第28話 二人の秘密
その後僕たちは、”生存戦略”コマンドに関連したいくつかのシステムをオンラインにすることに成功する。
電気、水、食糧、酸素。
これらの供給機が稼働していることを確認して、僕はひとまず安堵のため息を吐いた。
「これで……今後暮らしていくのに十分な資源が生み出されていくはずだ」
「そうですか」
この数時間で、ゴウと僕はかなりうまくやれた気がする。
僕が『運命×少女』のシステムに慣れているのもあるが、ゴウの基礎パラメータがかなり高いことも無関係ではない。
ゴウは、少し背中を押してやるだけで次々と仕事を覚えていった。
「……あとは、レベル1“トコロザワ”の遠征を何度か成功させて、戦闘用のスーツと低レアでも良いから何らかの武器を手に入れる必要がある。そうして装備が整ったら、徐々に探索範囲を広げていくんだ。その後、発電機を改良し、電力のリソースを十分に確保することに成功したら、遺物復元関係の部屋をオンラインにしていこう。これでアーティファクトを修理できるようになる。アーティファクトを利用できるようになれば、かなりこの施設も暮らしやすくなるはずだ」
「なるほど……」
ゴウは熱心にメモを書き付けている。
正直、ちょっと気分が良かった。こちとらゲームの攻略知識を披露しているだけなのに、この場所ではそれが直接、生活の知恵となるのだ。
――これなら、しばらくこっち側にいても楽しいかな。
などと考えたりして、慌ててその考えを打ち消す。
いくら大好きなゲームの世界にやってきたからといって、現実の生活をないがしろにするのは間違ってる。
それに何より、ここには陽鞠がいない。陽鞠が居ない世界など、何の価値もない。
「………おや」
と、そこで、メモを取っているゴウの手が止まった。
「どうやら、マスターがお呼びのようです」
「マスター? 日野さんが? ……わかるのか?」
「ええ、もちろん。施設のどこにいても、呼ばれれば声が頭に聞こえてきます。“秘書役”ですから」
「……そうか」
言われてみれば、もうそんな時間か。
「じゃあ、手はず通り頼む」
「おまかせを」
そして、すたすたと歩くゴウの背中を見送る。
そのまま、十数分ほど待って。
同じくすたすた歩いて帰ってきたゴウが言うことには、
「なんか、めっちゃ驚いておられました」
「……まあ、当然そうなるよな」
「『どひぇぇぇぇぇぇぇぇ』とのことです。あと、『何かのテレビドッキリ企画ですか?』とも」
苦い顔を作る。
疑われるのは無理もない。だが、何かの冗談だと思われるのはまずかった。
「ですが、例の手紙を読み上げましたところ、マスターなりにいくつか心当たりがあったようで。現在は灰里さんが現れるのを待っておいでです」
「…………そうか」
内心、ほっとする。僕たちが今置かれている状況は恐らく、冗談半分で解決できるようなものではない。
ゴウへの感謝の言葉もそこそこに、僕は件の部屋へと足を踏み入れた。
時刻を見ると、朝の七時十分を回ったところ。
部屋の一角には、先ほども見かけた装置があり、その中に、一人の少女の姿が見えた。
彼女は僕と目が合うと、「私の年収、低すぎ…?」のネット広告みたいなポーズで、
『……嘘ッ…………』
と、言う。
『――え? え? これ、本物?』
「もちろんだ」
僕がそう言うと、陽鞠はちょんちょん、と、人差し指の先で僕の腹部あたりに触れた。
「くすぐったいから、やめてくれ」
だが、ネコの時と違って不思議と悪い気はしない。
『…………………う、うわぁ……感触がある……………』
そして陽鞠は、少し泣きそうな表情になって、
『つまり二人は、ふしぎの国の住人だったのですか?』
「……えっ」
僕は一瞬だけ言葉に詰まって、
「いや、そんなことはない。ゴウから何を聞いたか知らんが、僕たちはそっち側の人間だよ」
と、そこで僕は言葉を切って、陽鞠の顔がこれまで見たこともない形状になっていることに気づく。
ぷくーっ、と。
危機に瀕したフグが身体をふくらませるように、ほっぺたを丸くしているのだ。
『ちょっとズルくないですか? 二人だけでそんな、オモシロゲなコトしてるなんて』
「オモシロ………? ――いやいや! これは決してそんな、お気楽な感じの事態じゃなくて、」
『でも、二人の間で秘密があったのは事実でしょう?』
「……まあ」
『しかも、……そこ、『運命×少女』の世界なんでしょう? ってことは、なんでも言うことを聞く女の子ばっかりの世界ってことじゃないですか。それって、……な、な、な、なんだか、ちょっとえっちです……。えっちなのはいけません』
「まて。まってくれ。僕は断じてエロなどではない。むしろ僕ほどの紳士はこの世にいないぞ。現にこの前女の子に抱きつかれた時だって……」
『だ、抱いたっ? 女を? まるで女心を弄ぶジゴロのように?』
しまった。
また余計なことを。
なんだか想定外の方向で頭痛がしてきたぞ。
――やっぱり、一から順を追って話す必要があるか。
そして僕は大きくため息を吐いて、話し始める。
そもそもの発端、――狩場豪姫がスマホの中の住人となったあの日のことを。




