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第27話 攻略されるべきもの

 それから、三十分ほど経って。


――ぴろりーん♪ ユーガッタメール♪


 というアナウンスが施設内に響き渡った。


『メッセージ送っといたぜ』

「……よし。ありがとう」


 僕は早速、通信室内にあるプリンターのような装置から一枚の紙切れが吐き出されているのを見つけて、若干食い気味に用紙を手に取る。

 その内容はこうだ。



【やあやあ、ひまりさん。みんなのアイドル豪姫ちゃんです。

 ちょうしどう?

 わたしはふつうです。


 きゅうに学校やすむようになってごめん。

 でもしょうがなかったので、そっちもしょうがないとあきらめて。

 なんでかっていうと、私はいまちょっといろいろあってスマホの中の世界(?)的なところにいます。びっくり。

 ちなみにいろいろあってしばらく帰れないし帰らない。

 じゃあものすごいピンチかっていうとそうでもないぞ。

 いろいろオモシロいものもいっぱいあります。なので、よいところ。

 だからシンパイしなくておっけー。


 ところで。

 カイリってやつ(わりといいやつだよ)がいま、あたしとおなじくスマホのなかにいてこまっているそうです。

 そんで、そのスマホっていうのが、ひまりのスマホなんですよ(笑)。ウケる。

 せっかくお父さんにスマホかってもらったのに、ついてないね。

 でもついてないのはカイリもいっしょ。できればてつだってやりたまえ。

 カイリはちょっとヘンタイっぽいけどヘンタイではない。


 あと、ちょっとこっちではチャンピオンかえないので、できればすてないでとっておいてください(ちょう重要ポイント)】



「…………………………………………これは」


 僕は眉間を抑えて、


「お前この文章、マジか」


 いい年した高校生が書く内容とは思えん。


「豪姫ってひょっとして、現国の成績は……」

『答えがぼんやりした教科はニガテだけども? 何か問題ある?』

「問題、………いや、お前がそれでいいなら構わないんだが……」

『でもあたし、友だちにメール送る時はいっつもこんな感じだぜ』


 そうか。

 それならむしろ、この特徴的な文面が豪姫らしさの証明にもなるか。


「それでは、陽鞠が起き次第、この内容が伝わるように手配しておく。……ゴウ、頼めるか?」

「お望みとあらば」


 豪姫そっくりの“運命少女”は、一連の会話をすべて聞いた上で、こちらの協力を申し出てくれた。突然現れた邪魔者をさっさと追い出したいだけかもしれないが。


「やれやれ……」


 呟き、肺の中の空気をすべて吐き出す。


――これでなんとか、最初の関門は突破できそうだな。


 もちろん、まだまだ課題は山積みだ。

 その後の時間も、決してのんびりしている訳にはいかなかった。

 僕はそこでいったん通信室を出て、改めて施設内の探索を進めることにする。



 施設の間取りは、事前に豪姫から聞いていたものとさほど変わらなかった。

 地下深い施設の中で生きていくための各種設備がある”生存戦略室”。

 アーティファクトを復元するための機材が並んだ”遺物復元室”。

 地上へ出る時に使う、扉型の転送装置がある”外界遠征室”。

 十人がけのテーブルがある”食堂”。

 先程僕も利用させてもらった”シャワー室”。

 テニスコートぐらいの広さの”トレーニングルーム”。

 様々な資材や、アーティファクトが眠っている”倉庫”。

 新たな”運命少女”を生み出すための”キャラクターメイキングルーム”。


「なるほど。やっぱり感情調整システム(ムードオルガン)とか掃除ロボットとかはない、……か」

「なんですそれ」


 首を傾げるゴウ。


感情調整システム(ムードオルガン)は、特殊な音波を発することで近くにいる者の精神に働きかける装置だ。ストレスをある程度軽減できて、少女たちの作業効率が上昇する。……掃除ロボットはその名の通り、施設内の汚れを自動で掃除してくれるロボットだ」

「へえ。よくご存知で」

「そりゃあご存知だとも。自慢じゃないが、攻略サイトの内容はほとんど暗記しているからな。……ちなみに感情調整システム(ムードオルガン)はレベル6”ウエノ”、掃除ロボットはレベル3”ヒガシナガサキ”に部品と設計図があるから、覚えておくといい」


 一通り下見を済ませた後、最初に僕が向かったのは、生存戦略室である。


「なあ、ゴウ。ところでさっき君、”水がなくなった”と言っていたな」

「ええ。どこかの闖入者さんが、私の一週間分の飲料水を惜しげもなく使ってくれたもので」

「……そりゃ悪かったな」


 ということはこれまで、施設内に備蓄されていた水だけでやりくりして来たのか。


「では早いとこ、浄水機能をオンラインにしよう」

「じょうすいきのう……?」

「難しく考えなくていい。知力が300もあれば数分で終わる作業だ」


 僕は部屋中央に置かれたタッチパネル式の操作卓の前に来て、


「では、頑張れ」

「えっ。私がやるのですか?」

「うん。どんな菌が付着しているかわからないし、僕はこんなものに触れたくないから」

「……しかし、……」


 ゴウはちょっとだけタッチパネルに触れてみて、


「私はこれに触れたことがありませんし、やり方がわかりません」

「だが、必ずできるはずだ。なにせ知力が最低値の”運命少女”でも、最大で三十分もかからないコマンドなんだから」


 言って、僕はパネル上部に、バッテンマークがついた水道管の絵が三つほど並んでいることに気づく。


「試しにその絵をタップしたらどうだ?」

「……しかし、下手に触ったらバクハツするかも……」


 なんだその、パソコンを毛嫌いするお年寄りみたいな発想は。


「安心しろ。そういうイベントが起こったという話は聞かない。――単純な話だよ。地下水を組み上げる機能のオン・オフを切り替えるだけなんだから」

「でも、……なにが起こるかもわからない装置に触れるというのは……」


 それでも尻込みしつづけるゴウ。

 ええい、まどろっこしい。


――ひょっとしてコマンド選択後の待ち時間って、”運命少女”たちがこうしてぐだぐだ迷っている時間なのか?


 僕は嘆息して、バスタオルを巻いた手でゴウの腕をつかみ、


「あっ、ちょ、」


 さっとパネルに触れさせる。

 すると、部屋の外から「ゴウンゴウンゴウンゴウン……」という音が聞こえ始めた。

 操作卓を見ると、施設の貯水量を現すパラメータが徐々に増えていくことに気づく。


「ほらな。大したことじゃない」


 なにせこれは元々、ただのゲームなのだ。

 ゲームは攻略されるためにある。僕のようなゲーマーに。


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