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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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閑話07:マイリーン・アドニ①

 私は平凡な家庭に育った人間だったと思います。

 食堂を経営する家の次女として生まれ、上に兄が二人、姉が一人、下に弟が二人、妹が一人の七人兄弟です。

 今はピル=ピラに住んでいますが、出身はカーネラル王国の南部の街、カノーラディア。

 広大な小麦の穀倉地帯が街の周囲に広がり、穏やかで気候も温暖で非常に過ごしやすい地域です。


 そんな何処にでもある平民の家庭で育った私ですが、十歳の時に治癒魔法の適正がある事が判明しました。

 たまたま家の裏に残飯を貰いに来る野良猫が怪我をしていた時です。

 凄く心が痛くなって治療しようと思い抱き上げた時、僅かに野良猫の体が淡い光に包まれました。

 野良猫の怪我が不思議と治ったのです。

 最初は何が起きたかさっぱり分かりませんでした。


 父と母に相談するとそれは治癒魔法では無いかとの事でした。

 父の知り合いの神官の方に見てもらうと治癒魔法の適正があると言われました。

 この時、私は凄く喜びました。

 治癒魔法の適正があるとアルスメリア神教の神官になると待遇がかなり優遇されるのです。

 平民である私はこのまま実家の食堂を手伝うか、嫁いだ先の家のお仕事を手伝う道しか無いと思っていました。

 特に平民の長男以外の将来はかなり不安定なものです。

 実家から出たら仕事に在りつくのでさえ苦労するなんて事もあります。


 そして私に神官と言う平民には手が届かない職業への道筋が生まれたのです。

 神官は一般的な平民の仕事に比べると給金がかなり良いのです。

 平民の一般家庭の収入が銀貨二十枚程なのに対して神官の見習いで銀貨三十枚、神官になれば銀貨五十枚も頂けるのです。

 それだけあれば少し仕送りをして家族に楽をさせてあげる事が出来ると思いました。


 我が家は街の何処にでもありそうな小さな食堂なので貧乏ではないものの裕福でもありません。

 私は自分の手に降って来たチャンスを逃したくないと思い、必死に勉強をしました。

 何故、そんなに必死になったのかと言うと、治癒魔法が使えて成績が良ければ王都の学院への推薦が取れるからです。

 王都の学院を卒業して治癒魔法が使えれば神官への道が確実なのです。


 ただ平民が普通に王都の学院に入学するには費用が高くて我が家の金銭事情ではまず無理です。

 そこで特待生としてカノーラディアの十五歳以下の平民の子供が通う下級学院で推薦が得られれば学費と寮費が免除されるのです。

 その枠を獲得する為に必死でした。

 家族も私の神官になりたいと言う将来の為に応援してくれました。


 そんな勉強の甲斐があってか、王都の学院の推薦を得られて、無事王都の学院に入学しました。

 王都の学院の五割は貴族の子供達です。

 学院の方針として生徒の平等が謳われていますが、これは厳密な平等ではありません。

 これはあくまで学ぶ権利があると言うだけで身分が平等と言う事はありません。

 その為、私の様な田舎出身の平民の学院生への扱いは余りよくありません。

 使いっ走りの様な扱いをされる事も珍しくありません。

 それでも将来の為をと思えば我慢出来ました。

 寧ろ、貴族の人に嫌われたり目の敵にされる事態になっては将来も何もありません。


 唯一、学院にいた時に大変だったのがフェルディナント伯爵家の次男であるヴァン・フェルディナント様とペアで実習をする事になった時です。

 ヴァン様は容姿端麗で剣の腕も当時の王国の騎士団長から絶賛されており、性格も貴族の方とは思えないぐらいに周囲への気遣いが出来るお方なので、人気が出ない訳がありません。

