第五十六話 最強の騎士アルデン
アレンは久しぶりにバストリアを訪れ、ギルドへと向かう。
ヴァルガスの安否を確かめようとするが、
そこで衝撃的な事実を突きつけられることになる——。
バストリアの街を歩くのは久しぶりだった。
活気ある市場を横目に、アレンはギルドへと足を向ける。
調味料を手に入れるのは後回しだ。
「ヴァルガス、まだギルドにいるのかな……?」
調味料を手に入れる前に、彼のことを確かめておきたかった。
最後に会ったのは、ミリア救出作戦の前。
それ以来、彼の動向は知らない。
アレンはギルドの扉を押し開けた。
中はいつもの喧騒に包まれていた。
冒険者たちが酒を飲み、情報を交わし、時には取っ組み合いを始める。
そんな荒れた空気の中、アレンはまっすぐ受付へ向かった。
受付には、以前と同じ女性が座っていた。
しかし、アレンの姿を見た瞬間、彼女の表情が強張る。
「……えっ……!?」
驚きと警戒が入り混じった顔。
まるで、幽霊でも見たかのようだった。
「ヴァルガスに会いたいんだが」
アレンがそう言うと、受付の女性は躊躇したあと、小さく頷く。
「少し待ってください」
彼女は立ち上がり、ギルドの奥へと消えていく。
不穏な空気を感じながら、アレンは待った。
数分後——
「ギルドマスターが会いたいそうです。ついてきてください」
女性の表情は硬いままだった。
アレンは黙って頷き、彼女の後に続いた。
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ギルドマスターの部屋。
扉を開けると、ギルドマスターのグラントが待っていた。
彼はアレンを見るなり、机を叩いて立ち上がる。
「お前……!!」
開口一番、怒鳴り声が飛ぶ。
「なぜ貴族の屋敷に行ったんだ!!」
アレンは一瞬、面食らった。
グラントの目は怒りと苛立ちに満ちている。
「……なんの話だ?」
「とぼけるな!! 貴族の屋敷に忍び込み、騒ぎを起こしただろう!!」
アレンは眉をひそめた。
「それがどうした?」
「それがどうしただと……!?」
グラントは深く息を吸い込み、力強く言い放った。
「お前のせいで、ヴァルガスが貴族どもに捕まったんだ!!」
アレンの表情が変わった。
「……どういうことだ?」
「貴族たちは、お前が屋敷に侵入したことを知っていた。
そして、お前の仲間としてヴァルガスを捕らえたんだ!!」
アレンは一瞬、沈黙した。
「……ヴァルガスが?」
「そうだ……!! 貴族の連中は、あいつをお前の共犯者として扱っている!!」
ギルドマスターの怒りが、部屋全体に響く。
しかし、アレンは冷静だった。
「どこにいる?」
「……バストリアの地下牢だ」
グラントは険しい表情のまま答えた。
「貴族どもは、ヴァルガスを見せしめにするつもりらしい。
このままでは、処刑されるぞ……!!」
アレンはゆっくりと息を吐き、拳を握った。
「……なるほど」
短い沈黙のあと、アレンは淡々と呟く。
「ヴァルガスを助ける」
「待て……!!」
グラントは机を叩き、声を荒げた。
「ヴァルガスを助ける? 馬鹿なことを言うな!!」
「なぜだ?」
「お前、知らないのか……?」
グラントは顔を歪める。
「貴族の地下牢にはアルデンがいる」
「アルデン?」
アレンはその名を聞いたことがなかった。
「最強の騎士アルデン……奴は桁違いに強い。
貴族たちの切り札とも言われている」
「どれくらいの強さだ?」
グラントは苦い顔をした。
「お前が今まで戦ってきたどんな敵よりも、遥かに強い。
おそらく……お前よりもな」
アレンは静かに目を細めた。
「……俺よりも?」
それは、アレンにとって衝撃だった。
これまで数々の強敵と戦い、喰らい、力を得てきた。
だが、それでも上がいるというのか。
「アルデンが守る地下牢に、無策で突っ込めば、間違いなく死ぬぞ」
グラントは警告するように言った。
「ヴァルガスを救うことは不可能だ。
諦めろ、アレン……!!」
アレンは黙っていた。
しかし、その瞳には、強い決意が宿っていた。
「……処刑はいつだ?」
グラントは苦々しく答える。
「二日後だ」
「そうか」
アレンは静かに息を整えた。
「なら、それまでにもっと強くならなきゃな」
グラントは驚いたように目を見開く。
「……お前、まさか……!?」
アレンはギルドマスターの部屋を後にした。
ヴァルガスを救うためには、もっと力が必要だ。
そして——
最強の騎士アルデンを倒すために。
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ヴァルガスが貴族たちに捕らえられたことを知ったアレン。
しかし、彼を救い出すためには、自分よりも強いという騎士アルデンと対峙しなければならない。
そして、ヴァルガスの処刑は二日後——。
アレンは決意する。