四十四話 夜明け前の決意
ユイの壮絶な過去を聞いたアレン。
彼女を助けたいというミリアを救うため、彼は動き出す。
「……ユイ、起きろ」
ユイは肩を揺さぶられ、ぼんやりと目を開けた。
まだ夜の闇が残る時間帯。焚き火の火はほとんど消えかけている。
「……アレン?」
「今からミリアを助けに行く」
その言葉に、ユイは一気に目が覚めた。
「……えっ?」
「すぐに支度しろ。行くぞ」
ユイは寝ぼけた頭を急いで回転させる。
「ま、待って! いきなりそんな……!」
慌てて毛皮をはねのけ、アレンを見上げる。
彼の顔にはいつも通りの落ち着きがあるが、その瞳の奥には強い決意が見えた。
「でも……どうやって? あの屋敷、貴族の屋敷なんだよ? それに、ミリアがどこにいるかも……」
「だからお前に来てもらう」
「え?」
アレンは淡々と続ける。
「俺はどの屋敷にミリアがいるのかも、ミリアがどんな顔をしているのかもわからない。だから、お前に案内してほしい」
ユイは言葉を失った。
ミリアを助けたいと思っていたのは確かだった。
でも――
「私……足手まといになるだけかもしれない……」
消え入りそうな声で呟く。
「足手まといにはさせない」
アレンはそう言うと、ロープを取り出した。
「だから、おぶっていく」
「……え?」
ユイは一瞬、理解が追いつかなかった。
「おぶるって……え?」
「このまま走る。足手まといにならないようにするためだ」
「ちょ、ちょっと待って!?」
ユイは慌てるが、アレンはすでにロープを手に持っている。
「俺が動きやすいように、お前を固定する。ロープで背中にしっかり縛るから、落ちることはない」
「え、えぇ!? そんな……恥ずかしいよ!」
「恥ずかしがってる場合じゃない。時間がないんだ」
アレンは冷静に言いながら、ロープを手に取る。
ユイは頬を赤く染めながらも、アレンの真剣な目を見て、それ以上は何も言えなくなった。
「……うん……」
「よし」
アレンは膝をつき、背中を向ける。
「ほら、乗れ」
ユイは躊躇いながらも、そっとアレンの背中に手を回した。
その瞬間、彼の体温がじんわりと伝わってくる。
「……本当に、私……足手まといじゃない?」
「お前がいなきゃ、どこに行けばいいのかもわからない。だから、必要だ」
その言葉に、ユイの心が少しだけ軽くなった。
「……ありがとう」
「礼を言うのはまだ早い」
アレンはユイの体をロープでしっかりと固定する。
「よし、これで落ちることはない。しっかり掴まってろよ」
「……う、うん……!」
ユイはしっかりとアレンにしがみつく。
「じゃあ、行くぞ」
そう言うと、アレンは地面を蹴り、闇の中へと走り出した。
夜明け前の空の下、二人はミリアの救出へ向かっていく。
ついにアレンがミリア救出へと動き出した!