 私のいる世代に王族の方がいらっしゃらなかったので、貴族のご令嬢達のヴァン様へのアピールっぷりは凄まじい物でした。

 それと同時に足のっ引っ張り合いも泥沼の様相を呈していました。

 平民の女子学院生はヴァン様と関わらない様に必死に避けてきました。


 それが卒業を控えた年の遠征の探索実習でヴァン様とペアになってしまったのです。

 私は実習の担当の先生に必死にペアの変更をお願いしたのですが、全く取り合ってもらえませんでした。

 私の様な平民がヴァン様とペアを組んだら今後の平穏な学院生活が崩壊するのではと思いました。


 しかし、不思議な事に陰口は叩かれるものの直接的な嫌がらせは一切ありませんでした。

 後で分かった事ですが、ヴァン様が私に嫌がらせをしない様に手を回してくれていた様です。

 平民と言う身分ながらヴァン様に恋をしてしまいそうになりました。

 実際、恋に落ちていました。

 でもそれは願ってはいけない恋です。

 私の初恋は決して実らない物だったのです。


 少し甘酸っぱい経験をしながら無事に学院を卒業した私は念願叶い神官見習いとなりました。

 神官の見習いと言っても私の上になった神官が文官だったので日々のお祈り以外は事務処理の仕事がほとんどでした。

 偶に治癒魔法を使う人の手が足りない時に神殿の外で治療行うぐらいで神殿の中にいる毎日でした。

 でも給金がたくさん頂けたので毎月欠かさず家族へ仕送りを行っていました。


 そんな生活が二年続いて私は晴れて神官になりました。

 神官になって最初に任された仕事は孤児院の運営でした。

 神教の教えの一つに慈愛と救済とがあり、その一環として各地の街で孤児院を運営しているのですが、その一つを任される事になりました。

 最初は何故、私がこの仕事に任命されたか分かりませんでした。

 いざ孤児院に出向き仕事を始めると理由が分かりました。


 それは平民的な金銭感覚を持っていたからです。

 孤児院の運営には神教から一定の予算が割り振られていますが、決して余裕のある金額ではありません。

 これを上手く運用しようと思うと貴族出身の神官ではまず無理です。

 私は幸い食堂の娘だったのでお店の経営を間近で見ていました。

 それが上の人から評価された様です。


 孤児院での生活は大変でした。

 前任者は運営がダメな方だった様で二年ぐらいはその尻拭いに東奔西走していました。

 街の人からは神官なのに金に意地汚いと言われながらも必死に立て直しました。

 運営が安定すると余裕が出てきたお金を子供達への教育へ回しました。

 空いている時間を見つけては子供達に読み書きを教えたりと多忙な毎日でした。

 それでも充実した日々だったと思います。


 赴任して五年程経ったある日、とある辞令が下されました。

 それは私の運命を大きく変えた聖女となる少女の教育係でした。

 神殿の説明ではその少女は王国南西部にある鉱山で発展したディートの街から少し離れた所にある村に住んでいるそうです。

 その少女を王都で教育するに辺り私が神教に関しての教育を行うと言う事でした。

 教育を行うのが何故、王都で行うかと聞くと少女は孤児で後見人としてカーネラルの戦乙女(ワルキューレ)として名高いリアーナ様がされるからでした。

 更に話を聞くと住み込みで教育を行う事になっていました。

 王国の英雄の家に平民の私が一緒に住むなんて恐れ多い事だと思いましたが、辞令が出てしまった以上、どうにもなりません。

 追加でその少女を迎えに行くのに私も行く事になりました。

 もう私の胃がストレスで大変な事になりそうでした。


 そして私は面通しと言う事でリアーナ様にご挨拶に伺う事になりました。

