バロッグ・タイラントにダメージを与える手段がない以上、ただ戦い続けるだけでは時間の無駄だ。
「クソ……このままじゃ……」
アレンの思考がまとまらないうちに、バロッグ・タイラントが動いた。
巨大な拳が、一瞬にして視界を覆う。
「っ……!!」
回避が間に合わない。
次の瞬間、衝撃がアレンを襲った。
全身が空を舞い、地面に激しく叩きつけられる。
体中に鋭い痛みが走り、呼吸が詰まる。
「ぐっ……!!」
肋骨が軋み、腕は地面に叩きつけられた衝撃で痺れている。
「……ヤバいな……」
体は限界に近い。
しかし、バロッグ・タイラントは変わらず、そこに立っている。
何事もなかったかのように。
「勝てるわけねぇだろ……こんなの……」
アレンは拳を握りしめる。
「どうすれば……どうすれば、こいつに追いつける……?」
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「……喰うしかねぇな」
その言葉が、思わず口から漏れた。
バロッグ・タイラントは、常識外れの存在。
規格外の強さを持つこの怪物の肉を喰えば、自分もまた——
「強くなれる……!」
迷いはなかった。
アレンは、バロッグ・タイラントの傷口へ向かい、
その巨大な肉塊に喰らいつこうとする。
しかし。
「……硬すぎる……!」
歯が通らない。
噛み砕こうとしても、まるで鋼のような皮膚が邪魔をする。
たとえ傷口に近づいても、筋肉自体が異常に頑強で、引き裂くことすらできない。
「こんなもん……喰えるわけねぇだろ……!」
苛立ちが募る。
さらに、バロッグ・タイラントは明らかに警戒していた。
アレンが近づくたびに、巨体を動かし、距離を取る。
「チッ……今さら、逃げる気かよ……!」
関節の裏を狙おうにも、先ほどの攻撃で学習したのか、
バロッグ・タイラントはそこを完全にガードしている。
「……どうすれば……」
この状況を打破する方法が思いつかない。
だが、その時。
アレンは、ふと手元に目を落とした。
血に濡れた拳。
バロッグ・タイラントの返り血が、指先にこびりついている。
無意識に、アレンはそれを舐めた。
「……!」
次の瞬間、全身に衝撃が走る。
「……おお……」
熱が、駆け巡る。
心臓が激しく脈打ち、筋肉が膨張するような感覚。
「なんだ、これ……」
力が湧き上がる。
傷の痛みが、薄れていく。
折れかけていた肋骨の軋みが消え、裂けた皮膚がじんわりと熱を帯びる。
「……回復……?」
血を舐めただけで、ダメージが癒えていく。
ならば。
「肉を喰えば……どれだけ強くなれる……?」
アレンの目が鋭く光る。
これは、勝機かもしれない。
バロッグ・タイラントを倒すための、最後の鍵。
「……決めるか」
アレンは、血を拭い、拳を握り直した。
バロッグ・タイラントは、なおも唸り声を上げながら立ち上がろうとしている。
だが、もう逃がさない。
「……喰らってやるよ、お前の力ごと」
戦闘の行方は、ここから決まる。
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アレンは攻撃力の限界を感じ、バロッグ・タイラントの肉を喰おうとするが、皮膚が硬すぎて噛みちぎれなかった。
しかし、試しに舐めた返り血によって、驚異的な力の増加とともに、ダメージの回復を体感する。
バロッグ・タイラントの肉を喰えば、さらに強くなれるのか——。