 平民の私は侯爵家の方の家に窺うのは初めてで凄く緊張していました。

 実際にリアーナ様のお屋敷は王都でも一、二を争う程の大きなお屋敷で、元々は王家の所有のお屋敷だったのですが、ランデールとの戦の功績で下賜された物です。

 私がここで住み込みで働くと思うと立ち眩みがしてきました。


 執事の方に案内され応接室で緊張しながら待っているとリアーナ様が来られました。

 リアーナ様のお姿を見た時、私は衝撃を受けました。

 銀色に輝く美しい髪は窓から差し込む光で輝きを増し、芯の通ったその立ち姿は優雅、且つ凛々しく、私は目を奪われてしまいました。

 女性でありながらここまで同姓に見惚れてしまった事は過去にありません。

 着ている騎士服の所為で私には一瞬、御伽噺に出てくる王子様と錯覚しそうなぐらいでした。


「忙しい所、挨拶に来てくれてありがとう」


 リアーナ様に声を掛けられた私は緊張しすぎて声が出ませんでした。


「あ、あの、リアーナ様の御子女の教育を任される事になりましたアルスメリア神教の神官のマイリーン・アドニと申します!」


「マイリーン殿か。私は第五騎士隊を預かるリアーナ・ベルンノットだ。宜しく頼む」


 侍女の方がお茶を運んできてくれるのを横目に何を話したら良いか分からず黙ってしまいました。


「まぁ、緊張しないでくれ。独身でさもしい女だ。同じ独身同士、仲良くやろう」


「は、はぁ……」


 リアーナ様の言葉に間の抜けた返事しか出来ませんでした。

 私の思考は真っ白でした。


「実は君との面通しをお願いしたのは私の方からなんだ。当面、仕事が暇だから君と一緒に娘を迎えに行こうと思ってな」


 この方は今、何て言ったのだろうか?

 一緒に行くと言いましたよね?

 リアーナ様と一緒に一ヶ月以上一緒に馬車で旅なんて私の胃が本当に大変な事になりそうです。


「私は侯爵家長女と言う立場にありながら子供が産めない。当然、そんな女と結婚する奴なんていない。結婚はしなくても良いが子供は欲しいと思っていたんだ。まぁ、傍から見ればおままごとみたいな物かもしれんがな」


 少し疑問に思っていた事がありました。

 リアーナ様はこのお年で婚約者の話が一切ありませんでした。

 侯爵家の長女と言えば引き手数多の超優良物件です。

 婚姻を結べば恩恵も非常に大きい物ですし、貴族のご令嬢はそれが役目です。

 その為、子を成す事が出来ない娘と分かると扱いが酷くなります。

 家によっては廃嫡して籍から抜く場合もあるぐらいです。


「君の家族の事は少し調べさせてもらったよ。七人兄弟の次女で子沢山の家に生まれと言う事も」


 まぁ、貧乏子沢山と言いますか、何と言いますか、家族が多いのは事実です。

 それが何の関係があるのでしょうか?


「私はかなり不器用な人間だし子供と接するのが得意では無い。でも私の娘となるならたくさん愛情を注いでやりたいと思っている。そこで君に私に対してどの様に子供に接したら良いか教えて欲しいのだ」


「確かリアーナ様には妹様がお二人いらっしゃったと伺っておりますが……」


 リアーナ様は私の言葉に少し困った様な顔をされました。


「私には妹はいるが……何て言おうか……年が離れていてこんな私だから最初は兄と思われていたんだ」


 少し妹様の気持ちも分からなくは無いと思いました。

 リアーナ様の凛々しさは幼い子の視線から見れば王子様に見えるでしょう。


「一応、姉と思ってくれてはいるのだが、どうも私は男との比較対象で根本的には兄と思われている様で……。私自身も今思えば馬で遠乗りに連れて行く事が多く、もっと女性らしい付き合いをすれば良かったと思ってはいるのだが……」


 これは完全にアウトですね。

 妹様の憧れは完全にリアーナ様なのでしょう。

 私も十代の少女時代にリアーナ様に馬で遠乗りに連れて行ってもらったら間違いなく恋に落ちる自身があります。


「そこで君の様な人にお願いしたいと思ったんだ。頼めないだろうか?」


 侯爵家の人に頼まれて断る事なんて出来ないので頷くしかありません。

 教育係としてここに住み込む事になるからなるべく円満に進めたいので仕方がありません。


「畏まりました。未熟な身ではありますが、宜しくお願い致します」


「すまぬが頼む。早速、相談なのだが何かプレゼントを持って行きたいと思っているのだが、何が良いと思う?」


 私は首を横に振りました。


「ご子女になられる方は孤児と聞いております。プレゼントは一度お会いしてから決めた方が良いのではないでしょうか?」


 孤児の子供が侯爵家の人間の基準でプレゼントを送ったらきっと戸惑うでしょう。


「プレゼントよりも第一印象で母親と思ってもらえる様に致しませんか?」


「そ、そんな事が可能なのか!?」


 リアーナは身を乗り出した私に聞いてきました。


「やはり鍵は第一印象が大事だと思います。そこで迎えに行く時はドレスで行きませんか?」


「え?」


「もしかしてリアーナ様はドレスは余りお召しになられないのではないでしょうか?」


「うぐっ、それを言われると辛いがその通りだ。正直、ここ十年、ドレスを着た回数は両手で数える程しかない……。ドレスは動きにくくて苦手なんだ」


 思った通りですね。


「お綺麗で大変お美しいリアーナ様がドレスで迎えられたら喜ぶのではないでしょうか?」


 私の提案にリアーナ様は呆けて言葉も出ませんが、後ろに控えている侍女の方は私にだけ見える様に笑顔でサムズアップしています。

 きっとリアーナ様にお仕えされている方達もリアーナ様にもっと女性らしくなって欲しいと思っているのでしょう。


「妹様の二の舞を繰り返さない為にも必要な事だと思います。奥様」


 少し爆弾を投下してみます。


「お、お、奥様!?マ、マイリーン殿、な、何を言っているんだ!?」


 突然の爆弾投下にリアーナ様はもうこれでもかと言うぐらいに動揺しておられます。


「いえ、リアーナ様は結婚はされておりませんが、御子女を取られるのですから奥様とお呼びした方が良いかと思いましたので」


「ま、まだ、それは早いから。心の準備が……ふぅ」


「それと出来ればお迎えに上がる時はドレスをお召しになられた方が良いと思います」


「ド、ドレスを着るのか?いつもの騎士服で良いんじゃないか?」


 後ろに控える侍女の方から私に熱い視線を感じます。

 ここで押し負けるなと言わんばかりに。


「母親とはやはり女性の象徴です。先程も仰いましたが第一印象で母親と思って頂かないといけません。そうするとドレスを着て頂いた方がより母親と思われやすいと思います。それに騎士服を着た母親はほとんどいません」


「わ、分かった。善処しよう……」


 リアーナ様はぐったりと疲れた様子でソファーへもたれ掛かる。


「侍女の方にお願いがあります。移動の荷物に必ず奥様のドレスを準備して頂いても良いですか?」


「マイリーン様、畏まりました。奥様、折角の機会なので新しいドレスをお作りしましょうね」


 侍女の方から満面の笑みで了承を貰いました。

 これなら大丈夫でしょう。


「な、な、エ、エマまでいきなり奥様とはどうしたんだ!?」


「我々も奥様が養子とは言えお子を授かるのですから当然でございます。ドレスの件は既にベルナールが手配しに向ったと思いますので大人しく作りましょうね。ドレス選びの事をアレクシア様にもお伝えしないと行けませんね」


 ベルナールとはどの人でしょうか?

 この部屋の内容を何処かで聞いている人がいたのでしょうか?


「母上は関係ない!行ったら絶対に来るからやめてくれ!」


「奥様、アレクシア様はいつも心配されているのですよ。それにお子をお迎えしたら毎日ドレスをお召しになるのですから諦めて下さい」


 リアーナ様が完全に押し切られていますね。

 もう完全にグロッキーです。


「マイリーン様、申し遅れましたが奥様の侍女のエマでございます。以後、宜しくお願い致します。この度は誠にありがとうございました」


 エマさんのありがとうに色んな意味が含まれてそうですね。


「こちらこそ宜しくお願いします」


 思っている以上に上手く挨拶が終わり、その日は終わりました。




アリア「2016年も今年で最後!!」


ヒルダ「もう年の瀬ですね。みかん貰いますね」


ハンナ「どうぞ、どうぞ」


リアーナ「私も貰おうか」


ハ「こちらをどうぞ」


マイリーン「私も頂きますね」


ア「みんなみかんに夢中でスルーされてる!?」


ヒ」はむ……今年のみかんは甘くて当たりですね」


リ「全くだ。これだけ甘いのは中々無いな」


ハ「夜にはお蕎麦も準備してますから程々にして下さい」


マ「こたつで食べるみかんは別腹だからつい食べてしまいますね」


ア「本当に誰も私の話を聞いてないし!?そんな訳で来年も宜しくお願いします!!」


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